97 / 151
第一部
ご馳走さま
しおりを挟む 理人さんの匂いのするベッドの中に潜り込んで、うつらうつらしていた私はガチャンとノブが回る音を聞いて、ぱちっと目を覚ました。
「……透子さん? どうして僕の部屋に?」
すごく驚いた気配がする。私が慌てて半身を起こすと、スーツ姿でベッド側まで歩いて来ていた理人さんの方向を見た。今日も変わらずに我が夫は颯爽とグレーのスーツを着こなしていた。まるで外国の雑誌のモデルさんみたいないで立ちだ。
「あの、ちょっと話がしたくて」
「……わかりました。ちょっと待ってくださいね」
手に持った書類をテーブルの上に置いて、ジャケットを脱いでからネクタイを外す。そうしてからもう一度ベッドに腰掛けて私の頭を撫でた。
「どうしました? 何か、ありましたか?」
私はその手の冷たさにふるっと震えたけれど、少しでも温めたくて、外気で冷え切ってしまっているその手を両手で取った。
「小夜乃さんが、また夢に出ました。久祈さんにお願いしたと、そう言っていました」
「小夜乃が!? それも兄が……すみません。ちょっと電話を……」
その手を引いて、椅子にかけたジャケットの方向へと行こうとする理人さんを止めた。
「違うんです。違うんです……そうじゃなくって……その、夢で会うのはもうしょうがないことだと思うんです。それに、久祈さんが小夜乃さんの甘いのはわかっています。ただ……私、もっと強くなりたくて」
「……透子さん?」
「その、小夜乃さんや前に出て来た猫又や、夢の中から攻撃を仕掛けられることはよくわかりました。その都度……お仕事もあるでしょうし、久祈さんに助けてもらうことは難しいでしょう。だから、お願いがあるんです」
「お願い?」
理人さんは私を腕で囲ってゆるく抱きしめながら、首を傾げた。
「そうです。夢の中で、私が取れる対抗策を、久祈さんに教えてもらいたくって。起きている間は皆に守ってもらえますけど、夢の中では自分の身は自分で守るしかないと思うんです。……他の人の夢の中なら難しいかもしれないんですけど、自分の夢の中でなら、何か出来るかもしれないですし。こういうことから逃げ惑うのも、皆に心配かけるのも、嫌なんです。自分の夢の中でくらい、自分の身を守りたくて」
「透子さん……」
理人さんは薄いグレーの目を細めて私を見た。
「お願い、聞いてもらえますか?」
「……兄には話しておきます。すみません。この前にも言っておいたはずなんですけど、どうもあの人は……僕以外の兄弟は小夜乃に弱くて。きちんと我が妻の希望を伝えます」
「ありがとうございます。理人さん」
「いいえ……僕にはあなたの望みが最優先なので。それだけ、ですか? 透子さん」
理人さんは、ちょっと色っぽい表情になって私を抱き寄せた。
「それだけ? というと?」
「いいえ、この肌寒い季節に僕のベッドを温めてくれた妻とすることは決まっているかなと思うんですけど」
「ふふっ。こんな時間までお仕事だったのに、お疲れじゃないんですか?
理人さんは舌で私の首筋を舐めると、挑戦的に笑った。
「こんなに美味しいご馳走を目の前にして寝てしまう奴の気がしれないですね」
「……透子さん? どうして僕の部屋に?」
すごく驚いた気配がする。私が慌てて半身を起こすと、スーツ姿でベッド側まで歩いて来ていた理人さんの方向を見た。今日も変わらずに我が夫は颯爽とグレーのスーツを着こなしていた。まるで外国の雑誌のモデルさんみたいないで立ちだ。
「あの、ちょっと話がしたくて」
「……わかりました。ちょっと待ってくださいね」
手に持った書類をテーブルの上に置いて、ジャケットを脱いでからネクタイを外す。そうしてからもう一度ベッドに腰掛けて私の頭を撫でた。
「どうしました? 何か、ありましたか?」
私はその手の冷たさにふるっと震えたけれど、少しでも温めたくて、外気で冷え切ってしまっているその手を両手で取った。
「小夜乃さんが、また夢に出ました。久祈さんにお願いしたと、そう言っていました」
「小夜乃が!? それも兄が……すみません。ちょっと電話を……」
その手を引いて、椅子にかけたジャケットの方向へと行こうとする理人さんを止めた。
「違うんです。違うんです……そうじゃなくって……その、夢で会うのはもうしょうがないことだと思うんです。それに、久祈さんが小夜乃さんの甘いのはわかっています。ただ……私、もっと強くなりたくて」
「……透子さん?」
「その、小夜乃さんや前に出て来た猫又や、夢の中から攻撃を仕掛けられることはよくわかりました。その都度……お仕事もあるでしょうし、久祈さんに助けてもらうことは難しいでしょう。だから、お願いがあるんです」
「お願い?」
理人さんは私を腕で囲ってゆるく抱きしめながら、首を傾げた。
「そうです。夢の中で、私が取れる対抗策を、久祈さんに教えてもらいたくって。起きている間は皆に守ってもらえますけど、夢の中では自分の身は自分で守るしかないと思うんです。……他の人の夢の中なら難しいかもしれないんですけど、自分の夢の中でなら、何か出来るかもしれないですし。こういうことから逃げ惑うのも、皆に心配かけるのも、嫌なんです。自分の夢の中でくらい、自分の身を守りたくて」
「透子さん……」
理人さんは薄いグレーの目を細めて私を見た。
「お願い、聞いてもらえますか?」
「……兄には話しておきます。すみません。この前にも言っておいたはずなんですけど、どうもあの人は……僕以外の兄弟は小夜乃に弱くて。きちんと我が妻の希望を伝えます」
「ありがとうございます。理人さん」
「いいえ……僕にはあなたの望みが最優先なので。それだけ、ですか? 透子さん」
理人さんは、ちょっと色っぽい表情になって私を抱き寄せた。
「それだけ? というと?」
「いいえ、この肌寒い季節に僕のベッドを温めてくれた妻とすることは決まっているかなと思うんですけど」
「ふふっ。こんな時間までお仕事だったのに、お疲れじゃないんですか?
理人さんは舌で私の首筋を舐めると、挑戦的に笑った。
「こんなに美味しいご馳走を目の前にして寝てしまう奴の気がしれないですね」
39
お気に入りに追加
1,903
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる