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特別SS
あの日の春目線
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俺は固まっていた。
透子といつものように夕飯を作ろうと思って買い物袋片手にキッチンに入ると、シンクの上に「春くんへ」と書かれた手紙を見つけたからだ。
「透子?」
この巣に入れるのは俺達と透子しかいない。その中で俺を春くんと呼ぶのは透子だけだ。首を傾げながら手紙を開く。
『春くんへ この手紙を春くんが読んでいるということは私はまだ帰っていないんだと思います。私は小夜乃さんにどうしても言いたいことがあって、直接話したいと思っています。事情を知らないだろう、凛太さんと一緒に。もし……何かがあったらいけないから手紙を残します。連絡して出なかったら助けに来てください。 透子』
俺は手紙をくしゃっと握ると、胸ポケットに入れているスマホから透子に電話をかける。
「出て……出て……透子。お願いだ」
電源が入っていないアナウンスが流れて、俺は凛太の番号を探す。こいつも出ない。なんでだ。
慌てて他の三人に連絡を取る。仕事だろうがなんだろうが、大事な妻の一大事だ。すぐに帰る以外の答えは聞こえなかった。
理人、雄吾、子竜の順に帰って来る。皆事情を知りたがったが、俺だって詳しく知るわけがない。手紙を回し見た直後、車に乗って小夜乃の巣、誘いの森の麓まで向かった。
「おー、すごいことになってんじゃん、凛太を怒らせたんだ。バカだなぁ」
半壊した大きな巣に辿り着いた俺達は、足元を何かよくわからないもので固められている凛太を見つけた。小夜乃とその夫の姿は見えなかった。流石に逃げたかな。
「凛太、何があった」
理人が淡々と聞く。子竜がその変なものに手を当てて消し炭にしていく。あっという間に足が自由になった凛太は着ている服が破れるのも構わず獣化した。
「透子さんがあの女に連れ出されたんだっ。俺の命を盾に取られた、許せない。絶対に探し出してやる」
こいつ、いつもは冷静な癖にたまに言葉遣い悪くなるんだよな。俺はすかさず透子の匂いを辿ったが車庫で途切れている。ここから車に乗ったんだろう。
「待て、闇雲に探しまわっても仕方ない。とにかく……小夜乃を探す。事情がわかれば、あとは簡単なはずだ……殺すなよ」
理人は俺達に冷静に指示を出した。静かに怒っているのがありありとわかる。今誰かが口を出したら、誰であろうが叩き潰されるだろうことはわかっていた。
「……探す必要はなさそうだな……」
雄吾が唸った。小夜乃が乗っていた車が帰ってきた。
今思い出しても胸糞が悪いので事情を聞いたあたりは省く。ただただ小夜乃は可哀想な女だったとだけ。
俺達は獣化した後、慣れた誘いの森へと入って透子を探す。車で運んだとはいえ、透子はそのまま放置されているはずだ。
この世の中で、何より大事なもの。かけがえのないもの。誰にも替え難いもの。こんな森の中に一人で居るなんて……絶対に探し出す。
早く、早く、気が急く。久しぶりに走った森は爽快だったけど、透子の身の安全を考えたら一秒だって無駄に出来ない。
満月が明るくて、俺は方々に目を光らせた。少しだけ人間の血の匂いが混じる。透子……か? その匂いを辿ると、泣き出しそうな透子を見つける。
「透子!」
「来ないで! 絶対来ちゃダメ!」
泣き出しそうで、今にも崖を飛び降りそうな透子を見つけた。状況的にはかなり悪い。俺に近づくな? どうして。
とにかく、その身を守ることを最優先にすべきだ、と咄嗟に判断した俺は遠吠えをした。
“透子を見つけた!!‘’
やがて帰ってきた四つの返事を聞いて、もう一度透子を見つめる。手足は傷だらけだし、俺が選んだ可愛い服も枝で引っ掛けたのか、台無しだ。
少しでも落ち着いて欲しくて、勝手には近づかないという意思を見せるために座り込んだ。
透子はかなり体力を消耗しているのか、はぁはぁと息を吐いて、紅潮した頬が可愛い。
