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そして、私もようやく自分が今居る状況が掴めてきた。
ライアンは私に、是非と言って縁談を申し込んでくれた。けれど、その日の帰り兄と抱き合う私の姿を見て、恋人が居ると誤解してしまった。
誤解してしまったから、私と結婚しても『白い結婚』として肉体関係なく過ごし、二年後には解放してあげようと思っていた……?
「あの……その、ライアン。これって、もしかして……」
「そうなんだ。僕がずっと、勘違いをしてしまっていて、すまなかった……君の事が好きなんだ。ニコル。こんな僕と結婚してくれて、ありがとう。二年間、不安な気持ちにさせてしまって、本当にすまなかった」
「ライアン。私の事が好きなの……? 本当に?」
「こんなことで、嘘なんてつくはずないよ。ニコル。それに、君は理想的な妻として、僕のことを支えてくれた。実は僕は今までそういう素振りのなかった君が、例の恋人と、いよいよ会うのではないかと思っていたんだ。時期的に、おかしくないからね」
「あ……覚えていたのね」
あまりにも変わらない普通通りの態度だったので、ライアンは、もしかしたら二年の約束を忘れていたのかと思っていた。
「忘れるはずなんてないよ。僕が作った期限だったからね。けれど、君と暮らしている内に、どうしても離したくなくなったんだ。ニコル。君を愛するライバルが居るならば、正面からぶつかれば良いと……奪い取ろうと思ったんだ」
「それで、あんな風に兄に攻撃的な態度を? ライアン……」
「ああ。全て僕の誤解だったんだ。本当に恥ずかしい。君との日々も、二年も無駄にしてしまって……」
ライアンは可哀想なくらいに落ち込んで、項垂れてしまっていた。
私はそんな彼の姿を前に、心の中には様々な感情が湧いて来た。
初対面の時の冷たい態度、白い結婚で良いと言い放った気のない言葉。
あれもこれも、私に恋人が居ると思い込んでいて、自分が縁談を申し込んだことは翻せないから、せめて二年で解放してあげたいと思ってしたことだったの?
「……貴方って、とっても優秀なのに、大切なところで、とんでもない勘違いしていたのね。ライアン」
「ごめん。ニコル」
私は落ち込んでいる彼の大きな手を取って、それを握った。
「私は……別に構わないわ。それに、二年間も貴方と恋人気分で居れて、楽しかったわよ。今までは夫婦ではなかったものね。私たち」
少しだけ距離を空けた良くわからない関係。使用人たちだって、不思議だっただろう。別に仲が険悪という訳でもないのに、別々の部屋で寝ているだなんて。
「あの……そのことなんだけど、ニコル」
「何? ライアン」
「早急に、僕たちの問題を、解決するべきだと思うんだ。つまり、その……今夜」
「……待って。ライアン。今夜なの?」
「こういうことは勢いが大事だと聞くし……結婚式は二年前だ。もう、今夜しかないよ。ニコル」
私はつい数時間前まで二年間もの間、目の前の夫と別れる覚悟を決めていたのだ。
だと言うのに、今度はそんな彼と幸せになる覚悟を、ほんの短時間で決めなければいけないようだった。
Fin
ライアンは私に、是非と言って縁談を申し込んでくれた。けれど、その日の帰り兄と抱き合う私の姿を見て、恋人が居ると誤解してしまった。
誤解してしまったから、私と結婚しても『白い結婚』として肉体関係なく過ごし、二年後には解放してあげようと思っていた……?
「あの……その、ライアン。これって、もしかして……」
「そうなんだ。僕がずっと、勘違いをしてしまっていて、すまなかった……君の事が好きなんだ。ニコル。こんな僕と結婚してくれて、ありがとう。二年間、不安な気持ちにさせてしまって、本当にすまなかった」
「ライアン。私の事が好きなの……? 本当に?」
「こんなことで、嘘なんてつくはずないよ。ニコル。それに、君は理想的な妻として、僕のことを支えてくれた。実は僕は今までそういう素振りのなかった君が、例の恋人と、いよいよ会うのではないかと思っていたんだ。時期的に、おかしくないからね」
「あ……覚えていたのね」
あまりにも変わらない普通通りの態度だったので、ライアンは、もしかしたら二年の約束を忘れていたのかと思っていた。
「忘れるはずなんてないよ。僕が作った期限だったからね。けれど、君と暮らしている内に、どうしても離したくなくなったんだ。ニコル。君を愛するライバルが居るならば、正面からぶつかれば良いと……奪い取ろうと思ったんだ」
「それで、あんな風に兄に攻撃的な態度を? ライアン……」
「ああ。全て僕の誤解だったんだ。本当に恥ずかしい。君との日々も、二年も無駄にしてしまって……」
ライアンは可哀想なくらいに落ち込んで、項垂れてしまっていた。
私はそんな彼の姿を前に、心の中には様々な感情が湧いて来た。
初対面の時の冷たい態度、白い結婚で良いと言い放った気のない言葉。
あれもこれも、私に恋人が居ると思い込んでいて、自分が縁談を申し込んだことは翻せないから、せめて二年で解放してあげたいと思ってしたことだったの?
「……貴方って、とっても優秀なのに、大切なところで、とんでもない勘違いしていたのね。ライアン」
「ごめん。ニコル」
私は落ち込んでいる彼の大きな手を取って、それを握った。
「私は……別に構わないわ。それに、二年間も貴方と恋人気分で居れて、楽しかったわよ。今までは夫婦ではなかったものね。私たち」
少しだけ距離を空けた良くわからない関係。使用人たちだって、不思議だっただろう。別に仲が険悪という訳でもないのに、別々の部屋で寝ているだなんて。
「あの……そのことなんだけど、ニコル」
「何? ライアン」
「早急に、僕たちの問題を、解決するべきだと思うんだ。つまり、その……今夜」
「……待って。ライアン。今夜なの?」
「こういうことは勢いが大事だと聞くし……結婚式は二年前だ。もう、今夜しかないよ。ニコル」
私はつい数時間前まで二年間もの間、目の前の夫と別れる覚悟を決めていたのだ。
だと言うのに、今度はそんな彼と幸せになる覚悟を、ほんの短時間で決めなければいけないようだった。
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