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第一部
旅路
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「旅行、ですか?」
朝から突然巣にやってきた子竜さんは私の顔を見て、うんとにこやかに頷き、ひらひらと何かのパンフレットを振った。
「そ、黄花の里にあるリゾート地に行こうと思っている。先行するのは俺と雄吾だけど、他のメンバーも都合が付き次第追ってくるよ。確か、あちらには仲良くなった人間の女の子も居ただろう? 透子ちゃんの気分も変えるのも良いかと思ってね」
私は食卓に残っていた雄吾さんと春くんの顔を見たけど、二人とも微笑んで頷いている。これは夫達の中ではもう通っている話みたい。
「あの、いつからですか? 何泊くらい……?」
「俺と雄吾はどこでも仕事出来るから行きたいなら、今日からでも良いよ。別荘もあるし、もう管理人には手入れするように伝えてあるから。透子ちゃんが居たいだけ居て良いよ。」
別荘! その響きでなんだかウキウキした。もう季節は冬なんだけど、夏場に避暑地に向かう感覚に近いのかもしれない。
「えっと…用意があるので、出来たら明日……くらいが良いです。あと買い物にも行きたいし」
「透子、服とか必要なものは向こうで買えば良いよ」
スーツ姿の春くんがなんでもないように言った。
「でも……」
「良いって良いって。たまには雄吾のお金も使ってあげないと可哀想だよ、本人はほぼ使わないのに増えてく一方なんだし」
「おい、春」
雄吾さんは春くんの頭を新聞で叩いた。
「ははっ、相変わらずだな、お前らは」
子竜さんはその様子を見ながらコーヒーを飲むと面白そうに笑った。
「さて、どうする? 透子ちゃんの服は、あちらへ向かいながら買い物するのも楽しそうだが」
「じゃあ、すぐ行きたいですっ。荷物、用意してきますね」
「りょーかい。ここで待ってるよ」
私は自分のお皿を流しへとおくと慌てて玄関ホールへと向かう。ちらっと食卓を見ると春くんがまた何か言ったのか、次は子竜さんに新聞で叩かれていた。
あれ以来、夫達は小夜乃さんの話はしなかった。でも、時たま殺気だったように、皆で話し合っていたりした時を見かけたりもしていたから、私の知らないところで色々あったのだと思う。敢えて何かあったのか、というのは言わなかった。小夜乃さんがどうなったかは私は知っているけれど、それを何処で聞いたのかはなんとなく言いたくなかった。
それに、巣に戻ってきて私の手足の傷を確認していた時の理人さんの顔は忘れられない。自分のせいだとそう思っているのがわかっていたから、これ以上重荷を背負わせたくはなかった。
私は手早くクローゼットの中の奥にあった、可愛い小さな茶色のトランクに、とりあえず下着やいつも使っている化粧品なんかを詰めていった。服は最低限要りそうなものを手早く選ぶ。
「こんなものかな……」
私は出掛ける準備をして、厚めの白いコートを着込んだ。水色のショールを首に巻いて、トランクに手をかけた。
その時、何かに呼ばれるようにベッド側にある収納の中の手紙を思い出した。
元の世界に戻る方法……か。
私はもう一度その手紙を開くと、そっとゴミ箱に入れた。
私にはもう必要のないものだと、その時、そう思った。
朝から突然巣にやってきた子竜さんは私の顔を見て、うんとにこやかに頷き、ひらひらと何かのパンフレットを振った。
「そ、黄花の里にあるリゾート地に行こうと思っている。先行するのは俺と雄吾だけど、他のメンバーも都合が付き次第追ってくるよ。確か、あちらには仲良くなった人間の女の子も居ただろう? 透子ちゃんの気分も変えるのも良いかと思ってね」
私は食卓に残っていた雄吾さんと春くんの顔を見たけど、二人とも微笑んで頷いている。これは夫達の中ではもう通っている話みたい。
「あの、いつからですか? 何泊くらい……?」
「俺と雄吾はどこでも仕事出来るから行きたいなら、今日からでも良いよ。別荘もあるし、もう管理人には手入れするように伝えてあるから。透子ちゃんが居たいだけ居て良いよ。」
別荘! その響きでなんだかウキウキした。もう季節は冬なんだけど、夏場に避暑地に向かう感覚に近いのかもしれない。
「えっと…用意があるので、出来たら明日……くらいが良いです。あと買い物にも行きたいし」
「透子、服とか必要なものは向こうで買えば良いよ」
スーツ姿の春くんがなんでもないように言った。
「でも……」
「良いって良いって。たまには雄吾のお金も使ってあげないと可哀想だよ、本人はほぼ使わないのに増えてく一方なんだし」
「おい、春」
雄吾さんは春くんの頭を新聞で叩いた。
「ははっ、相変わらずだな、お前らは」
子竜さんはその様子を見ながらコーヒーを飲むと面白そうに笑った。
「さて、どうする? 透子ちゃんの服は、あちらへ向かいながら買い物するのも楽しそうだが」
「じゃあ、すぐ行きたいですっ。荷物、用意してきますね」
「りょーかい。ここで待ってるよ」
私は自分のお皿を流しへとおくと慌てて玄関ホールへと向かう。ちらっと食卓を見ると春くんがまた何か言ったのか、次は子竜さんに新聞で叩かれていた。
あれ以来、夫達は小夜乃さんの話はしなかった。でも、時たま殺気だったように、皆で話し合っていたりした時を見かけたりもしていたから、私の知らないところで色々あったのだと思う。敢えて何かあったのか、というのは言わなかった。小夜乃さんがどうなったかは私は知っているけれど、それを何処で聞いたのかはなんとなく言いたくなかった。
それに、巣に戻ってきて私の手足の傷を確認していた時の理人さんの顔は忘れられない。自分のせいだとそう思っているのがわかっていたから、これ以上重荷を背負わせたくはなかった。
私は手早くクローゼットの中の奥にあった、可愛い小さな茶色のトランクに、とりあえず下着やいつも使っている化粧品なんかを詰めていった。服は最低限要りそうなものを手早く選ぶ。
「こんなものかな……」
私は出掛ける準備をして、厚めの白いコートを着込んだ。水色のショールを首に巻いて、トランクに手をかけた。
その時、何かに呼ばれるようにベッド側にある収納の中の手紙を思い出した。
元の世界に戻る方法……か。
私はもう一度その手紙を開くと、そっとゴミ箱に入れた。
私にはもう必要のないものだと、その時、そう思った。
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