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16 お昼休みのこと①

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「有馬ー」

 昼休みに入った途端、窓から身を乗り出して虎井くんは私の名前を呼んだ。

「あらあら、ゆっきーが来たわよ。澪」

「寧々ちゃん、もう。止めてよ」

 完全に面白がっている寧々ちゃんを置いて窓際の虎井くんに近づいた。

「虎井くん、何?」

「一緒に昼飯食おうぜ」

「え? でも、私いつも寧々ちゃんと食べてるから」

 渋る私の顔を不満そうに見て、寧々ちゃんの方に声をかける。

「寧々、有馬借りて良い?」

「良いよー。澪、私は他の人と食べているから行高と食べておいでよ」

 私本人の意志関係なく、二人の貸し借りされてる。むうと不当な扱いに頬が膨らみそうになる。机の上に置いてあった私のお弁当箱を持って寧々ちゃんが近づいた。

「……鷹羽くん、見てるよ。目がすごく辛そうだし、様子がおかしい。夕凪の奴も一緒。私はちょっとあの二人の様子見てみるから、行高とお昼行ってきなよ」

 寧々ちゃんはひそひそ声で耳元で言う。

 私は慌てて頷いて、鷹羽くんの方をそっと見た。

 今はこっちを見てなくて、自分の机の前に陣取っている夕凪さんと話しているみたいだ。その眼鏡をかけた整った横顔からは何の感情も見てとることが出来ない。

「俺は購買にパン買いに行くわ。ほら、有馬、行こうぜ」

 私のお弁当をサッと上から取ると、虎井くんは歩き出した。

 朝言ったように私を置いていかないよう注意して、ゆっくり歩幅を気を付けて歩いているみたい。そんなに器用そうに見えない虎井くんの仕草を見てなんだか微笑ましくなってしまった。

「弁当箱、持つよ」

「……これは人質だから、ダメ」

「人質? なんで?」

「これあったら有馬は他行けないだろう? だから人質」

 子どもっぽい可愛い顔を見てふっと笑ってしまう。人質なんかなくても何処にもいかないんだけどな。

 込み合う購買で慣れた様子でパンと飲み物を買って虎井くんは上に上がる階段に足を向けた。

「どこで食べるの?」

「穴場があるんだ、案内するよ」

 虎井くんはにやっと笑うと、上に向かって指をさした。

「わーっ……屋上はじめて来る!」

 私は思わず歓声を上げてしまった。青空と白い雲。絵にかいたような初夏の空。眩しくて思わず目を細める。

「喜んだ?」

 まるで褒めて褒めてって尻尾を振る犬のような虎井くんの様子に、ふふっとまた笑ってしまう。

「うん。なんで屋上の鍵持ってるの?」

「それは内緒」

 私の顔を覗き込みながら、虎井くんは悪戯っぽく笑う。いつも仏頂面とのギャップに思わずドキっとしてしまった。
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