121 / 151
第一部
慰める
しおりを挟む
「透子、これ美味しいよ」
そう言いながらこの別荘の管理人さん(私は姿を見た事がないんだけど)が作ってくれた夕飯の中の春巻きをお皿に取ってくれる。
「春くんありがとう」
私が微笑みながらお礼をいうと春くんは満足そうに頷いた。テキパキと食べた物を片付けつつ柄が可愛い赤のセーターを腕まくりして私に食べ物を取ってくれる。凛太さんは私が話しかけたら喋るけれど、いつもクッションをしてくれている役の雄吾さんがいないせいか居心地は悪そうだ。
デザートを食べ終えてお茶を飲んでいる時に意を決して切り出した。
「ね、春くん」
「何? 透子」
「どうして春くんは凛太さんにそんなに態度が悪いの? 前に仲良くして欲しいって言ったと思う……相性があるのはもちろんわかっているけど、努力はして欲しい」
いい加減この妙な雰囲気に限界に来ていた私ははっきり言った。理由もわからない事で我慢するのはあんまり好きじゃない。
「……透子」
途方に暮れたように耳をシュンとさせる可愛い春くんに若干絆されそうになった私は心を鬼にして言った。
「凛太さんに喧嘩吹っかけるのは、もうやめて欲しい。年齢は一番若いけれど私の夫の一人なんだからきちんとして欲しい」
春くんは口を尖らせて席を立った。
「ごめん……俺、先に部屋に戻ってる」
「春くんっ……」
私が呼びかけたのにも関わらず春くんは行ってしまう。残された二人はすこしの間沈黙して、凛太さんが言った。
「透子さん、すみません。その、春が突っかかってくるのは僕も悪いんです」
「凛太さん?」
「多分、紅蓮の里での事だと思います……春の問題ですし、僕はこれ以上は言えません。透子さんに怒られたくないので」
ちょっと笑って私を見ると凛太さんは肩を竦めた。
「凛太さん……でも私……」
「行って来てください。僕の順番は……明日なので、明日ゆっくり話しましょう」
私はそれに頷いてから、一度扉の方に向かったんだけど、思い直して凛太さんの隣に立った。凛太さんは端正な顔を不思議そうにすると首を傾げる。
「凛太さん、嫌な思いをさせてごめんなさい」
私はそっと頬にキスをした。その後の顔は見ずに逃げるように扉に向かった。
トントン、と大きな扉を叩く。
「春くん、透子です。開けて」
数秒待ったら春くんが扉を開けてくれた。やっぱりなんだか納得行かない顔をしてむくれているみたいだ。その顔を見上げながら頬を両手で包んだ。
「透子……」
「わかってるよ。春くんが理由もなくそんな事する人じゃないってちゃんとわかっている……私には話せない?」
私を悲しそうに見下ろしてからううん、と首を振った。
「……とにかく入って、ここで話したくない」
その言葉に頷いて部屋に入ると春くんはベッドに座って隣をポンポンと叩いた。素直にその横に腰掛ける。
「……透子、この前に俺が紅蓮の里を居づらくなったのは言ったよね?」
私は春くんの両手に手を乗せながら頷いた。じっと大きな栗色の目が私を見つめている。
「紅蓮の里の社交の場で俺のことをやたらと攻撃して来た奴が居てさ……そいつと凛太は仲良かったんだ。俺もわざわざ攻撃してくる奴のこといちいち覚える程暇じゃないけどさ、あいつと会った時、思い出した……凛太は俺に直接は何も言ってはないけど、そいつと一緒に居たから……思い出すんだ。思い出したくないくらい酷いことも言われたからね」
「春くん」
私はその両手をぎゅっと握った。すこしでも苦しみを小さく出来たら良いのに。
「春くん、ごめんね。事情もわからずに頭ごなしに言い過ぎた……凛太さんにも事情聞いてみるから」
「透子、透子」
じっと私の目を見て、そして顔を近づけてキスを落とした。あやすように触れるキス。きっと言いたかったけど、言えなかったことなんだろうな。
「春くん。大丈夫だよ。不安にならないで。春くんも凛太さんも私の夫で大事で大好きな人なの。出来たらもっと早く事情を聞きたかったけど、そんなことで関係が壊れたりしないよ」
「……俺、傷ついたよ。透子」
「ごめんね」
「うん。じゃあ、今日はいっぱいなぐさめてくれる?」
そう言うと大きな目を細めてにっと笑った。
