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第一部
待ちぼうけ
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はっと目覚めた。何か、また何か夢を見ていたような気がしたんだけど、もう記憶は朧げだ。このところあまり夢見はよくない。もう寒い季節のはずなのに興奮でか、ちょっと汗ばんでいる。
はあっと大きく息をついて隣で寝ている春くんを見た。あんなにしたから当然だけど疲れているのか、良い顔をしてむにゃむにゃ言ってる。可愛い。
私は昨日ベッドの下に落としたままのスマホを探して時計を見た。もう昼過ぎだ。一気にぼーっとしていた脳が覚醒する。
凛太さん! ずっと放ったらかしになってる!
私は慌てて服を着てから自分の部屋に急いだ。焦っているせいか手がなかなか思うように動かない。バタバタと音をさせて廊下を走って広いリビングへと急いだ。
凛太さんは大きなソファに腰掛けて台本らしきものを憂い顔で読んでいる。これは何度も言うんだけど本当に端正な容姿だから、一枚の絵を見ているみたいだ。
「……凛太さん?」
集中していたのか、声をかけると、下に向けていたその顔をようやく上げて私を見て微笑んだ。
「透子さん」
「……ごめんなさい。私寝ちゃってて」
「昨日は随分遅くまで起きてたんですね」
さらっと返される言葉に赤面してしまう。そうなんだけど、春くんと私は夫婦だし何も悪いことはしていないんだけど。
「いつもの巣と違ってここだと良く声が聞こえるので」
「え?」
私はいつになく真面目な顔をした凛太さんの前で固まってしまった。声が、聞こえた?
「透子さんの可愛い甘い声が聞こえてきて、どうしようかと思いました」
淡々と返される言葉に私は顔を覆って俯いてしまう。
「……凛太さん、聞いてたんですか?」
「僕は自分の部屋に居ただけなので。一応聴力は最小限まで絞ったんですけど、それでも聞こえてきて……壁を何度か打ち破ろうと考えたところで、流石に不味いと思って、ここで寝ました」
「凛太さん……ごめんなさい」
「謝らないでください。透子さんは何も、悪いことはしていないんですから……」
凛太さんは立ち上がって顔を覆ったままの私に近づいた。そっと耳元で囁く。
「透子さん、今日は僕の番なので忘れないでくださいね」
こくこくと私は何も言えずに何回も頷いた。
そのまま手を引かれて、リビングのソファに座って後ろから凛太さんに抱きしめられていた。肩口に顎を乗せられてサラサラの焦げ茶色の髪がくすぐったい。
「何か観ます?」
首元で喋られたから息がかかってくすぐったい。
「んっ……凛太さんが出てる映画が観たいです」
「こんなに近くに居るのに?」
ふっと笑ってリモコンを操作する、映画を選ぶところまで来て凛太さんは言った。
「そういえば、女装した雄じゃなくて女の子と共演した映画がありますよ。……観ます?」
「女の子、ですか?」
「そう、どうしても映画に出たくて夫達を説得して出演しているんですよ。流石に演技は本職の女優には敵いませんけどね」
私はなんとなくピンと来て言った。こういう時の女の勘は当たるのだ。
「……ラブシーンあります?」
凛太さんはははっと楽しそうに笑った。私はその大きな手からリモコンを奪った。
「ありますよ。観たいですか?」
「観ません。他のにします」
つんとして答えた私の首筋にキスをしながら言った。
「どうして、僕も透子さんにやきもちを妬いてもらいたいです。春にキスした女の子にも妬いたんでしょう?」
「あれはっ……その、もうっ。誰から聞いたんですか?」
私はすぐ近くにある綺麗な顔をじっと見た。
「内緒です」
「春くん? 雄吾さん?」
「情報源は割りませんよ。でも、素直に羨ましいなって思ったんで……どうしますか? ラブシーン観ます?」
んー、と私は唸った。今日は凛太さんをいっぱい待たせたし、彼がそうしたいなら、言うこと聞いてあげるべきなのかも。でも……。
「ダメです」
「透子さん、どうしてですか? お芝居ですよ」
「きっと観たら凛太さんにいっぱい意地悪したくなっちゃうからダメです」
凛太さんはそんな私を見てふぅっと大きく息をついた。
「じゃあ、いっぱい意地悪してもらおうかな」
そう言って私の手からリモコンを優しく取り上げると操作し始めた。
はあっと大きく息をついて隣で寝ている春くんを見た。あんなにしたから当然だけど疲れているのか、良い顔をしてむにゃむにゃ言ってる。可愛い。
私は昨日ベッドの下に落としたままのスマホを探して時計を見た。もう昼過ぎだ。一気にぼーっとしていた脳が覚醒する。
凛太さん! ずっと放ったらかしになってる!
