まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
130 / 151
第一部

しおりを挟む
 ああ、夢だ。そう思った。
 青空の中、色とりどりの風船が放たれる。その中の一つの赤い風船がたくさんの仲間から逸れてすごく印象に残った。どこに行くんだろう。

「透子さん」
 空を見上げていた私に後ろから声がかかる。私の銀髪の夫、理人さんだ。久祈さんから借りた能力でこの夢の中に入り込んでいるのかな。大きく風が吹いて彼の髪の毛を揺らした。
「理人さん……」
「可愛い夢ですね」
 理人さんはくすりと笑った。私達が居るのはどこかの建物の屋上だ。その下にはパステルカラーのまるでお伽話に出てくるような街並みが広がっている。
「あの、えっと死神は……」
 言葉を濁した私を見てにこりと微笑んだ。
「ええ。確かに透子さんの夢の中に居るみたいだ。兄さんの夢使いの能力はすごいですね……夢の中ではまるで万能の神のようだ」
 そう言うと手品のように右手から鳩を出して空中へと放った。綺麗な白い鳩だった。
 その行方を目で追う私の背中に手を当てると、理人さんは淡々と言った。

「来ますよ」

 黒いローブを羽織った何かがするりと空中から現れた。何かモヤのような、不思議な何かが取り巻いている。
 思わず後ずさろうとする私に理人さんは庇うように前に出た。
「大丈夫です。敵意はないようだ」
 じっとそれを見つめながら警戒するように辺りにも目を配る。

「ねえ、どうなの? くれるの?」
 不意にそれは言葉を発した。私は理人さんの背中に隠れるように死神と呼ばれるものをみた。
「え……何?」
 私は理人さんの服をぎゅっと握りしめた。彼は何も言わずにじっと前を見つめている。
「頂戴。あなたしか、今は持っていないの」
「何を、か教えてください」
 硬質な低い声が響く。風がつよくなって来た。

「元の世界に帰りたいの……その力を頂戴」

 私は目を見開いた。それを欲しがっていたから、私のところに?
「……なるほどね」
「あの、私。もう帰らないから、あげたいです。こんなに帰りたがっているのなら、出来るならあげたいです」
「……透子さん」
 理人さんは躊躇うように私を見た。
「……良いんですか?」
 私はその時、大事なことを思い出した。
「……でも、私が産む子は特殊能力を持てないことになるのかな……あの、他の夫達にも許可を取ったら、そうしたらあげます。だから……」
「透子さん、大丈夫ですよ。他の奴らも呼びましょう」
「……出来るんですか?」
 目を丸くした私に理人さんは微笑んだ。
「ええ。もちろん。何かあった時に呼び出せるように全員夢の中です」
 理人さんは手をくるりと回すと、空間に裂け目が出来た。

 ぼたぼたと音がして色違いの可愛い子狼が四匹落ちて来た。
「ちょ、理人。何でこの姿!?」
 一番下になった茶色の毛並みの春くんが不満そうに叫んだ。
「今何の危険もないからだ。透子さんも喜ぶと思った」
 淡々と理由を述べる理人さんに四匹は不満そうだ。
「透子ちゃんが喜ぶって言うならお前も同じ姿になれよ。今危険はないんだろ?」
 真っ赤な子竜さんがそう言った。理人さんは薄く笑うとキラキラした光を放って小さな銀色の狼になる。

「ふふっ、ふわふわして可愛い」
 私はすぐ傍の銀色の子狼を抱き上げた。他の四匹も足元に集まってくんくんと私の匂いを嗅いでいる。本当に可愛い。言葉にならない。
「僕も抱き上げて欲しいです。透子さん」
 焦げ茶色の凛太さんが珍しく甘えるようにそう言うから私は座り込んで五匹を満遍なく撫でる。
「それで……何で俺たちが呼び出されたんだ?」
 もっともなことを言いながら気持ち良さそうに撫でられる黒色の雄吾さんの声を聞いてはっとする。死神の存在を忘れてた。

「……楽しそうね」
 そう言うと、さっき現れた時と寸分変わらない姿で死神は待っていた。
「えっと、本当にごめんなさい……あの、この人に私の元の世界に戻る力をあげたいの、でも、そうすると私の子供に特殊能力がなくなっちゃうかもしれないの。それでも……良い?」
 皆は首を傾げると「何だそんなことか」となんでもないことのように頷き合って私の頬を舐めてくれた。
「透子さん、貴女の好きにすると良い。誰も文句は言わないよ」
 どうやら了解を得られたみたい。私は皆に微笑むと、両手を水をすくうようにして前に出した。そして目を閉じる。
 なぜだか私にはわかっていた。
 そうすると鍵が現れるって。

 目を開けると透明のきらめく大きな鍵が乗っていた。透明でガラスのような物で出来ている鍵。美しくて儚い何かを彷彿とさせた。一度きらりと光ってなぜかそれがさよならに思えた。
「あげる、ね」
 私がそれを差し出すといつの間にか彼女がそれを持っていた。
 ありがとう、そう聞こえた気がした。
 私はもう、元の世界に戻るための鍵を失ったけど後悔はしない。



 それから、私とおおかみさん達は、ずーっといつまでも、幸せに暮らしました。
 ね、だよね?



 第一部 完
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...