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第一部
お月さまの行方
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「理人、遅いよ」
皆顔を伏せたり上げたりそれぞれの動きをしながら、その金色の狼を迎えていた。
「すまない。阿仁の奴、この体、全然運動していないな……ここまで上がってくるのにも手間取った」
当たり前のように理人さんの名前で呼ばれるその金色の狼に私は戸惑っていた。私の夫の毛並みは月の色を映したような美しい銀色だったはずだ。
なんで金色なの?
呆気にとられてしまって、私はずっと流れていた涙が止まった。
「透子さん、遅くなってすみません。……もう大丈夫です」
ゆっくりと金色の狼が近づいて来るから、私はやっぱり後ずさった。
「やめて……近付かないで、私今狼骸病にかかっていて……死んじゃうんです。私が、あなたを殺しちゃうんです!」
ふるふると首を振るけど理人さんはなんでもないことのように狼の顔でにっと口の端を上げた。私はなんだか、違和感があった。理人さんはあまり表情を変えることがないからだ。
「……すみません。ちょっとこの体にあまり慣れてなくて。変な顔になってます?」
「えっと、ちょっと……」
私はなんだか、すこし笑ってしまった。もう何だか、すごく、気持ちがハイになってしまったのかもしれない。
ふふっと笑った私を見て皆が力を抜いたのがわかった。すごくピリピリした空気だったのに、ちょっと緩和されたように感じた。
「透子、もう大丈夫だよ。小夜乃の夫である阿仁の能力は万物の病を癒す能力なんだ。」
春くんが躊躇いがちに口を挟んだ。
私はそれを聞いて体から力が抜けてしまった。膝をついて、まんまるなお月さまを見上げる。
なんだか、私の空回りをすこし笑っているみたいで、そう見えただけなのに、ちょっとムッとして春くんに向き直った。
理人さんはその隙に鼻先で私の額にキスをした。
「……どういうこと?」
「言葉の通りだ。今理人が姿を写しとっている阿仁の能力は、小夜乃が透子にうつした狼骸病を治すことが出来るんだ。だから、もう崖から川に飛び込まなくて良いんだよ」
雄吾さんの低くて優しい声が夜の空に響いた。
「さ、もう近寄って良いだろ? もう大丈夫だ。透子ちゃん」
子竜さんがゆっくりと近づいて来た。私に鼻先を近づけて涙を舐めとってくれた。
「心配しました。もうこんな無茶はしないでくださいね」
凛太さんが近づいて私は首にぎゅっと抱きついて謝った。
「ごめんなさい! まさか、こんなことになるなんて、想像できなくて……危険な目に合わせてしまって本当にごめんなさい!」
「……これからはちゃんと話してくださいね。もうこんな無茶はダメですよ」
ふーっとため息をつきながら、凛太さんはぎこちなく体を動かした。
「この体だと抱き返せないですけど……すみません」
「いや、それを言うなら全員だろ、こんなところで真っ裸になるわけにもいかないしな……どうする?」
子竜さんは振り返って雄吾さんを見た。
「透子、そのまま、凛太の背中に乗れ。……腕も足もこんなになって……早く手当てをしないと……」
雄吾さんの言葉に私は頷いて、傍に居た凛太さんの背中へと乗って首にぎゅっと抱きついた。
「行こう! 透子ももう限界だし、俺が帰り道、先導するから、凛太ついて来て」
春くんのその言葉に皆私を囲むように走り出した。
目の端で金色の狼が、ブルブルと身を震わせて、銀色の狼に戻るのが見えた。
皆顔を伏せたり上げたりそれぞれの動きをしながら、その金色の狼を迎えていた。
「すまない。阿仁の奴、この体、全然運動していないな……ここまで上がってくるのにも手間取った」
当たり前のように理人さんの名前で呼ばれるその金色の狼に私は戸惑っていた。私の夫の毛並みは月の色を映したような美しい銀色だったはずだ。
なんで金色なの?
呆気にとられてしまって、私はずっと流れていた涙が止まった。
「透子さん、遅くなってすみません。……もう大丈夫です」
ゆっくりと金色の狼が近づいて来るから、私はやっぱり後ずさった。
「やめて……近付かないで、私今狼骸病にかかっていて……死んじゃうんです。私が、あなたを殺しちゃうんです!」
ふるふると首を振るけど理人さんはなんでもないことのように狼の顔でにっと口の端を上げた。私はなんだか、違和感があった。理人さんはあまり表情を変えることがないからだ。
「……すみません。ちょっとこの体にあまり慣れてなくて。変な顔になってます?」
「えっと、ちょっと……」
私はなんだか、すこし笑ってしまった。もう何だか、すごく、気持ちがハイになってしまったのかもしれない。
ふふっと笑った私を見て皆が力を抜いたのがわかった。すごくピリピリした空気だったのに、ちょっと緩和されたように感じた。
「透子、もう大丈夫だよ。小夜乃の夫である阿仁の能力は万物の病を癒す能力なんだ。」
春くんが躊躇いがちに口を挟んだ。
私はそれを聞いて体から力が抜けてしまった。膝をついて、まんまるなお月さまを見上げる。
なんだか、私の空回りをすこし笑っているみたいで、そう見えただけなのに、ちょっとムッとして春くんに向き直った。
理人さんはその隙に鼻先で私の額にキスをした。
「……どういうこと?」
「言葉の通りだ。今理人が姿を写しとっている阿仁の能力は、小夜乃が透子にうつした狼骸病を治すことが出来るんだ。だから、もう崖から川に飛び込まなくて良いんだよ」
雄吾さんの低くて優しい声が夜の空に響いた。
「さ、もう近寄って良いだろ? もう大丈夫だ。透子ちゃん」
子竜さんがゆっくりと近づいて来た。私に鼻先を近づけて涙を舐めとってくれた。
「心配しました。もうこんな無茶はしないでくださいね」
凛太さんが近づいて私は首にぎゅっと抱きついて謝った。
「ごめんなさい! まさか、こんなことになるなんて、想像できなくて……危険な目に合わせてしまって本当にごめんなさい!」
「……これからはちゃんと話してくださいね。もうこんな無茶はダメですよ」
ふーっとため息をつきながら、凛太さんはぎこちなく体を動かした。
「この体だと抱き返せないですけど……すみません」
「いや、それを言うなら全員だろ、こんなところで真っ裸になるわけにもいかないしな……どうする?」
子竜さんは振り返って雄吾さんを見た。
「透子、そのまま、凛太の背中に乗れ。……腕も足もこんなになって……早く手当てをしないと……」
雄吾さんの言葉に私は頷いて、傍に居た凛太さんの背中へと乗って首にぎゅっと抱きついた。
「行こう! 透子ももう限界だし、俺が帰り道、先導するから、凛太ついて来て」
春くんのその言葉に皆私を囲むように走り出した。
目の端で金色の狼が、ブルブルと身を震わせて、銀色の狼に戻るのが見えた。
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