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第一部
招待
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結局、相談の結果千里ちゃんからの招待をお受けすることになった。
先方の都合で出来るだけ早くということで、手土産の用意も慌ただしくも、その翌日になった。
「透子、準備は出来たか?」
雄吾さんが私の部屋を訪ねて来て扉からひょこっと顔を出した。黒いセーターの上に同色のジャケットを羽織っている。相変わらず凛々しくて素敵だ。今日は子竜さんはどうしても行かなきゃならない急ぎの仕事が出来たとかで、しきりに私に千里ちゃんには気をつけろと言い残して深青の里に帰って行った。
「はい。出来ました。お待たせしてすみません」
私は訪問する用に昨日買いに行った服を身につけて準備は万端だ。薄いペールブルーのワンピース。裾にレースがあってお嬢様っぽい印象。春くんに選んでもらっていない服って久しぶりかもしれない。
雄吾さんは私と廊下を歩きながら苦笑した。
「子竜に散々言われたよ。あいつ、本当に透子のことになると子供っぽくなるし、余裕がないな」
「そうなんですか?」
「そう、あいつは、学生の頃から余裕たっぷりの嫌味なやつだったからな……あんな一面があったなんて、俺も驚いてる」
子竜さんは別荘に置いてあった車で行ってしまったのか、私達はここに来た時に乗っていた車で千里ちゃんの待っている巣に向かう。
雄吾さんはお仕事している時と、車を運転する時は眼鏡をかけるみたいだ。胸ポケットから眼鏡を出すとサッと発進させた。
「……緊張しているか?」
「すこし……どんな方法なのか、ずっと気になっていました。そして……」
「そして?」
「その方法を知っているのに、千里ちゃんが帰っていない理由も……」
雄吾さんは前を見ながらも、膝の上の私の手を握った。
「俺も……やっぱり不安になる。でもその方法を知らないともっと不安になる。疑心暗鬼にはなりたくないんだ。ずっと一緒に居るために……」
「……はい」
ぎゅっと握りしめた手を見た。私よりも二回りは大きな手。でも、不安に揺れているようにも思えたから。
「透子ちゃん、いらっしゃい!」
「あの、お招きありがとうございます」
私は千里ちゃんを囲むように立っている二人の人狼にも会釈をした。この前にお会いした時にも居た悠介さんともう一人短い焦げ茶色の髪を持つがっちりとした体型の人だ。
「早速、私の部屋に行きましょう。二人きりで話したいこと、たくさんあるもの!」
と、私の部屋を引っ張ったので、私は驚いて雄吾さんを見た。雄吾さんは軽く眉を寄せた風にも見えたけれど、こくん、と頷いた。
「どうぞ、入って!」
「ありがとうございます」
千里ちゃんの部屋はとっても広くて豪華だった。奥の部屋がすこし開いている。風通しを良くするためかな?
「秀俊さん、ありがとうございます。もう良いわ。私が部屋に居るから」
奥の部屋に声をかけると、そっと初老の男性が現れた。
「今、よく眠っておられます」
「ありがとう。またミルクの時にお願いします」
ミルク? 首を傾げた私にふふっと微笑んで千里ちゃんは手招きをした。
「どうぞ、こっちへ。まだ一歳になってないの。とっても可愛いのよ」
私は部屋を覗き込むと子供部屋で大きなベビーベッドが備えられていた。中には赤ちゃんがすうすうと寝息を立てて寝ている。
「……すごく、可愛いですね」
微笑みながら、千里ちゃんを見ると、すこし複雑そうな顔で微笑んだ。
「そう、そうなの。すごく可愛いんだけど……たまにすごくつらくなるの」
「……どうしてですか?」
「この子こそが私が元の世界に帰れなくなった原因だからよ」
先方の都合で出来るだけ早くということで、手土産の用意も慌ただしくも、その翌日になった。
「透子、準備は出来たか?」
雄吾さんが私の部屋を訪ねて来て扉からひょこっと顔を出した。黒いセーターの上に同色のジャケットを羽織っている。相変わらず凛々しくて素敵だ。今日は子竜さんはどうしても行かなきゃならない急ぎの仕事が出来たとかで、しきりに私に千里ちゃんには気をつけろと言い残して深青の里に帰って行った。
「はい。出来ました。お待たせしてすみません」
私は訪問する用に昨日買いに行った服を身につけて準備は万端だ。薄いペールブルーのワンピース。裾にレースがあってお嬢様っぽい印象。春くんに選んでもらっていない服って久しぶりかもしれない。
雄吾さんは私と廊下を歩きながら苦笑した。
「子竜に散々言われたよ。あいつ、本当に透子のことになると子供っぽくなるし、余裕がないな」
「そうなんですか?」
「そう、あいつは、学生の頃から余裕たっぷりの嫌味なやつだったからな……あんな一面があったなんて、俺も驚いてる」
子竜さんは別荘に置いてあった車で行ってしまったのか、私達はここに来た時に乗っていた車で千里ちゃんの待っている巣に向かう。
雄吾さんはお仕事している時と、車を運転する時は眼鏡をかけるみたいだ。胸ポケットから眼鏡を出すとサッと発進させた。
「……緊張しているか?」
「すこし……どんな方法なのか、ずっと気になっていました。そして……」
「そして?」
「その方法を知っているのに、千里ちゃんが帰っていない理由も……」
雄吾さんは前を見ながらも、膝の上の私の手を握った。
「俺も……やっぱり不安になる。でもその方法を知らないともっと不安になる。疑心暗鬼にはなりたくないんだ。ずっと一緒に居るために……」
「……はい」
ぎゅっと握りしめた手を見た。私よりも二回りは大きな手。でも、不安に揺れているようにも思えたから。
「透子ちゃん、いらっしゃい!」
「あの、お招きありがとうございます」
私は千里ちゃんを囲むように立っている二人の人狼にも会釈をした。この前にお会いした時にも居た悠介さんともう一人短い焦げ茶色の髪を持つがっちりとした体型の人だ。
「早速、私の部屋に行きましょう。二人きりで話したいこと、たくさんあるもの!」
と、私の部屋を引っ張ったので、私は驚いて雄吾さんを見た。雄吾さんは軽く眉を寄せた風にも見えたけれど、こくん、と頷いた。
「どうぞ、入って!」
「ありがとうございます」
千里ちゃんの部屋はとっても広くて豪華だった。奥の部屋がすこし開いている。風通しを良くするためかな?
「秀俊さん、ありがとうございます。もう良いわ。私が部屋に居るから」
奥の部屋に声をかけると、そっと初老の男性が現れた。
「今、よく眠っておられます」
「ありがとう。またミルクの時にお願いします」
ミルク? 首を傾げた私にふふっと微笑んで千里ちゃんは手招きをした。
「どうぞ、こっちへ。まだ一歳になってないの。とっても可愛いのよ」
私は部屋を覗き込むと子供部屋で大きなベビーベッドが備えられていた。中には赤ちゃんがすうすうと寝息を立てて寝ている。
「……すごく、可愛いですね」
微笑みながら、千里ちゃんを見ると、すこし複雑そうな顔で微笑んだ。
「そう、そうなの。すごく可愛いんだけど……たまにすごくつらくなるの」
「……どうしてですか?」
「この子こそが私が元の世界に帰れなくなった原因だからよ」
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