モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子

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13 朝の衝撃②

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「……気をつける。寧々にも色々言われてたんだけど、本番は難しいな」

「本番?」

「俺。女の子と、今まで付き合ったことなくて」

 再び歩き出しながら、虎井くんは照れくさそうに言った。今度は私の歩幅に合わせてくれつつ、速度はゆっくりだ。

「そうなんだ?」

 こんなに格好良くてサッカー部なんだから、モテそうだけどな。確かに若干恐そうな雰囲気があるから、敬遠されているのかな。

「寧々にも、いつも言ってたんだ。彼女ほしーって、そしたら今回ちょうど良い子が居るって聞いて。付き合う振りだけだから付き合う練習に、ちょうど良いんじゃないかって」

 私は横を歩く虎井くんの顔を見上げた。うっすら頬が赤くなっている。

「そっか……相手が私なんかで悪いけど、練習? 付き合ってね」

 虎井くんは一瞬びっくりしたように私の顔を見ると顔を赤くしたまま、頷いた。


「じゃ。俺こっちだから」

「うん」

 C組の入口で、私は虎井くんと手を振って別れた。

 今日の天気とか他愛のない話をしながら登校したけど、なんていうか好印象だった。

 気を使って話してくれたのはわかったし、生意気そうな雰囲気とは裏腹にすごく優しそうだ。

 彼がその気になったなら、彼女なんかすぐに出来ちゃいそうだけどな。

「おはよう。澪」

「おはよう。寧々ちゃん」

 前の席の寧々ちゃんと挨拶しながら、私は着席する。通学バッグから教科書やノートなんかを取り出す。

「行高、どうだった?」

「……うん、優しかったよ」

「鷹羽くんより、行高の方が澪には良いんじゃない?」

 行高は、虎井くんの名前だ。フルネームは虎井行高。虎井くんは寧々ちゃんと名前で呼び合う仲? 二人はどんな関係なんだろう?

「虎井くんと寧々ちゃんって、どんな関係なの?」

「んー。幼馴染なんだけど、腐れ縁かな。保育園の頃から一緒。あいつ、小さい頃から泣き虫でさ、今はちょっとカッコつけてるかもしれないけど、中学校の頃は背が伸びなくてチビだったし、女の子意識しすぎて何も話せなかったんだよね。この高校って持ち上がり多いから、そういうイメージを最初から持たれているから、彼女が出来にくいのよ」

 ちなみに、鷹羽くんや私は外部受験だ。中学校からの持ち上がりって、そんなものなのかな。

「ふーん。格好良いのにね?」

 格好良いけど、可愛いっていうのが正しいのかな? 今日初めて間近で見た虎井くんの顔を、思い浮かべた。

 少しだけ赤くなった頬が、また可愛かった。

「そのまま、行高と付き合っちゃえば? 向こうから告白して来た癖に、意味不明の行動を取る奴より良いかもしれない」

 寧々ちゃんはそう言うと、チャイムの音を機に前を向いた。

 私はそのままぼーっと、黒板の前の教卓を見た。先生が教室へと入ってくる。

 その時、バタバタと足音がして引き戸がまたガラっと開いて、誰かが入って来た。

 眼鏡をかけた鷹羽くんだった。彼はよほど慌てていたのか、はあはあと大きく息をついている。

「鷹羽、お前がこの時間か、珍しいな。部活の朝練か?」

「はい。遅れてすみません」

 先生の注意の言葉に頷きながら、彼は自分の席へと進む。

 何かあったのかな。でも、私には関係ない話だった。

 鷹羽くんと私の間には、何の名前もついていない。友達でもなくて、ましては彼氏や彼女でも。

 ただのクラスメイト。それが、しっくりきた。
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