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第一部
ご馳走さま
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理人さんの匂いのするベッドの中に潜り込んで、うつらうつらしていた私はガチャンとノブが回る音を聞いて、ぱちっと目を覚ました。
「……透子さん? どうして僕の部屋に?」
すごく驚いた気配がする。私が慌てて半身を起こすと、スーツ姿でベッド側まで歩いて来ていた理人さんの方向を見た。今日も変わらずに我が夫は颯爽とグレーのスーツを着こなしていた。まるで外国の雑誌のモデルさんみたいないで立ちだ。
「あの、ちょっと話がしたくて」
「……わかりました。ちょっと待ってくださいね」
手に持った書類をテーブルの上に置いて、ジャケットを脱いでからネクタイを外す。そうしてからもう一度ベッドに腰掛けて私の頭を撫でた。
「どうしました? 何か、ありましたか?」
私はその手の冷たさにふるっと震えたけれど、少しでも温めたくて、外気で冷え切ってしまっているその手を両手で取った。
「小夜乃さんが、また夢に出ました。久祈さんにお願いしたと、そう言っていました」
「小夜乃が!? それも兄が……すみません。ちょっと電話を……」
その手を引いて、椅子にかけたジャケットの方向へと行こうとする理人さんを止めた。
「違うんです。違うんです……そうじゃなくって……その、夢で会うのはもうしょうがないことだと思うんです。それに、久祈さんが小夜乃さんの甘いのはわかっています。ただ……私、もっと強くなりたくて」
「……透子さん?」
「その、小夜乃さんや前に出て来た猫又や、夢の中から攻撃を仕掛けられることはよくわかりました。その都度……お仕事もあるでしょうし、久祈さんに助けてもらうことは難しいでしょう。だから、お願いがあるんです」
「お願い?」
理人さんは私を腕で囲ってゆるく抱きしめながら、首を傾げた。
「そうです。夢の中で、私が取れる対抗策を、久祈さんに教えてもらいたくって。起きている間は皆に守ってもらえますけど、夢の中では自分の身は自分で守るしかないと思うんです。……他の人の夢の中なら難しいかもしれないんですけど、自分の夢の中でなら、何か出来るかもしれないですし。こういうことから逃げ惑うのも、皆に心配かけるのも、嫌なんです。自分の夢の中でくらい、自分の身を守りたくて」
「透子さん……」
理人さんは薄いグレーの目を細めて私を見た。
「お願い、聞いてもらえますか?」
「……兄には話しておきます。すみません。この前にも言っておいたはずなんですけど、どうもあの人は……僕以外の兄弟は小夜乃に弱くて。きちんと我が妻の希望を伝えます」
「ありがとうございます。理人さん」
「いいえ……僕にはあなたの望みが最優先なので。それだけ、ですか? 透子さん」
理人さんは、ちょっと色っぽい表情になって私を抱き寄せた。
「それだけ? というと?」
「いいえ、この肌寒い季節に僕のベッドを温めてくれた妻とすることは決まっているかなと思うんですけど」
「ふふっ。こんな時間までお仕事だったのに、お疲れじゃないんですか?
理人さんは舌で私の首筋を舐めると、挑戦的に笑った。
「こんなに美味しいご馳走を目の前にして寝てしまう奴の気がしれないですね」
「……透子さん? どうして僕の部屋に?」
すごく驚いた気配がする。私が慌てて半身を起こすと、スーツ姿でベッド側まで歩いて来ていた理人さんの方向を見た。今日も変わらずに我が夫は颯爽とグレーのスーツを着こなしていた。まるで外国の雑誌のモデルさんみたいないで立ちだ。
「あの、ちょっと話がしたくて」
「……わかりました。ちょっと待ってくださいね」
手に持った書類をテーブルの上に置いて、ジャケットを脱いでからネクタイを外す。そうしてからもう一度ベッドに腰掛けて私の頭を撫でた。
「どうしました? 何か、ありましたか?」
私はその手の冷たさにふるっと震えたけれど、少しでも温めたくて、外気で冷え切ってしまっているその手を両手で取った。
「小夜乃さんが、また夢に出ました。久祈さんにお願いしたと、そう言っていました」
「小夜乃が!? それも兄が……すみません。ちょっと電話を……」
その手を引いて、椅子にかけたジャケットの方向へと行こうとする理人さんを止めた。
「違うんです。違うんです……そうじゃなくって……その、夢で会うのはもうしょうがないことだと思うんです。それに、久祈さんが小夜乃さんの甘いのはわかっています。ただ……私、もっと強くなりたくて」
「……透子さん?」
「その、小夜乃さんや前に出て来た猫又や、夢の中から攻撃を仕掛けられることはよくわかりました。その都度……お仕事もあるでしょうし、久祈さんに助けてもらうことは難しいでしょう。だから、お願いがあるんです」
「お願い?」
理人さんは私を腕で囲ってゆるく抱きしめながら、首を傾げた。
「そうです。夢の中で、私が取れる対抗策を、久祈さんに教えてもらいたくって。起きている間は皆に守ってもらえますけど、夢の中では自分の身は自分で守るしかないと思うんです。……他の人の夢の中なら難しいかもしれないんですけど、自分の夢の中でなら、何か出来るかもしれないですし。こういうことから逃げ惑うのも、皆に心配かけるのも、嫌なんです。自分の夢の中でくらい、自分の身を守りたくて」
「透子さん……」
理人さんは薄いグレーの目を細めて私を見た。
「お願い、聞いてもらえますか?」
「……兄には話しておきます。すみません。この前にも言っておいたはずなんですけど、どうもあの人は……僕以外の兄弟は小夜乃に弱くて。きちんと我が妻の希望を伝えます」
「ありがとうございます。理人さん」
「いいえ……僕にはあなたの望みが最優先なので。それだけ、ですか? 透子さん」
理人さんは、ちょっと色っぽい表情になって私を抱き寄せた。
「それだけ? というと?」
「いいえ、この肌寒い季節に僕のベッドを温めてくれた妻とすることは決まっているかなと思うんですけど」
「ふふっ。こんな時間までお仕事だったのに、お疲れじゃないんですか?
理人さんは舌で私の首筋を舐めると、挑戦的に笑った。
「こんなに美味しいご馳走を目の前にして寝てしまう奴の気がしれないですね」
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