3 / 20
03 素敵な辺境伯①
しおりを挟む
「……ヴィクトル。今、大変なはずだ。デストレ辺境伯の君が、何故ここに居る?」
信じられないと言わんばかりな表情の王子様リアム殿下は、私が転んで伏せていた短い間に階段を下りていた。
私にとっては初対面に近い人なので、ここでどんなに嫌われていたり恨まれていたりしようが、心は痛むはずはない。だって、婚約破棄済みだし、好かれることはないと言い切れる。
正直、美形王子様で、目の保養で素敵ー♡ とは、なってしまうけど、芸能人と一緒で、顔と名前を知っているだけだもの。
「……急な勅命で陛下に呼ばれたもので、王太子たるリアム殿下にも、こうしてご挨拶に。僕は臣下として十分に、礼は尽くしているはずです。殿下のこのような場に居合わせてしまうとは、驚きでした」
挑戦的なヴィクトルさんの言いように対し、リアム殿下は不快そうに眉を顰めた。
「……ヴィクトル。レティシアを降ろせ。彼女は罪を犯した。僕たち二人はこの後、話し合いをしなければならない……足を痛めて歩けないのならば、僕が代わろう」
あ……話し合い? 悪事についての取り調べとか、婚約破棄後の処遇を話し合うとか?
正直、困る……だって、何話したら良いの。私は前世含め婚約破棄されたのはこれで初めてだから、何分手続きがわからないけれど、そういうものなのかもしれない。
「……レティシア・ルブラン公爵令嬢に罪があるとするならば、先ほど十分に罰は受けたはずです。王太子から公衆の面前での婚約破棄? 未婚の貴族令嬢ならば、それは死刑宣告に近いではないですか……なんと、非道な……」
婚約破棄ってそういうものだしと、逆に冷静な私は変な知識があり過ぎなのかもしれない。怒っているヴィクトルさん対し、不機嫌なリアム殿下は重ねて言った。
「くどいぞ。ヴィクトル。先程の俺の言葉が、聞こえなかったのか? 今すぐにレティシアを離せ」
リアム殿下が近付いて手を広げたので、王族の彼がここまで言うのなら降りるべきかと、私は抱き上げてくれていたヴィクトルさんの腕から降りようと身じろぎした。
けれど、ヴィクトルさんは、腕に抱いた私を抱きしめたまま離さない。
……え? 王族に逆らって、この人は大丈夫なの?
指示に従わないヴィクトルさんは、淡々とした口調で続けた。
「リアム殿下。非常に申し訳ありませんが、それは出来ません。それに、現在レティシア・ルブラン公爵令嬢は、婚約破棄され貴方の婚約者ではない」
「……なんだと」
「つまり、このような状態で私的な交流を持つことは、適切ではないかと。何か書類が必要ならば、ルブラン公爵家へ後ほど届けさせてください。取り調べならば、僕も同席を望みます」
「では、これは命令だ。ヴィクトル。レティシアを離せ」
「確かに彼女も僕も、陛下や殿下に仕える貴族ではありますが、要請に対し拒否権のない使用人でもありません。それに、女性にこのような酷い仕打ちをしておいて、すぐに二人での話し合いも何もないと思われますが……紳士的な殿下はその辺は、どう思われますか?」
私は息を呑んだ。鼻で笑ってないけど笑ってそうなヴィクトルさん、強い。権力者であるはずの王子様へ、弁護士ドラマの弁護士並みな、まくし立て方をしている。
「ヴィクトル……」
婚約破棄したばかりの女性に対し、そんな命令などありえないと肩を竦めたヴィクトルさんに、リアム殿下は鋭い目つきで睨んだ。
「……それでは、これで失礼します。もし、このように故意に傷付けた彼女に何か伝えたいことがあれば、第三者を通してご連絡ください」
「殿下、しっ……失礼します!」
私はヴィクトルさんに続いて、リアム殿下に退出の挨拶をした。何故か、それを聞いて彼は信じられないといった表情になった。
……なっ……何? 悪役令嬢なのに、私、礼儀正しかった?
私の性格が今までどうだったかは知らないけど、普通挨拶は基本だよね?
信じられないと言わんばかりな表情の王子様リアム殿下は、私が転んで伏せていた短い間に階段を下りていた。
私にとっては初対面に近い人なので、ここでどんなに嫌われていたり恨まれていたりしようが、心は痛むはずはない。だって、婚約破棄済みだし、好かれることはないと言い切れる。
正直、美形王子様で、目の保養で素敵ー♡ とは、なってしまうけど、芸能人と一緒で、顔と名前を知っているだけだもの。
「……急な勅命で陛下に呼ばれたもので、王太子たるリアム殿下にも、こうしてご挨拶に。僕は臣下として十分に、礼は尽くしているはずです。殿下のこのような場に居合わせてしまうとは、驚きでした」
挑戦的なヴィクトルさんの言いように対し、リアム殿下は不快そうに眉を顰めた。
「……ヴィクトル。レティシアを降ろせ。彼女は罪を犯した。僕たち二人はこの後、話し合いをしなければならない……足を痛めて歩けないのならば、僕が代わろう」
あ……話し合い? 悪事についての取り調べとか、婚約破棄後の処遇を話し合うとか?
