ときめき♥沼落ち確定★婚約破棄!

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
14 / 20

14 追い掛けて来た王子様②

しおりを挟む
「えっ! リアム殿下? どうして、ここに?」

 そこに居たのは、ヴィクトルに追い返されたはずのリアム殿下だった。

 略式だろうけど王族らしい立派な服も薄汚れていて、状況から見ると城塞都市の高い壁をよじ登って来たのかもしれない。

 おっ……王子様だよね? 守られる立場でひ弱でも許されそうなのに、身体能力がすご過ぎて怖い。

 ……っていうか、この人、私が見た時から、ずっとデストレに居たの? 王族って、普通は公務で忙しくないの?

 私は彼を見て警戒を隠さずパッと立ち上がると、リアム殿下は必死な表情を隠さずに慌てて言った。

「まっ……待ってくれ。とりあえず、俺の話を聞いてくれ!」

 それは、無理ではない? だって、あんな風に婚約破棄された婚約者から、何の話を聞くの?

「わっ……私は、話はないです!」

 花畑の中を走り出そうとしたら、ぬかるんだ沼に右足を取られてしまった。必死で足を抜こうにも抜け出せず、へたりこんでしまった。

 嘘でしょう……やだもうっ……リアム殿下の前から去ろうとしたら、どうしてこうなるの? 恥ずかしい……穴ほって埋まりたい。

「レティシア。落ち着いてくれ。こういう沼は、慌てて抜け出そうとすればするほど、嵌まっていくものなんだ。ほら……大丈夫だ」

 リアム殿下は服や手が汚れるのも構わずに、助け出してくれた。私の勘違いでなければ、私に向ける表情や視線がすごく優しい。

 彼はハンカチも持っていたけれど、自分よりも足が汚れて座り込んでしまった私を先に拭いてくれた。

「この前も……転んでしまったのに、恥ずかしい……ごめんなさい」

「大丈夫だ。君は……本当に、そういうところも可愛い」

 不意に甘い視線を向けられて、危うく恋の沼に落ちそうになった。

 待って。待って……これって、私のこと……まるで、好きみたいに見えるけど?

 だって私たち、婚約破棄した王子様と、悪役令嬢だよね……?

「ごめんなさい……私、もし必要な手続きがあるのなら、ちゃんとします」

「え?」

 そう言えば、リアム殿下は婚約破棄した後に、罪を犯した私と話があると言っていたような気がする。

 けど、私は前世の記憶を取り戻したばかりで、彼に対し失礼なことをしてしまった。

「リアム様には、愛する人が居るんでしょう? だと言うのに、元婚約者の私を追い掛けるなんて、きっと……何か重要なお話が、あるんですよね?」

 リアム殿下は私の言葉を聞いて、暫しぽかんとしていた。超絶美形な王子様のぽかん顔って、とても珍しいよね。結ばれることのない元婚約者だけど、目の保養には変わりないわ……。

 私たちはしばらくお互い違う意図で見つめ合い、はっと我に返ったリアム殿下が片手を上げて首を横に振るまで続いた。

「いや、待て……待て待て待て。レティシア……君は記憶がなくなっているんだな。やはり、そうだったのか。ヴィクトルに操られるような、おかしな術でも使われたと思っていたが」

 記憶がなくなったことに、気が付かれた? それはそうだよね。実際ないし。

「きっ……記憶に混乱があることは、その通りです」

「やはり……ヴィクトルは、それを知っているのか?」

「いいえ。ヴィクトルには、それは言っておりません。けど……私は聖女様との仲を、引き裂くつもりはありません!」

 前世の記憶を取り戻し、この世界での常識も取り戻しつつある今、リアム殿下に貴族令嬢時代の記憶がないことを今初めて認めることになり、私は緊張してしまった。

 だって、リアム殿下……さっきは私に悪意がなさそうな味方っぽいムーブをしたけど、それって、まだ確定した訳ではないし……。

「いや、待て。どうか、落ち着け。レティシア。記憶を失っているんだろう? 君のその話は誰に吹き込まれた? あの婚約破棄は、演技で偽装だ。必要あってやったことで、俺はレティシアを裏切ったことは一度もない」

「え?」

 今度は、私はぽかん顔をする番だった。自分では見えないけど、ぽかんとしていると思う。

 だって、そうせざるを得ないっていうか……。

 ……偽装婚約破棄って何?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
 王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

処理中です...