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第一部
神話
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やっぱり夢見は悪い。じっとりと汗ばんだ肌を持て余して私は上半身を起こした。
昨夜一緒に寝たはずの凛太さんが居ない。仕事のない日はいつも一緒に居てくれるのにな、なんだかちょっと違和感を感じた。
立ち上がって服を整えると凛太さんの部屋から自分の部屋に戻る。手早くシャワーを浴びて身支度すると、リビングに向かう。
「……間違いない」
理人さんの声だ。なんだか、人の気配がするから皆で集まっているのかもしれない。私はそっと足を忍ばせて聞こえてくる声に耳を傾けた。
「透子に? なんで?」
不思議そうな声の春くんだ。私の話をしているみたいだ。こくんと息を飲んだ。
「ああ、どうにも兄さんに言わせると透子にご執心のようだ。今も、もしかしたら……」
「そんな、起こして来ます」
慌てたような声の凛太さんだ。私に執心している? 誰のこと?
「まー、凛太も焦るな。透子ちゃんに拘っている様子なのはわかった。それで俺達に何が出来る? 俺に出来ることならなんでもする」
子竜さんはのんびりした様子だけど、決然とした口調で言った。
「……俺も、透子のためなら何も惜しくはない」
雄吾さんだ。本当に……何の話をしているの?
「……死神は透子さんに何か言いたいことがあるみたいだ。僕はこれからそれを探り出す」
死神! 私は驚きに目を見開いた。あのミントの香り。ぞわり、と肌が泡立った。
「それは! でもどうやって? 久祈兄はもう……」
言葉を無くしたように春くんは黙った。
「僕の能力を忘れたのか……春、大丈夫だ。ちゃんと借りてきたから」
「……でも、理人姿が……」
「この前感じた、あまりの怒りのせいか……能力が上がったみたいだ。……借りた能力をフルパワーではなく劣化した状態でならいくつかストックしておくことが出来る様になったんだ」
しん、と静まった。あの時の理人さんの怒りや苦悩を思えば誰も何も言えないからだろう。
「……僕は透子さんをあんな風に傷つけてしまった自分を絶対に許せない。だから、これからは何の傷もつけたくもない。それがもし夢の中でも。だ」
「わかった。じゃあ、今から透子ちゃんの夢の中に入るのか?」
「ああ……随分春と凛太が疲れさせたようだから……」
私はそこで意を決してリビングに入った。
「あのっ」
五人が私に注目した。何だか、緊張した雰囲気の中、震える声で私は言った。
「死神って……皆なんのことだか知ってるんですか?」
「……あー、そっか透子は俺達が知ってないと思っていたんだね」
「この世界では有名……というか当たり前のことなんだよ、夢見の死神って言われているものの存在もね。でも、この世界だって何億って命が生まれては消えていく。連綿と続いていく世界だ……誰かの夢の中っていう風に何か神話みたいに語られている。それだけの事だよ」
私はほっと息をついた。両隣には雄吾さんと春くんが座っている。
「でも……なんで私のことにこだわるんでしょう?」
「……それは本人に聞いてみないとわからないですね……透子さん」
「はい?」
理人さんの薄いグレーの目を見て私は首を傾げた。
「せっかくプールありますし疲れるまで泳ぎましょうか。僕と」
最後を強調しているから、他のおおかみさんは来るなってことなのかな。ふふっと笑って私は頷いた。
昨夜一緒に寝たはずの凛太さんが居ない。仕事のない日はいつも一緒に居てくれるのにな、なんだかちょっと違和感を感じた。
立ち上がって服を整えると凛太さんの部屋から自分の部屋に戻る。手早くシャワーを浴びて身支度すると、リビングに向かう。
「……間違いない」
理人さんの声だ。なんだか、人の気配がするから皆で集まっているのかもしれない。私はそっと足を忍ばせて聞こえてくる声に耳を傾けた。
「透子に? なんで?」
不思議そうな声の春くんだ。私の話をしているみたいだ。こくんと息を飲んだ。
「ああ、どうにも兄さんに言わせると透子にご執心のようだ。今も、もしかしたら……」
「そんな、起こして来ます」
慌てたような声の凛太さんだ。私に執心している? 誰のこと?
「まー、凛太も焦るな。透子ちゃんに拘っている様子なのはわかった。それで俺達に何が出来る? 俺に出来ることならなんでもする」
子竜さんはのんびりした様子だけど、決然とした口調で言った。
「……俺も、透子のためなら何も惜しくはない」
雄吾さんだ。本当に……何の話をしているの?
「……死神は透子さんに何か言いたいことがあるみたいだ。僕はこれからそれを探り出す」
死神! 私は驚きに目を見開いた。あのミントの香り。ぞわり、と肌が泡立った。
「それは! でもどうやって? 久祈兄はもう……」
言葉を無くしたように春くんは黙った。
「僕の能力を忘れたのか……春、大丈夫だ。ちゃんと借りてきたから」
「……でも、理人姿が……」
「この前感じた、あまりの怒りのせいか……能力が上がったみたいだ。……借りた能力をフルパワーではなく劣化した状態でならいくつかストックしておくことが出来る様になったんだ」
しん、と静まった。あの時の理人さんの怒りや苦悩を思えば誰も何も言えないからだろう。
「……僕は透子さんをあんな風に傷つけてしまった自分を絶対に許せない。だから、これからは何の傷もつけたくもない。それがもし夢の中でも。だ」
「わかった。じゃあ、今から透子ちゃんの夢の中に入るのか?」
「ああ……随分春と凛太が疲れさせたようだから……」
私はそこで意を決してリビングに入った。
「あのっ」
五人が私に注目した。何だか、緊張した雰囲気の中、震える声で私は言った。
「死神って……皆なんのことだか知ってるんですか?」
「……あー、そっか透子は俺達が知ってないと思っていたんだね」
「この世界では有名……というか当たり前のことなんだよ、夢見の死神って言われているものの存在もね。でも、この世界だって何億って命が生まれては消えていく。連綿と続いていく世界だ……誰かの夢の中っていう風に何か神話みたいに語られている。それだけの事だよ」
私はほっと息をついた。両隣には雄吾さんと春くんが座っている。
「でも……なんで私のことにこだわるんでしょう?」
「……それは本人に聞いてみないとわからないですね……透子さん」
「はい?」
理人さんの薄いグレーの目を見て私は首を傾げた。
「せっかくプールありますし疲れるまで泳ぎましょうか。僕と」
最後を強調しているから、他のおおかみさんは来るなってことなのかな。ふふっと笑って私は頷いた。
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