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特別SS
あの日の理人目線
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君の命が助かるというのなら、迷わず自分の命を差し出すだろう。
透子を森に放り出した小夜乃の話を聞いた直後、僕達は迷わず獣化して駆け出した。
僕は何故か胸騒ぎがして、一人スピードを落とした。あの、やけに嬉しそうな小夜乃の口調が何か引っかかったからだ。
何かを隠している。そう確信した。
一人、小夜乃が居る巣へ戻ると夫達も帰って来ていた。当然のことだが、皆頭を抱えているようだ。その中から阿仁を見つけ、事情を説明し能力を借りた。阿仁は深青の族長候補であり同時に僕のライバルだ。それでも、何も言わずに能力を貸してくれた。
いつか、恩を返さなければならないだろう……彼の族長候補、という立場もこの件でどうなるか分からないが。
いつもより全くスピードが出ない。体が重い。阿仁の奴、トレーニングはしていないみたいだな。
それでも、先を急いだ。透子さんが最優先事項なのは、出会ってからずっとのことだ。
ある満月の日、珍しく三人で歩きにでも行こうか、となった時に見つけたあの宝物。絶対に失う訳にはいかなかった。
“ 透子を見つけた!”
春の遠吠えだ。僕もすかさず返事を返す。
“ 絶対に見失うな!”
声が聞こえた方角に進路を変えて必死に走り出す。この体の足の遅さがじれったく、いつになく僕を焦らせた。
やがてたどり着いた先で透子さんは、もうボロボロの状態だった。早くなんとかしなければ、という思いが先に立つ。
僕の読み通り、小夜乃は能力を使っていた。
疲れ果てていた透子さんは凛太の背中にしがみつくと、走っている間、じっと目を閉じているようだった。僕は凛太のすぐ後ろに張り付き、いつ何が起こっても万端な体制を取っていた。
とにかく、車に乗せると巣に向かって一直線だ。僕はその間に怪我専門の治療師に電話をかけてお金はいくらでも払うからとにかく早く来てくれ、と依頼した。
積んであった毛布に包まれた透子さんは、後ろから抱いている春の腕の中でじっとしていた。もう森を彷徨っていた時に涙を使い果たしてしまったのか、今はもう泣いてもいない。
それが、自分のせいだと思うと、死にたいくらいの後悔を感じた。
とにかく怪我している部分を洗い流さないといけない。僕は一緒に風呂場に入って透子さんの後ろに控えていた。あんな細い体で、どれだけ怖かったんだろう。心細かったんだろう。
着替えを終えた透子さんの周りに集まり、治療師を待つ。
僕はどれだけかかったとしてもお金を出すつもりだったが、他の四人も出すと言って聞かないので等分に出すことになった。
やがて訪れた治療師によって、体の傷は綺麗に癒えた。だが、心の傷は、能力では消せないんだ。
僕はともすれば後悔の海に沈みそうな心を奮い立たせて今まで以上に仕事に打ち込んだ。もう二度とこんなことが起こらないように立場を磐石にすること、それこそが自分の役目だと言い聞かせて。
夜帰って来て、透子さんの眠るベッドに滑り込む。寝顔は穏やかだ。夢の中では僕は手を出せない。起こさないようにそっと抱きしめて、心に誓った。
誰よりも、何より愛しいもの。例え何が起ころうと、必ず傷ひとつつけずに守ってみせる。
透子を森に放り出した小夜乃の話を聞いた直後、僕達は迷わず獣化して駆け出した。
僕は何故か胸騒ぎがして、一人スピードを落とした。あの、やけに嬉しそうな小夜乃の口調が何か引っかかったからだ。
何かを隠している。そう確信した。
一人、小夜乃が居る巣へ戻ると夫達も帰って来ていた。当然のことだが、皆頭を抱えているようだ。その中から阿仁を見つけ、事情を説明し能力を借りた。阿仁は深青の族長候補であり同時に僕のライバルだ。それでも、何も言わずに能力を貸してくれた。
いつか、恩を返さなければならないだろう……彼の族長候補、という立場もこの件でどうなるか分からないが。
いつもより全くスピードが出ない。体が重い。阿仁の奴、トレーニングはしていないみたいだな。
それでも、先を急いだ。透子さんが最優先事項なのは、出会ってからずっとのことだ。
ある満月の日、珍しく三人で歩きにでも行こうか、となった時に見つけたあの宝物。絶対に失う訳にはいかなかった。
“ 透子を見つけた!”
春の遠吠えだ。僕もすかさず返事を返す。
“ 絶対に見失うな!”
声が聞こえた方角に進路を変えて必死に走り出す。この体の足の遅さがじれったく、いつになく僕を焦らせた。
やがてたどり着いた先で透子さんは、もうボロボロの状態だった。早くなんとかしなければ、という思いが先に立つ。
僕の読み通り、小夜乃は能力を使っていた。
疲れ果てていた透子さんは凛太の背中にしがみつくと、走っている間、じっと目を閉じているようだった。僕は凛太のすぐ後ろに張り付き、いつ何が起こっても万端な体制を取っていた。
とにかく、車に乗せると巣に向かって一直線だ。僕はその間に怪我専門の治療師に電話をかけてお金はいくらでも払うからとにかく早く来てくれ、と依頼した。
積んであった毛布に包まれた透子さんは、後ろから抱いている春の腕の中でじっとしていた。もう森を彷徨っていた時に涙を使い果たしてしまったのか、今はもう泣いてもいない。
それが、自分のせいだと思うと、死にたいくらいの後悔を感じた。
とにかく怪我している部分を洗い流さないといけない。僕は一緒に風呂場に入って透子さんの後ろに控えていた。あんな細い体で、どれだけ怖かったんだろう。心細かったんだろう。
着替えを終えた透子さんの周りに集まり、治療師を待つ。
僕はどれだけかかったとしてもお金を出すつもりだったが、他の四人も出すと言って聞かないので等分に出すことになった。
やがて訪れた治療師によって、体の傷は綺麗に癒えた。だが、心の傷は、能力では消せないんだ。
僕はともすれば後悔の海に沈みそうな心を奮い立たせて今まで以上に仕事に打ち込んだ。もう二度とこんなことが起こらないように立場を磐石にすること、それこそが自分の役目だと言い聞かせて。
夜帰って来て、透子さんの眠るベッドに滑り込む。寝顔は穏やかだ。夢の中では僕は手を出せない。起こさないようにそっと抱きしめて、心に誓った。
誰よりも、何より愛しいもの。例え何が起ころうと、必ず傷ひとつつけずに守ってみせる。
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