正直、困る……だって、何話したら良いの。私は前世含め婚約破棄されたのはこれで初めてだから、何分手続きがわからないけれど、そういうものなのかもしれない。
「……レティシア・ルブラン公爵令嬢に罪があるとするならば、先ほど十分に罰は受けたはずです。王太子から公衆の面前での婚約破棄? 未婚の貴族令嬢ならば、それは死刑宣告に近いではないですか……なんと、非道な……」
婚約破棄ってそういうものだしと、逆に冷静な私は変な知識があり過ぎなのかもしれない。怒っているヴィクトルさん対し、不機嫌なリアム殿下は重ねて言った。
「くどいぞ。ヴィクトル。先程の俺の言葉が、聞こえなかったのか? 今すぐにレティシアを離せ」
リアム殿下が近付いて手を広げたので、王族の彼がここまで言うのなら降りるべきかと、私は抱き上げてくれていたヴィクトルさんの腕から降りようと身じろぎした。
けれど、ヴィクトルさんは、腕に抱いた私を抱きしめたまま離さない。
……え? 王族に逆らって、この人は大丈夫なの?
指示に従わないヴィクトルさんは、淡々とした口調で続けた。
「リアム殿下。非常に申し訳ありませんが、それは出来ません。それに、現在レティシア・ルブラン公爵令嬢は、婚約破棄され貴方の婚約者ではない」
「……なんだと」
「つまり、このような状態で私的な交流を持つことは、適切ではないかと。何か書類が必要ならば、ルブラン公爵家へ後ほど届けさせてください。取り調べならば、僕も同席を望みます」
「では、これは命令だ。ヴィクトル。レティシアを離せ」
「確かに彼女も僕も、陛下や殿下に仕える貴族ではありますが、要請に対し拒否権のない使用人でもありません。それに、女性にこのような酷い仕打ちをしておいて、すぐに二人での話し合いも何もないと思われますが……紳士的な殿下はその辺は、どう思われますか?」
私は息を呑んだ。鼻で笑ってないけど笑ってそうなヴィクトルさん、強い。権力者であるはずの王子様へ、弁護士ドラマの弁護士並みな、まくし立て方をしている。
「ヴィクトル……」
婚約破棄したばかりの女性に対し、そんな命令などありえないと肩を竦めたヴィクトルさんに、リアム殿下は鋭い目つきで睨んだ。
「……それでは、これで失礼します。もし、このように故意に傷付けた彼女に何か伝えたいことがあれば、第三者を通してご連絡ください」
「殿下、しっ……失礼します!」
私はヴィクトルさんに続いて、リアム殿下に退出の挨拶をした。何故か、それを聞いて彼は信じられないといった表情になった。
……なっ……何? 悪役令嬢なのに、私、礼儀正しかった?
私の性格が今までどうだったかは知らないけど、普通挨拶は基本だよね?
396
お気に入りに追加
541
あなたにおすすめの小説
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
待鳥園子
恋愛
―――申し訳ありません。実は期限付きのお飾り婚約者なんです。―――
とある事情で王妃より依頼され多額の借金の返済や幼い弟の爵位を守るために、王太子ギャレットの婚約者を一時的に演じることになった貧乏侯爵令嬢ローレン。
最初はどうせ金目当てだろうと険悪な対応をしていたギャレットだったが、偶然泣いているところを目撃しローレンを気になり惹かれるように。
だが、ギャレットの本来の婚約者となるはずの令嬢や、成功報酬代わりにローレンの婚約者となる大富豪など、それぞれの思惑は様々入り乱れて!?
訳あって期限付きの婚約者を演じているはずの塩対応令嬢が、彼女を溺愛したくて堪らない脳筋王子様を悪気なく胸キュン対応でオーバーキルしていく恋物語。
「愛が重いです旦那様。物理的にも重いです」
黒木 鳴
恋愛
いろんな意味で愛が重たい旦那様と奥様のおはなし。
あまり恵まれた環境でなかったご令嬢が、彼女が初恋な高スペック・超絶美形な隣国の公爵様に攫われて溺愛を捧げられて幸せになります。旦那様はちょっと頭のネジが外れてます。愛が重たいあまりぶっとんでる旦那様と困惑しながらも旦那様が愛しい奥様。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる