124 / 151
第一部
待ちぼうけ
しおりを挟む
はっと目覚めた。何か、また何か夢を見ていたような気がしたんだけど、もう記憶は朧げだ。このところあまり夢見はよくない。もう寒い季節のはずなのに興奮でか、ちょっと汗ばんでいる。
はあっと大きく息をついて隣で寝ている春くんを見た。あんなにしたから当然だけど疲れているのか、良い顔をしてむにゃむにゃ言ってる。可愛い。
私は昨日ベッドの下に落としたままのスマホを探して時計を見た。もう昼過ぎだ。一気にぼーっとしていた脳が覚醒する。
凛太さん! ずっと放ったらかしになってる!
私は慌てて服を着てから自分の部屋に急いだ。焦っているせいか手がなかなか思うように動かない。バタバタと音をさせて廊下を走って広いリビングへと急いだ。
凛太さんは大きなソファに腰掛けて台本らしきものを憂い顔で読んでいる。これは何度も言うんだけど本当に端正な容姿だから、一枚の絵を見ているみたいだ。
「……凛太さん?」
集中していたのか、声をかけると、下に向けていたその顔をようやく上げて私を見て微笑んだ。
「透子さん」
「……ごめんなさい。私寝ちゃってて」
「昨日は随分遅くまで起きてたんですね」
さらっと返される言葉に赤面してしまう。そうなんだけど、春くんと私は夫婦だし何も悪いことはしていないんだけど。
「いつもの巣と違ってここだと良く声が聞こえるので」
「え?」
私はいつになく真面目な顔をした凛太さんの前で固まってしまった。声が、聞こえた?
「透子さんの可愛い甘い声が聞こえてきて、どうしようかと思いました」
淡々と返される言葉に私は顔を覆って俯いてしまう。
「……凛太さん、聞いてたんですか?」
「僕は自分の部屋に居ただけなので。一応聴力は最小限まで絞ったんですけど、それでも聞こえてきて……壁を何度か打ち破ろうと考えたところで、流石に不味いと思って、ここで寝ました」
「凛太さん……ごめんなさい」
「謝らないでください。透子さんは何も、悪いことはしていないんですから……」
凛太さんは立ち上がって顔を覆ったままの私に近づいた。そっと耳元で囁く。
「透子さん、今日は僕の番なので忘れないでくださいね」
こくこくと私は何も言えずに何回も頷いた。
そのまま手を引かれて、リビングのソファに座って後ろから凛太さんに抱きしめられていた。肩口に顎を乗せられてサラサラの焦げ茶色の髪がくすぐったい。
「何か観ます?」
首元で喋られたから息がかかってくすぐったい。
「んっ……凛太さんが出てる映画が観たいです」
「こんなに近くに居るのに?」
ふっと笑ってリモコンを操作する、映画を選ぶところまで来て凛太さんは言った。
「そういえば、女装した雄じゃなくて女の子と共演した映画がありますよ。……観ます?」
「女の子、ですか?」
「そう、どうしても映画に出たくて夫達を説得して出演しているんですよ。流石に演技は本職の女優には敵いませんけどね」
私はなんとなくピンと来て言った。こういう時の女の勘は当たるのだ。
「……ラブシーンあります?」
凛太さんはははっと楽しそうに笑った。私はその大きな手からリモコンを奪った。
「ありますよ。観たいですか?」
「観ません。他のにします」
つんとして答えた私の首筋にキスをしながら言った。
「どうして、僕も透子さんにやきもちを妬いてもらいたいです。春にキスした女の子にも妬いたんでしょう?」
「あれはっ……その、もうっ。誰から聞いたんですか?」
私はすぐ近くにある綺麗な顔をじっと見た。
「内緒です」
「春くん? 雄吾さん?」
「情報源は割りませんよ。でも、素直に羨ましいなって思ったんで……どうしますか? ラブシーン観ます?」
んー、と私は唸った。今日は凛太さんをいっぱい待たせたし、彼がそうしたいなら、言うこと聞いてあげるべきなのかも。でも……。
「ダメです」
「透子さん、どうしてですか? お芝居ですよ」
「きっと観たら凛太さんにいっぱい意地悪したくなっちゃうからダメです」
凛太さんはそんな私を見てふぅっと大きく息をついた。
「じゃあ、いっぱい意地悪してもらおうかな」
そう言って私の手からリモコンを優しく取り上げると操作し始めた。
はあっと大きく息をついて隣で寝ている春くんを見た。あんなにしたから当然だけど疲れているのか、良い顔をしてむにゃむにゃ言ってる。可愛い。
私は昨日ベッドの下に落としたままのスマホを探して時計を見た。もう昼過ぎだ。一気にぼーっとしていた脳が覚醒する。
凛太さん! ずっと放ったらかしになってる!
私は慌てて服を着てから自分の部屋に急いだ。焦っているせいか手がなかなか思うように動かない。バタバタと音をさせて廊下を走って広いリビングへと急いだ。
凛太さんは大きなソファに腰掛けて台本らしきものを憂い顔で読んでいる。これは何度も言うんだけど本当に端正な容姿だから、一枚の絵を見ているみたいだ。
「……凛太さん?」
集中していたのか、声をかけると、下に向けていたその顔をようやく上げて私を見て微笑んだ。
「透子さん」
「……ごめんなさい。私寝ちゃってて」
「昨日は随分遅くまで起きてたんですね」
さらっと返される言葉に赤面してしまう。そうなんだけど、春くんと私は夫婦だし何も悪いことはしていないんだけど。
「いつもの巣と違ってここだと良く声が聞こえるので」
「え?」
私はいつになく真面目な顔をした凛太さんの前で固まってしまった。声が、聞こえた?
「透子さんの可愛い甘い声が聞こえてきて、どうしようかと思いました」
淡々と返される言葉に私は顔を覆って俯いてしまう。
「……凛太さん、聞いてたんですか?」
「僕は自分の部屋に居ただけなので。一応聴力は最小限まで絞ったんですけど、それでも聞こえてきて……壁を何度か打ち破ろうと考えたところで、流石に不味いと思って、ここで寝ました」
「凛太さん……ごめんなさい」
「謝らないでください。透子さんは何も、悪いことはしていないんですから……」
凛太さんは立ち上がって顔を覆ったままの私に近づいた。そっと耳元で囁く。
「透子さん、今日は僕の番なので忘れないでくださいね」
こくこくと私は何も言えずに何回も頷いた。
そのまま手を引かれて、リビングのソファに座って後ろから凛太さんに抱きしめられていた。肩口に顎を乗せられてサラサラの焦げ茶色の髪がくすぐったい。
「何か観ます?」
首元で喋られたから息がかかってくすぐったい。
「んっ……凛太さんが出てる映画が観たいです」
「こんなに近くに居るのに?」
ふっと笑ってリモコンを操作する、映画を選ぶところまで来て凛太さんは言った。
「そういえば、女装した雄じゃなくて女の子と共演した映画がありますよ。……観ます?」
「女の子、ですか?」
「そう、どうしても映画に出たくて夫達を説得して出演しているんですよ。流石に演技は本職の女優には敵いませんけどね」
私はなんとなくピンと来て言った。こういう時の女の勘は当たるのだ。
「……ラブシーンあります?」
凛太さんはははっと楽しそうに笑った。私はその大きな手からリモコンを奪った。
「ありますよ。観たいですか?」
「観ません。他のにします」
つんとして答えた私の首筋にキスをしながら言った。
「どうして、僕も透子さんにやきもちを妬いてもらいたいです。春にキスした女の子にも妬いたんでしょう?」
「あれはっ……その、もうっ。誰から聞いたんですか?」
私はすぐ近くにある綺麗な顔をじっと見た。
「内緒です」
「春くん? 雄吾さん?」
「情報源は割りませんよ。でも、素直に羨ましいなって思ったんで……どうしますか? ラブシーン観ます?」
んー、と私は唸った。今日は凛太さんをいっぱい待たせたし、彼がそうしたいなら、言うこと聞いてあげるべきなのかも。でも……。
「ダメです」
「透子さん、どうしてですか? お芝居ですよ」
「きっと観たら凛太さんにいっぱい意地悪したくなっちゃうからダメです」
凛太さんはそんな私を見てふぅっと大きく息をついた。
「じゃあ、いっぱい意地悪してもらおうかな」
そう言って私の手からリモコンを優しく取り上げると操作し始めた。
38
お気に入りに追加
1,907
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる