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第一部
黄昏
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私は手をぎゅっと握りしめながら、小夜乃さんの言葉に従っていた。
彼女は車を器用に運転すると、私に助手席に乗るように言ってきた。それから、ずっと森の中に入り込むように曲がりくねった山道を進んでいる。
もちろん、こんな風になることも折込済みで、ちゃんと安全策は残してきた。いつも定時帰りの春くんが気がつくだろう場所に今回の計画の手紙を置いてきた。スマホのGPSもあるし、気がついたなら、急いで駆けつけてきてくれるはずだ。
そしてまさか、直接殺されはしないだろうとどこかで高をくくっていた。
「ねえ、怖くないの。森の中に取り残されるかもしれないのに」
小夜乃さんは楽しそうに言った。私はこくんと息を飲みながら、彼女の顔を見る。
「……怖くありません。きっと……迎えにきてくれるって信じてますから」
「あらあら、真実の愛って素敵ね。私も……一つで良いから、そんなものが欲しかった」
キーッとブレーキを踏む。すこしひらけた原っぱだ。降りるように指示され、私はドアを開いて車から降りる。
「そう、真実の愛って尊いわ。きっと貴女がどこに居たって、夫の誰かが見つけてくれるでしょうね」
「……何が言いたいんですか?」
「きっと貴女の思い通りよ。この世界は。良いわね。素敵な五人の夫達! 異世界から来た人間だと言うのに迫害もされずに、大事にされて……そんな生き方とっても羨ましいわ」
私は歌うように言葉を続ける小夜乃さんを見ながら、どこか演劇を観ているような錯覚に陥った。小夜乃さんは今何も言ってもきっと無駄だ。
「だからね、貴女にとっておきのプレゼントをあげる」
小夜乃さんはゆっくり近づいてくると私の額に人差し指を当てた。彼女が何がしたいのかよく分からなくてしかめっ面にまた眉を寄せてしまう。
「はい。貴女はこれで、狼骸病と言う人狼を数時間で死に至らしめる病気になりました」
「……え?」
私は呆然とした。
「ふふっ、大丈夫よ。人間だから、貴女は貴女だけは、死なないの。でも……夫達はどうかしら? きっと助けにきてくれるわよね? でも、そうしたら死んじゃうのよ? 可哀想ね。可哀想だわ」
「そんな……でも小夜乃さん、貴女は?」
それなら、自分も死んでしまうのじゃないだろうか? そんな疑問を持った私を馬鹿にするように小夜乃さんは笑った。
「自分の能力で生み出したものには、自分は影響されないのよ? そんなことも知らないのね」
私は口に両手を当てた。そうだ。春くんだって言っていたじゃない。あの時、自分の能力には殺されないって、そう言ってた。
「ふふふっ、大変ねえ。きっとお姫様を迎えに王子様達は来てくれる。でも、王子様は命を落とすから、やっぱりどっちも可哀想かしら?」
「……どうして、こんなことを?」
「なんでも良いの。理人兄さんが私のものにならないなら。なんでも良いのよ」
歌うように言うと、その美しい顔で笑いながら涙をこぼした。
「さあ、この森の中、急いで逃げないと、貴女の大事な夫達、殺しちゃうわよ? それでも良いの?」
私はさあっと自分の血が引いていくのを感じた。
彼女は車を器用に運転すると、私に助手席に乗るように言ってきた。それから、ずっと森の中に入り込むように曲がりくねった山道を進んでいる。
もちろん、こんな風になることも折込済みで、ちゃんと安全策は残してきた。いつも定時帰りの春くんが気がつくだろう場所に今回の計画の手紙を置いてきた。スマホのGPSもあるし、気がついたなら、急いで駆けつけてきてくれるはずだ。
そしてまさか、直接殺されはしないだろうとどこかで高をくくっていた。
「ねえ、怖くないの。森の中に取り残されるかもしれないのに」
小夜乃さんは楽しそうに言った。私はこくんと息を飲みながら、彼女の顔を見る。
「……怖くありません。きっと……迎えにきてくれるって信じてますから」
「あらあら、真実の愛って素敵ね。私も……一つで良いから、そんなものが欲しかった」
キーッとブレーキを踏む。すこしひらけた原っぱだ。降りるように指示され、私はドアを開いて車から降りる。
「そう、真実の愛って尊いわ。きっと貴女がどこに居たって、夫の誰かが見つけてくれるでしょうね」
「……何が言いたいんですか?」
「きっと貴女の思い通りよ。この世界は。良いわね。素敵な五人の夫達! 異世界から来た人間だと言うのに迫害もされずに、大事にされて……そんな生き方とっても羨ましいわ」
私は歌うように言葉を続ける小夜乃さんを見ながら、どこか演劇を観ているような錯覚に陥った。小夜乃さんは今何も言ってもきっと無駄だ。
「だからね、貴女にとっておきのプレゼントをあげる」
小夜乃さんはゆっくり近づいてくると私の額に人差し指を当てた。彼女が何がしたいのかよく分からなくてしかめっ面にまた眉を寄せてしまう。
「はい。貴女はこれで、狼骸病と言う人狼を数時間で死に至らしめる病気になりました」
「……え?」
私は呆然とした。
「ふふっ、大丈夫よ。人間だから、貴女は貴女だけは、死なないの。でも……夫達はどうかしら? きっと助けにきてくれるわよね? でも、そうしたら死んじゃうのよ? 可哀想ね。可哀想だわ」
「そんな……でも小夜乃さん、貴女は?」
それなら、自分も死んでしまうのじゃないだろうか? そんな疑問を持った私を馬鹿にするように小夜乃さんは笑った。
「自分の能力で生み出したものには、自分は影響されないのよ? そんなことも知らないのね」
私は口に両手を当てた。そうだ。春くんだって言っていたじゃない。あの時、自分の能力には殺されないって、そう言ってた。
「ふふふっ、大変ねえ。きっとお姫様を迎えに王子様達は来てくれる。でも、王子様は命を落とすから、やっぱりどっちも可哀想かしら?」
「……どうして、こんなことを?」
「なんでも良いの。理人兄さんが私のものにならないなら。なんでも良いのよ」
歌うように言うと、その美しい顔で笑いながら涙をこぼした。
「さあ、この森の中、急いで逃げないと、貴女の大事な夫達、殺しちゃうわよ? それでも良いの?」
私はさあっと自分の血が引いていくのを感じた。
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