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02 切ない担当

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 自分が異世界転生したと自覚したのは、まだ幼い六歳程度のこと。

 私の幼馴染レックスが私を庇って怪我をしてしまった時に、やけに綺麗に見えた血の赤に魅せられて、鮮やかに小説の世界観だけが記憶に降りてきた。

 ううん……その時の現象を例えるならば、幼い女の子の頭の中に何十万字にも及ぶ情報の波が、いきなり押し寄せて来たのだ。

 すぐになんてそんな情報量を処理出来る訳もなく、私は呆気なく倒れ、知恵熱で何日か寝込み、周囲は「怪我をしたのはレックスなのに」と不思議そうにしていたらしい。

 記憶を取り戻した私は、これはあまり良くない転生先だと、まずは大きくため息をついた。

 なんだか、誰もが初めましてをしても、どこかで聞いたことのある名前だなと思っていたけど、私ったらアニメ化までされた超長編小説の脇役に転生していたのだった。

 私自身の前世のことは、なぜか記憶がもやがかかったようになり、判然としない。幸せではなかったような気がする。こうして、転生しても記憶に蓋をしたくなるくらい。

 せっかく生まれ変われたなら、幸せになりたいと思った。

 そして、私はそれ以来、猛然と薬師としての勉強を始めて、同世代の子たちと遊ばなくなった。

 なぜかと言うと、勇者レックスの幼馴染役であるデルフィーヌには、魔法薬師としての物語上とある重要な役割があった。

 彼女は冒険に旅立つ幼馴染みレックスたちをこころよく送り出した後、いつか戦闘職のレックスを自分が助けたい一心で魔法薬師になり、なんと皮肉なことに、それを使って彼女の恋のライバルである聖女エレオノールの命を救うことになるのだ。

 恋愛にはてんで鈍感な勇者レックスと、育ち良く清純な聖女エレオノールがお互いに恋心を抱いていることを悟り、私こと勇者の幼馴染デルフィーヌは何も言わずに身を引くことになる。

 読者である私たちは、健気なデルフィーヌの切ない恋心が、いつか報われますようにと祈ったものだ。

 けど、デルフィーヌは長い長い本編にもそれっきり姿を見せないし、何個かある後日談の番外編にも姿を見せない。

 勇者レックスが長い冒険を終えて、故郷の村に帰った時にも当たり前のように居なかった。

 そして、彼女が失踪してしまう直接の原因となったレックスも「あいつも、もしかして、誰か良い人見つかったのかな」と、呑気に仲間と話していた。

 ……私は、その場面を読んで、本当に悔しかった。

 最後の扉の鍵を体内に持つ聖女エレオノールの命が救われ、世界を守れたのも全部全部、デルフィーヌがレックスを好きだったから身につけた魔法薬の知識のおかげなのに!!!

 レックスは、何も知らない。だからこそ、読者は報われないデルフィーヌのいじらしさに涙してしまった。
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