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第一部
原因
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「えっと、それって、子供さんを連れて帰れない、ということですか?」
私の質問に千里ちゃんはゆるく頭を振った。緊張感のせいか、赤ちゃんの寝息だけがその部屋で聞こえていた。
「……人間と人狼から子どもができると特殊能力を持つのは知っているわよね?」
静かに話し始めた千里ちゃんに私はコクンと頷いた。……私の特殊能力を持つ五人の夫達にも、その異世界の血が流れているように、きっとこの世界はそういう風になっているのだ。
「子どもに特殊能力を与えたら……私達は【元の世界に帰る力】を失うの」
「え?」
「……もう一度言うわ、私はもう手遅れだったけど、透子ちゃんならまだ間に合うはず……帰りたいのなら、方法があるわ」
「その方法は?」
「満月の夜に元の世界に帰りたいと願うのよ。それだけ。今なら戻れるわ……戻りたいんでしょう?」
千里ちゃんのその複雑そうな顔に私は首を振った。
「いいえ。私はその方法を万が一にでも、実行しないように、その方法を知りたかっただけです。ありがとうございます」
千里ちゃんは肩透かしを食らったように首を傾げた。私が元の世界に帰りたがっている、とずっと勘違いしていたみたいだ。ふうっとため息をつくと、どちらともなく、二人で笑い出した。
「ふふっ、私は……ずっと帰りたかったの。でも、何故か偶然でも、満月の夜願わなかった。だから結局この世界に居たかったのかなと思うこともあるわ」
「……そんなことを考える隙間もなく愛されていたんですね」
私がそういうと、千里ちゃんはちょっと笑って頷いた。
「貴女だってきっとそうでしょう?」
私も頷いた。そうなんだ。帰りたい気持ちなど今はもう全然なかった。未練は沸かなかった。この世界に来てからそんなことを思う隙間もなくずっと愛されていたからだ。
「そう……良かった。あの時、お披露目の時、まだまだ不安でいっぱいって顔をしていたからついお節介しちゃった……私はもう帰れなくなってから知ったから。透子ちゃんはまだ間に合うから。でも、気をつけてね?」
「はい?」
「子どもが出来るまでは満月の日には冗談でも帰りたいと思ってはダメよ。この世界に来る時は刹那。きっとその時と一緒よ」
千里ちゃんは意味ありげに唇に人差し指を当てて言った。
「……透子」
雄吾さんが千里ちゃんの夫達と談笑していた中に入ると振り向いてほっとした顔をした。私もにっこり笑って手を振る。
その後はゆっくり美味しい夕食と会話を楽しんで早々に私達は帰路についた。
「どうだった?」
ずっと気がかりだったのだろう、雄吾さんは車を発進させると同時に聞いてきた。その焦りようはいつもの彼らしくないなって思った。
「……まず、子どもを授かったら私は元の世界に戻る力をなくしてしまうそうです……」
「子ども、子どもか。……それで?」
雄吾さんは運転しながら私の手をぎゅっと握った。
「帰る方法は満月の日に帰りたいと願うこと、です」
雄吾さんはヒュッと息を飲んだのがわかった。あまりに簡単なその方法に驚いてしまったのかもしれない。
「……それだけ、か?」
「はい。真偽は試してみないとわかりませんが」
からかうように私が言うと、ぎゅっと力を込めて手が握られた。
「……絶対にやめてくれ。頼む」
「はい。しません」
信号待ちで停まった車内で雄吾さんは身を乗り出して私にキスをした。
「……子どもを作ったらもう帰れないんだな?」
「……はい」
「皆にも知らせる。透子はもう夜は眠れなくなるかもな?」
私の質問に千里ちゃんはゆるく頭を振った。緊張感のせいか、赤ちゃんの寝息だけがその部屋で聞こえていた。
「……人間と人狼から子どもができると特殊能力を持つのは知っているわよね?」
静かに話し始めた千里ちゃんに私はコクンと頷いた。……私の特殊能力を持つ五人の夫達にも、その異世界の血が流れているように、きっとこの世界はそういう風になっているのだ。
「子どもに特殊能力を与えたら……私達は【元の世界に帰る力】を失うの」
「え?」
「……もう一度言うわ、私はもう手遅れだったけど、透子ちゃんならまだ間に合うはず……帰りたいのなら、方法があるわ」
「その方法は?」
「満月の夜に元の世界に帰りたいと願うのよ。それだけ。今なら戻れるわ……戻りたいんでしょう?」
千里ちゃんのその複雑そうな顔に私は首を振った。
「いいえ。私はその方法を万が一にでも、実行しないように、その方法を知りたかっただけです。ありがとうございます」
千里ちゃんは肩透かしを食らったように首を傾げた。私が元の世界に帰りたがっている、とずっと勘違いしていたみたいだ。ふうっとため息をつくと、どちらともなく、二人で笑い出した。
「ふふっ、私は……ずっと帰りたかったの。でも、何故か偶然でも、満月の夜願わなかった。だから結局この世界に居たかったのかなと思うこともあるわ」
「……そんなことを考える隙間もなく愛されていたんですね」
私がそういうと、千里ちゃんはちょっと笑って頷いた。
「貴女だってきっとそうでしょう?」
私も頷いた。そうなんだ。帰りたい気持ちなど今はもう全然なかった。未練は沸かなかった。この世界に来てからそんなことを思う隙間もなくずっと愛されていたからだ。
「そう……良かった。あの時、お披露目の時、まだまだ不安でいっぱいって顔をしていたからついお節介しちゃった……私はもう帰れなくなってから知ったから。透子ちゃんはまだ間に合うから。でも、気をつけてね?」
「はい?」
「子どもが出来るまでは満月の日には冗談でも帰りたいと思ってはダメよ。この世界に来る時は刹那。きっとその時と一緒よ」
千里ちゃんは意味ありげに唇に人差し指を当てて言った。
「……透子」
雄吾さんが千里ちゃんの夫達と談笑していた中に入ると振り向いてほっとした顔をした。私もにっこり笑って手を振る。
その後はゆっくり美味しい夕食と会話を楽しんで早々に私達は帰路についた。
「どうだった?」
ずっと気がかりだったのだろう、雄吾さんは車を発進させると同時に聞いてきた。その焦りようはいつもの彼らしくないなって思った。
「……まず、子どもを授かったら私は元の世界に戻る力をなくしてしまうそうです……」
「子ども、子どもか。……それで?」
雄吾さんは運転しながら私の手をぎゅっと握った。
「帰る方法は満月の日に帰りたいと願うこと、です」
雄吾さんはヒュッと息を飲んだのがわかった。あまりに簡単なその方法に驚いてしまったのかもしれない。
「……それだけ、か?」
「はい。真偽は試してみないとわかりませんが」
からかうように私が言うと、ぎゅっと力を込めて手が握られた。
「……絶対にやめてくれ。頼む」
「はい。しません」
信号待ちで停まった車内で雄吾さんは身を乗り出して私にキスをした。
「……子どもを作ったらもう帰れないんだな?」
「……はい」
「皆にも知らせる。透子はもう夜は眠れなくなるかもな?」
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