私は慌てて服を着てから自分の部屋に急いだ。焦っているせいか手がなかなか思うように動かない。バタバタと音をさせて廊下を走って広いリビングへと急いだ。
凛太さんは大きなソファに腰掛けて台本らしきものを憂い顔で読んでいる。これは何度も言うんだけど本当に端正な容姿だから、一枚の絵を見ているみたいだ。
「……凛太さん?」
集中していたのか、声をかけると、下に向けていたその顔をようやく上げて私を見て微笑んだ。
「透子さん」
「……ごめんなさい。私寝ちゃってて」
「昨日は随分遅くまで起きてたんですね」
さらっと返される言葉に赤面してしまう。そうなんだけど、春くんと私は夫婦だし何も悪いことはしていないんだけど。
「いつもの巣と違ってここだと良く声が聞こえるので」
「え?」
私はいつになく真面目な顔をした凛太さんの前で固まってしまった。声が、聞こえた?
「透子さんの可愛い甘い声が聞こえてきて、どうしようかと思いました」
淡々と返される言葉に私は顔を覆って俯いてしまう。
「……凛太さん、聞いてたんですか?」
「僕は自分の部屋に居ただけなので。一応聴力は最小限まで絞ったんですけど、それでも聞こえてきて……壁を何度か打ち破ろうと考えたところで、流石に不味いと思って、ここで寝ました」
「凛太さん……ごめんなさい」
「謝らないでください。透子さんは何も、悪いことはしていないんですから……」
凛太さんは立ち上がって顔を覆ったままの私に近づいた。そっと耳元で囁く。
「透子さん、今日は僕の番なので忘れないでくださいね」
こくこくと私は何も言えずに何回も頷いた。
そのまま手を引かれて、リビングのソファに座って後ろから凛太さんに抱きしめられていた。肩口に顎を乗せられてサラサラの焦げ茶色の髪がくすぐったい。
「何か観ます?」
首元で喋られたから息がかかってくすぐったい。
「んっ……凛太さんが出てる映画が観たいです」
「こんなに近くに居るのに?」
ふっと笑ってリモコンを操作する、映画を選ぶところまで来て凛太さんは言った。
「そういえば、女装した雄じゃなくて女の子と共演した映画がありますよ。……観ます?」
「女の子、ですか?」
「そう、どうしても映画に出たくて夫達を説得して出演しているんですよ。流石に演技は本職の女優には敵いませんけどね」
私はなんとなくピンと来て言った。こういう時の女の勘は当たるのだ。
「……ラブシーンあります?」
凛太さんはははっと楽しそうに笑った。私はその大きな手からリモコンを奪った。
「ありますよ。観たいですか?」
「観ません。他のにします」
つんとして答えた私の首筋にキスをしながら言った。
「どうして、僕も透子さんにやきもちを妬いてもらいたいです。春にキスした女の子にも妬いたんでしょう?」
「あれはっ……その、もうっ。誰から聞いたんですか?」
私はすぐ近くにある綺麗な顔をじっと見た。
「内緒です」
「春くん? 雄吾さん?」
「情報源は割りませんよ。でも、素直に羨ましいなって思ったんで……どうしますか? ラブシーン観ます?」
んー、と私は唸った。今日は凛太さんをいっぱい待たせたし、彼がそうしたいなら、言うこと聞いてあげるべきなのかも。でも……。
「ダメです」
「透子さん、どうしてですか? お芝居ですよ」
「きっと観たら凛太さんにいっぱい意地悪したくなっちゃうからダメです」
凛太さんはそんな私を見てふぅっと大きく息をついた。
「じゃあ、いっぱい意地悪してもらおうかな」
そう言って私の手からリモコンを優しく取り上げると操作し始めた。
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