君だけは絶対に死なせたりしないよ。世界がどう変わろうが、どんな手を使ってでも守ってみせる。
透子といつものように夕飯を作ろうと思って買い物袋片手にキッチンに入ると、シンクの上に「春くんへ」と書かれた手紙を見つけたからだ。
「透子?」
この巣に入れるのは俺達と透子しかいない。その中で俺を春くんと呼ぶのは透子だけだ。首を傾げながら手紙を開く。
『春くんへ この手紙を春くんが読んでいるということは私はまだ帰っていないんだと思います。私は小夜乃さんにどうしても言いたいことがあって、直接話したいと思っています。事情を知らないだろう、凛太さんと一緒に。もし……何かがあったらいけないから手紙を残します。連絡して出なかったら助けに来てください。 透子』
俺は手紙をくしゃっと握ると、胸ポケットに入れているスマホから透子に電話をかける。
「出て……出て……透子。お願いだ」
電源が入っていないアナウンスが流れて、俺は凛太の番号を探す。こいつも出ない。なんでだ。
慌てて他の三人に連絡を取る。仕事だろうがなんだろうが、大事な妻の一大事だ。すぐに帰る以外の答えは聞こえなかった。
理人、雄吾、子竜の順に帰って来る。皆事情を知りたがったが、俺だって詳しく知るわけがない。手紙を回し見た直後、車に乗って小夜乃の巣、誘いの森の麓まで向かった。
「おー、すごいことになってんじゃん、凛太を怒らせたんだ。バカだなぁ」
半壊した大きな巣に辿り着いた俺達は、足元を何かよくわからないもので固められている凛太を見つけた。小夜乃とその夫の姿は見えなかった。流石に逃げたかな。
「凛太、何があった」
理人が淡々と聞く。子竜がその変なものに手を当てて消し炭にしていく。あっという間に足が自由になった凛太は着ている服が破れるのも構わず獣化した。
「透子さんがあの女に連れ出されたんだっ。俺の命を盾に取られた、許せない。絶対に探し出してやる」
こいつ、いつもは冷静な癖にたまに言葉遣い悪くなるんだよな。俺はすかさず透子の匂いを辿ったが車庫で途切れている。ここから車に乗ったんだろう。
「待て、闇雲に探しまわっても仕方ない。とにかく……小夜乃を探す。事情がわかれば、あとは簡単なはずだ……殺すなよ」
理人は俺達に冷静に指示を出した。静かに怒っているのがありありとわかる。今誰かが口を出したら、誰であろうが叩き潰されるだろうことはわかっていた。
「……探す必要はなさそうだな……」
雄吾が唸った。小夜乃が乗っていた車が帰ってきた。
今思い出しても胸糞が悪いので事情を聞いたあたりは省く。ただただ小夜乃は可哀想な女だったとだけ。
俺達は獣化した後、慣れた誘いの森へと入って透子を探す。車で運んだとはいえ、透子はそのまま放置されているはずだ。
この世の中で、何より大事なもの。かけがえのないもの。誰にも替え難いもの。こんな森の中に一人で居るなんて……絶対に探し出す。
早く、早く、気が急く。久しぶりに走った森は爽快だったけど、透子の身の安全を考えたら一秒だって無駄に出来ない。
満月が明るくて、俺は方々に目を光らせた。少しだけ人間の血の匂いが混じる。透子……か? その匂いを辿ると、泣き出しそうな透子を見つける。
「透子!」
「来ないで! 絶対来ちゃダメ!」
泣き出しそうで、今にも崖を飛び降りそうな透子を見つけた。状況的にはかなり悪い。俺に近づくな? どうして。
とにかく、その身を守ることを最優先にすべきだ、と咄嗟に判断した俺は遠吠えをした。
“透子を見つけた!!‘’
やがて帰ってきた四つの返事を聞いて、もう一度透子を見つめる。手足は傷だらけだし、俺が選んだ可愛い服も枝で引っ掛けたのか、台無しだ。
少しでも落ち着いて欲しくて、勝手には近づかないという意思を見せるために座り込んだ。
透子はかなり体力を消耗しているのか、はぁはぁと息を吐いて、紅潮した頬が可愛い。
君だけは絶対に死なせたりしないよ。世界がどう変わろうが、どんな手を使ってでも守ってみせる。
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