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第一部
永遠
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ガタンガタンとした電車の音がする。
私はふっと目を開けて、思った。ああ、ここはまた、夢の中だ。いつも乗っていた電車の薄汚れたライムグリーンの座席に腰掛けたまま、ゆっくり辺りを見渡した。
「透子ちゃん、おはようもおかしいか。この間ぶりだね」
「久祈さん、どうして、ここに?」
私は真正面の座席に腰掛けている、黒いフードを被っている人を見た。長い足を組んで、その上に頬杖をついている。
「うん、まあ、君には伝えておこうと思って。小夜乃は、夫である阿仁の家の本家で一生幽閉処分になったよ。俺たち兄弟でもコンタクトは取ることは二度と叶わない。今回はそれだけのことをしたからね……理人や君の他の夫達も許すつもりはなさそうだ。君の手足の怪我も無事治って良かったよ、治療師を呼んだんだって?」
私は頷いた。治療師と呼ばれる癒しの能力を持っている人達は、人口に対して数が少ないため、治療のために呼ぶためにはかなりの金銭を要求される。夫達は私の手足にあるひどい傷が治るならと金に糸目をつけず呼んでくれて、今はもう傷跡もない。
余談だけれど、阿仁さんも有名な治療師らしくて、族長候補なのも納得らしい。ただ、今回妻がしでかした不始末でその立場も危うくなっているらしいけれど。
「そっか、良かったよ。俺も、心配はしていたから。女の子の体だからね」
ほっとした顔で私を見る久祈さんに私は冷たく返した。
「……久祈さんはこうなることがわかっていたんですか?」
「君の性格から、小夜乃から夢の中で嫌がらせを受け続けるとどう出るかはなんとなく、想像つくね。直接対決をしたいとそう望むだろうと、そう思った。真っ直ぐな性格は好ましいね」
「……久祈さんは、小夜乃さんの味方なんじゃあ?」
「味方……そうずっと大事にはしているよ。ただもう、最近うんざりはしていた。理人がどれだけ拒否しても、諦められないあの子も、もう潮時だ。お互いに結婚したんだからね」
「……私を利用しましたね?」
「そうであるとも、そうでないとも言う」
久祈さんは私を煙に巻くように言った。そっとため息をつく。この人に他に何が聞きたかったんだっけ。
「……死神って何ですか?」
「この前も聞いてたね、そんなに気になる?」
「小夜乃さんは、久祈さんが見張っている存在だって言っていました。どう言うことですか?」
久祈さんはふうっと息をついて、足を組み換えた。
「例えば、この世界が誰かの夢の中だとしたらどうする?」
「……今、私の夢の中です」
「そうじゃない、人狼の世界だ。おかしいとは思わなかったか? 異世界なはずなのに、全て君の居た元の世界と変わらない。まるで、誰かがそうしたいと思ったような……そんな世界だ」
「……いつか、夢は醒めると?」
久祈さんはゆるく首を振った。
「いいや、もう、現実にはいない。……ただ、この夢の中でずっとたくさんの人の夢の中を彷徨っている。ずっと、何かを探しているように」
私はあの耳元で囁かれたミントの香りを思い出した。
きっとあれが死神?
「……もしかしたら、君の持つ何かに惹かれて来たのかもしれないな……あれが誰かに話しかけているのを初めて見た。何を言われたか覚えている?」
私はゆっくり首を振った。
「じゃあ、いつか会えたら聞いてみると良い」
夢の終わりは唐突だ。
私はまだ暗い部屋の中、隣ですうすうと寝息を立てている雄吾さんの手を見つけて、握り締めた。
死神……その存在に会えるなら、聞いてみたい。この世界を、どうして作ろうと思ったの?
私はふっと目を開けて、思った。ああ、ここはまた、夢の中だ。いつも乗っていた電車の薄汚れたライムグリーンの座席に腰掛けたまま、ゆっくり辺りを見渡した。
「透子ちゃん、おはようもおかしいか。この間ぶりだね」
「久祈さん、どうして、ここに?」
私は真正面の座席に腰掛けている、黒いフードを被っている人を見た。長い足を組んで、その上に頬杖をついている。
「うん、まあ、君には伝えておこうと思って。小夜乃は、夫である阿仁の家の本家で一生幽閉処分になったよ。俺たち兄弟でもコンタクトは取ることは二度と叶わない。今回はそれだけのことをしたからね……理人や君の他の夫達も許すつもりはなさそうだ。君の手足の怪我も無事治って良かったよ、治療師を呼んだんだって?」
私は頷いた。治療師と呼ばれる癒しの能力を持っている人達は、人口に対して数が少ないため、治療のために呼ぶためにはかなりの金銭を要求される。夫達は私の手足にあるひどい傷が治るならと金に糸目をつけず呼んでくれて、今はもう傷跡もない。
余談だけれど、阿仁さんも有名な治療師らしくて、族長候補なのも納得らしい。ただ、今回妻がしでかした不始末でその立場も危うくなっているらしいけれど。
「そっか、良かったよ。俺も、心配はしていたから。女の子の体だからね」
ほっとした顔で私を見る久祈さんに私は冷たく返した。
「……久祈さんはこうなることがわかっていたんですか?」
「君の性格から、小夜乃から夢の中で嫌がらせを受け続けるとどう出るかはなんとなく、想像つくね。直接対決をしたいとそう望むだろうと、そう思った。真っ直ぐな性格は好ましいね」
「……久祈さんは、小夜乃さんの味方なんじゃあ?」
「味方……そうずっと大事にはしているよ。ただもう、最近うんざりはしていた。理人がどれだけ拒否しても、諦められないあの子も、もう潮時だ。お互いに結婚したんだからね」
「……私を利用しましたね?」
「そうであるとも、そうでないとも言う」
久祈さんは私を煙に巻くように言った。そっとため息をつく。この人に他に何が聞きたかったんだっけ。
「……死神って何ですか?」
「この前も聞いてたね、そんなに気になる?」
「小夜乃さんは、久祈さんが見張っている存在だって言っていました。どう言うことですか?」
久祈さんはふうっと息をついて、足を組み換えた。
「例えば、この世界が誰かの夢の中だとしたらどうする?」
「……今、私の夢の中です」
「そうじゃない、人狼の世界だ。おかしいとは思わなかったか? 異世界なはずなのに、全て君の居た元の世界と変わらない。まるで、誰かがそうしたいと思ったような……そんな世界だ」
「……いつか、夢は醒めると?」
久祈さんはゆるく首を振った。
「いいや、もう、現実にはいない。……ただ、この夢の中でずっとたくさんの人の夢の中を彷徨っている。ずっと、何かを探しているように」
私はあの耳元で囁かれたミントの香りを思い出した。
きっとあれが死神?
「……もしかしたら、君の持つ何かに惹かれて来たのかもしれないな……あれが誰かに話しかけているのを初めて見た。何を言われたか覚えている?」
私はゆっくり首を振った。
「じゃあ、いつか会えたら聞いてみると良い」
夢の終わりは唐突だ。
私はまだ暗い部屋の中、隣ですうすうと寝息を立てている雄吾さんの手を見つけて、握り締めた。
死神……その存在に会えるなら、聞いてみたい。この世界を、どうして作ろうと思ったの?
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