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特別SS
【プロローグ】第二部プロローグ
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くゆる煙になり天に昇っていく。いつか私もそうなるだろう。
空は曇っていてこの場に居る誰もかもの哀しみを現すかのように、灰色の雲から涙をこぼそうとしているようだ。不意に立ち止まり視線を上げたまま突っ立っていた私の手を大きな手が導くように取った。
「透子さん……行きましょう」
凛太さんの言葉に頷き、振り返りながら私を待っていた夫達の元へと急ぐ。黒い喪服を着ている皆は、いつもとは違うそんな雰囲気を醸し出していた。沈痛な表情を浮かべる親族に礼をしてから、待合室に進み、故人が骨になってしまう時間を待つ。周りには私たちと同じように、一人の女性を守るように何人かの男性が囲んでいた。
この世界は一妻多夫が原則で、そういうものだとはわかってはいるんだけど、こうやって多人数で集まる機会はそう多くなかった。深青の里という群れの所属する私たちは、その里のルールに基づいて動くことにはなるんだけど、女性である私が外に出なければいけない機会は過保護な夫達が極力排除しているからだ。
「透子、お茶要る?」
そう笑顔で言ってくれた春くんに頷くと、彼は用意されていたポットからお湯を入れて甲斐甲斐しく緑茶と茶菓子を前に置いてくれた。理人さんと雄吾さんと子竜さんの三人は小声で何かを話し合っている。彼らがそうしているということは、きっと私に聞かせたく内容なんだろう。
きっとリーダーの理人さんから、妻を守るように言われているだろう凛太さんと春くんの二人の間に座る私はなんとなく、周りを見渡した。
「本当にたくさんの人が居るね」
私がぽつりと言うと、両側の二人は顔を見合わせた。言葉を選ぶように凛太さんが答える。
「そうですね……人望のある方でしたから」
そう、すごく人望があり、この里でも一番発言力を持つ年老いた人狼が亡くなった、らしい。強い雄の死。
それは、群れの中での勢力図が塗り替わることを表している。だから、私の夫達、特に俳優の凛太さんや親の会社をそのまま継ぐ春くん以外の三人は、今後どう動くか、もしいくつかの派閥が出来るのなら誰につくべきか、それをきっと話し合っているのだ。
「……心配してるの? 大丈夫だよ。俺たちなら上手くやる。透子は心配しなくて良い」
そう机に置いていた私の手の上に自分の手を重ねると、春くんは自分に言い聞かせるようにそう、言った。
向き合った優しい栗色の目を見て、なんだか泣きそうになる。こんなに大事にされているのに、私は。
ざわりと周囲が一瞬驚き、そして水を打ったかのように静まり返り、緊張感に包まれた。そして、その人が現れた。私の夫達全員が身を強張らせるのを感じ、そして、隠しきれない敵意をその人へと放つ。
その人は真っ直ぐに私のところへとやってきて、あくまで余裕のある仕草で手を差し出した。
私は、その手を取るしかない。それはわかっていた。だから、その手に向けて自分の手を重ねる。すぐ近くに居る夫達の視線が集まる。それは強く心を抉るほどに切ない光をも秘めていた。
でも、そうするしかない。私の夫達を守るために、私は、そうするしかないってわかっているから。
空は曇っていてこの場に居る誰もかもの哀しみを現すかのように、灰色の雲から涙をこぼそうとしているようだ。不意に立ち止まり視線を上げたまま突っ立っていた私の手を大きな手が導くように取った。
「透子さん……行きましょう」
凛太さんの言葉に頷き、振り返りながら私を待っていた夫達の元へと急ぐ。黒い喪服を着ている皆は、いつもとは違うそんな雰囲気を醸し出していた。沈痛な表情を浮かべる親族に礼をしてから、待合室に進み、故人が骨になってしまう時間を待つ。周りには私たちと同じように、一人の女性を守るように何人かの男性が囲んでいた。
この世界は一妻多夫が原則で、そういうものだとはわかってはいるんだけど、こうやって多人数で集まる機会はそう多くなかった。深青の里という群れの所属する私たちは、その里のルールに基づいて動くことにはなるんだけど、女性である私が外に出なければいけない機会は過保護な夫達が極力排除しているからだ。
「透子、お茶要る?」
そう笑顔で言ってくれた春くんに頷くと、彼は用意されていたポットからお湯を入れて甲斐甲斐しく緑茶と茶菓子を前に置いてくれた。理人さんと雄吾さんと子竜さんの三人は小声で何かを話し合っている。彼らがそうしているということは、きっと私に聞かせたく内容なんだろう。
きっとリーダーの理人さんから、妻を守るように言われているだろう凛太さんと春くんの二人の間に座る私はなんとなく、周りを見渡した。
「本当にたくさんの人が居るね」
私がぽつりと言うと、両側の二人は顔を見合わせた。言葉を選ぶように凛太さんが答える。
「そうですね……人望のある方でしたから」
そう、すごく人望があり、この里でも一番発言力を持つ年老いた人狼が亡くなった、らしい。強い雄の死。
それは、群れの中での勢力図が塗り替わることを表している。だから、私の夫達、特に俳優の凛太さんや親の会社をそのまま継ぐ春くん以外の三人は、今後どう動くか、もしいくつかの派閥が出来るのなら誰につくべきか、それをきっと話し合っているのだ。
「……心配してるの? 大丈夫だよ。俺たちなら上手くやる。透子は心配しなくて良い」
そう机に置いていた私の手の上に自分の手を重ねると、春くんは自分に言い聞かせるようにそう、言った。
向き合った優しい栗色の目を見て、なんだか泣きそうになる。こんなに大事にされているのに、私は。
ざわりと周囲が一瞬驚き、そして水を打ったかのように静まり返り、緊張感に包まれた。そして、その人が現れた。私の夫達全員が身を強張らせるのを感じ、そして、隠しきれない敵意をその人へと放つ。
その人は真っ直ぐに私のところへとやってきて、あくまで余裕のある仕草で手を差し出した。
私は、その手を取るしかない。それはわかっていた。だから、その手に向けて自分の手を重ねる。すぐ近くに居る夫達の視線が集まる。それは強く心を抉るほどに切ない光をも秘めていた。
でも、そうするしかない。私の夫達を守るために、私は、そうするしかないってわかっているから。
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