そう言いながらこの別荘の管理人さん(私は姿を見た事がないんだけど)が作ってくれた夕飯の中の春巻きをお皿に取ってくれる。
「春くんありがとう」
私が微笑みながらお礼をいうと春くんは満足そうに頷いた。テキパキと食べた物を片付けつつ柄が可愛い赤のセーターを腕まくりして私に食べ物を取ってくれる。凛太さんは私が話しかけたら喋るけれど、いつもクッションをしてくれている役の雄吾さんがいないせいか居心地は悪そうだ。
デザートを食べ終えてお茶を飲んでいる時に意を決して切り出した。
「ね、春くん」
「何? 透子」
「どうして春くんは凛太さんにそんなに態度が悪いの? 前に仲良くして欲しいって言ったと思う……相性があるのはもちろんわかっているけど、努力はして欲しい」
いい加減この妙な雰囲気に限界に来ていた私ははっきり言った。理由もわからない事で我慢するのはあんまり好きじゃない。
「……透子」
途方に暮れたように耳をシュンとさせる可愛い春くんに若干絆されそうになった私は心を鬼にして言った。
「凛太さんに喧嘩吹っかけるのは、もうやめて欲しい。年齢は一番若いけれど私の夫の一人なんだからきちんとして欲しい」
春くんは口を尖らせて席を立った。
「ごめん……俺、先に部屋に戻ってる」
「春くんっ……」
私が呼びかけたのにも関わらず春くんは行ってしまう。残された二人はすこしの間沈黙して、凛太さんが言った。
「透子さん、すみません。その、春が突っかかってくるのは僕も悪いんです」
「凛太さん?」
「多分、紅蓮の里での事だと思います……春の問題ですし、僕はこれ以上は言えません。透子さんに怒られたくないので」
ちょっと笑って私を見ると凛太さんは肩を竦めた。
「凛太さん……でも私……」
「行って来てください。僕の順番は……明日なので、明日ゆっくり話しましょう」
私はそれに頷いてから、一度扉の方に向かったんだけど、思い直して凛太さんの隣に立った。凛太さんは端正な顔を不思議そうにすると首を傾げる。
「凛太さん、嫌な思いをさせてごめんなさい」
私はそっと頬にキスをした。その後の顔は見ずに逃げるように扉に向かった。
トントン、と大きな扉を叩く。
「春くん、透子です。開けて」
数秒待ったら春くんが扉を開けてくれた。やっぱりなんだか納得行かない顔をしてむくれているみたいだ。その顔を見上げながら頬を両手で包んだ。
「透子……」
「わかってるよ。春くんが理由もなくそんな事する人じゃないってちゃんとわかっている……私には話せない?」
私を悲しそうに見下ろしてからううん、と首を振った。
「……とにかく入って、ここで話したくない」
その言葉に頷いて部屋に入ると春くんはベッドに座って隣をポンポンと叩いた。素直にその横に腰掛ける。
「……透子、この前に俺が紅蓮の里を居づらくなったのは言ったよね?」
私は春くんの両手に手を乗せながら頷いた。じっと大きな栗色の目が私を見つめている。
「紅蓮の里の社交の場で俺のことをやたらと攻撃して来た奴が居てさ……そいつと凛太は仲良かったんだ。俺もわざわざ攻撃してくる奴のこといちいち覚える程暇じゃないけどさ、あいつと会った時、思い出した……凛太は俺に直接は何も言ってはないけど、そいつと一緒に居たから……思い出すんだ。思い出したくないくらい酷いことも言われたからね」
「春くん」
私はその両手をぎゅっと握った。すこしでも苦しみを小さく出来たら良いのに。
「春くん、ごめんね。事情もわからずに頭ごなしに言い過ぎた……凛太さんにも事情聞いてみるから」
「透子、透子」
じっと私の目を見て、そして顔を近づけてキスを落とした。あやすように触れるキス。きっと言いたかったけど、言えなかったことなんだろうな。
「春くん。大丈夫だよ。不安にならないで。春くんも凛太さんも私の夫で大事で大好きな人なの。出来たらもっと早く事情を聞きたかったけど、そんなことで関係が壊れたりしないよ」
「……俺、傷ついたよ。透子」
「ごめんね」
「うん。じゃあ、今日はいっぱいなぐさめてくれる?」
そう言うと大きな目を細めてにっと笑った。
39
お気に入りに追加
1,891
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる