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特別SS
あの日の雄吾目線
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雷が落ちたかのような衝撃だった。
「……雄吾? 聞いてる? とにかく早く帰ってきて。俺だって今にも走り出しそうなのを我慢しているんだよ」
必死の春の声を聞いて、愕然としたまま何とか返事を返すと終話のボタンを押した。さっきまで話していた実業家に一言断りを告げると制止の声も聞かずに車を置いた場所まで走り出した。
透子。透子。俺の、一番大事なもの。
俺は小夜乃の楽しそうなにこにこした顔を何の感情も持たずに見ていた。
俺の、透子を森の奥に置いてきたから迎えに行けと嬉しそうに話し出す。もちろんだ。今すぐに迎えに行く。
立場的に俺たちにGOを出すはずの理人は黙って手を握りしめていた。顔には出さないが、付き合いの長い俺には信じられないくらいの怒りを秘めているのがよくわかった。
勝手知ったる誘いの森だ。俺は割り当てられた方向を何時間も重点的に探した。だが、透子の気配はおろか匂いも辿れない。そろそろ違う方向へと足を踏み出した時、春の遠吠えが聞こえた。
“透子を見つけた!“
すかさず返事を返す。もう何時間も探していた。俺たちは夜の森でも別段支障ないが透子の安全を思うと胸が騒いだ。
“春、よくやった!“
「近づかないで! 絶対に来ないで! すこしでも近づいたら飛び降りるから!」
誰よりも愛しい人が俺を、俺たちを全身で拒絶していた。
「透子、落ち着くんだ。何があった? 俺達は何もわかっていない。……頼むから話してくれ」
すこしでも落ち着かせるように座り込みながら言った。泣きながら絞り出すように事情を話す透子に駆け寄って慰めてやりたい気持ちをぐっと我慢した。
小夜乃は透子に狼骸病を与えていた。あの性悪女のしそうなことだ。とにかく透子を落ち着かせるように俺たちは体を伏せてじっとしていた。
尖った枝に引っ掛けてしまっているのか傷だらけの手足が痛々しい。いつも可愛い服も台無しだ。疲れもあり興奮しているのかはあはあと大きく息をついて紅潮している顔を見て、こんな時なのに俺のあの部分がうずいた。
やがてやって来た阿仁の能力を借りた理人によって病は消し去られた。俺達はほっとして力が抜ける。透子もそうだったのだろう。張り詰めていたものが解ける様に崩れ落ちた。
それからは俺たちは巣に戻ることだけを考えた。凛太の背で透子が震えているのが見えた。早く。早く温かくて安全な場所に運ばなくては……。
治療師が来るまで俺達は言葉少なだった。あの明るい春でさえ押し黙ったままだ。望んだことではないとはいえ、この事態の原因となってしまった理人の昏い目を見れば誰もが何も言えなかった。
透子の怪我は酷かった。洗い流す時にもかなり痛みはあったと思うが、透子はそれについても何も言わなかった。
誰よりも大切な人が傷ついた痛みに比べれば、俺が今まで人生で負って来た傷などかすり傷に近い。
透子、君が居れば何も要らない。笑ってくれるなら今まで稼いだ金だって全部くれてやる。神様、どうか、俺のたった一人愛した人を傷つけないでくれ。
「……雄吾? 聞いてる? とにかく早く帰ってきて。俺だって今にも走り出しそうなのを我慢しているんだよ」
必死の春の声を聞いて、愕然としたまま何とか返事を返すと終話のボタンを押した。さっきまで話していた実業家に一言断りを告げると制止の声も聞かずに車を置いた場所まで走り出した。
透子。透子。俺の、一番大事なもの。
俺は小夜乃の楽しそうなにこにこした顔を何の感情も持たずに見ていた。
俺の、透子を森の奥に置いてきたから迎えに行けと嬉しそうに話し出す。もちろんだ。今すぐに迎えに行く。
立場的に俺たちにGOを出すはずの理人は黙って手を握りしめていた。顔には出さないが、付き合いの長い俺には信じられないくらいの怒りを秘めているのがよくわかった。
勝手知ったる誘いの森だ。俺は割り当てられた方向を何時間も重点的に探した。だが、透子の気配はおろか匂いも辿れない。そろそろ違う方向へと足を踏み出した時、春の遠吠えが聞こえた。
“透子を見つけた!“
すかさず返事を返す。もう何時間も探していた。俺たちは夜の森でも別段支障ないが透子の安全を思うと胸が騒いだ。
“春、よくやった!“
「近づかないで! 絶対に来ないで! すこしでも近づいたら飛び降りるから!」
誰よりも愛しい人が俺を、俺たちを全身で拒絶していた。
「透子、落ち着くんだ。何があった? 俺達は何もわかっていない。……頼むから話してくれ」
すこしでも落ち着かせるように座り込みながら言った。泣きながら絞り出すように事情を話す透子に駆け寄って慰めてやりたい気持ちをぐっと我慢した。
小夜乃は透子に狼骸病を与えていた。あの性悪女のしそうなことだ。とにかく透子を落ち着かせるように俺たちは体を伏せてじっとしていた。
尖った枝に引っ掛けてしまっているのか傷だらけの手足が痛々しい。いつも可愛い服も台無しだ。疲れもあり興奮しているのかはあはあと大きく息をついて紅潮している顔を見て、こんな時なのに俺のあの部分がうずいた。
やがてやって来た阿仁の能力を借りた理人によって病は消し去られた。俺達はほっとして力が抜ける。透子もそうだったのだろう。張り詰めていたものが解ける様に崩れ落ちた。
それからは俺たちは巣に戻ることだけを考えた。凛太の背で透子が震えているのが見えた。早く。早く温かくて安全な場所に運ばなくては……。
治療師が来るまで俺達は言葉少なだった。あの明るい春でさえ押し黙ったままだ。望んだことではないとはいえ、この事態の原因となってしまった理人の昏い目を見れば誰もが何も言えなかった。
透子の怪我は酷かった。洗い流す時にもかなり痛みはあったと思うが、透子はそれについても何も言わなかった。
誰よりも大切な人が傷ついた痛みに比べれば、俺が今まで人生で負って来た傷などかすり傷に近い。
透子、君が居れば何も要らない。笑ってくれるなら今まで稼いだ金だって全部くれてやる。神様、どうか、俺のたった一人愛した人を傷つけないでくれ。
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