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第一部
思慕
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「……私が帰ったとしたら小夜乃さんに、何か良いことがあるんですか?」
私は魚の群れが続々と背後を通り抜けて影を作っていく中、小夜乃さんを見ていた。この人は……多分もう理人さんのことしか考えていない。その他はきっとなんでも良いんだ。
きっと、きっと自分のことでさえ。
「ううん? すごく邪魔だなーって思っただけ。理人兄さんは真面目だからきっと、貴女がいなくなったら再婚なんて考えないと思う。私は自分のものにならないのなら、誰のものにもしたくないのよ。それには貴女がすごく邪魔だから」
にっこりと笑いながら、私の方に近づいてくる。
「貴女はずっと誰かに守られてるから、つまらないわ」
私は大きな影で表情が見えなくなってしまった小夜乃さんを見るために目を凝らした。まるで別人になったような気がしたからだ。大きな影から、そう飛び出してくる魔物のような。そんな不気味な。
「透子さん?」
その瞬間、凛太さんの整った顔が間近にあって、ふうっと大きな息をついた。あの不気味な水族館の夢から目覚めたんだ。
私はゾクリとして体を震わせた。夢なら、あの人も、その、夢使いの能力を持つ久祈さん次第とは言え、出入り自由ってこと? ちゃんと理人さんにも話さなきゃ……。
「透子さん、大丈夫ですか?」
凛太さんが眉を寄せて重ねて尋ねてくる。私は静かに首を振ってその首に抱きついた。
「……すみません、ちょっとこのままで居ても良いですか?」
「それは、もちろん……役得ですけど。悪い夢でも見ました?」
「はい、すごく、怖い夢を」
石鹸の爽やかな匂いのするその体を抱きしめた。この世界に残る理由の一つを。
「えっと、私ちょっと今夜は理人さんと寝ますね」
夕飯を食べ終えてそう宣言した私に、食卓に座っている三人はなんだか変な顔をした。私がこういう風に指名することは今までなかったからびっくりさせてしまったかな。
「それは良いんだけど、また順番組み直しになるね~。透子、今日は理人遅くなるって聞いてるけど、それ待つつもり?」
春くんはなんだか不思議なことを言い出した。順番?
「う、うん。ちょっと理人さんと話したいことがあって」
「それは俺達を交えては、難しい話なのか?」
雄吾さんにしては珍しく、ちょっと不機嫌そうに言った。
「そんなことない、です。ただ、理人さんに伺ってからと思って」
「……透子さん、もしかして、あの時悪い夢を見たって言っていたのは……」
凛太さんは眉を寄せて言った。雄吾さんと春くんはそれを聞いて、一気に表情を怖くした。
「もしかしてまた、あいつ? それとも、久祈の力を借りた小夜乃かな。夢の中って俺たちどうしようもないじゃん。ほんとーに厄介だな」
「……透子、何があったんだ。それによって俺達も対処の方法が変わってくる。言ってくれないか」
真剣な顔で三人に見つめられるから、私は戸惑いながら、今日見た夢の話をした。
「小夜乃ねえ、あいつまじでふざけてるな。あんだけ嫌がられてても、迫る気持ちも俺にはわからないし」
「そうだな、これは理人の問題だが……透子も関わっている以上俺達も見逃すことは出来ない」
「そうすると、夢使いの久祈、という人とも話す必要がありますね。僕の妻に危害を加えるからには相応の礼をしたいです」
口々に話し出す夫達に困り顔の私。
そうは言っても、小夜乃さんに表立って何かをされたという訳でもないから、どうすることも出来ないかな。
ただ、夢の中にはもう出て欲しくないけど。
私は魚の群れが続々と背後を通り抜けて影を作っていく中、小夜乃さんを見ていた。この人は……多分もう理人さんのことしか考えていない。その他はきっとなんでも良いんだ。
きっと、きっと自分のことでさえ。
「ううん? すごく邪魔だなーって思っただけ。理人兄さんは真面目だからきっと、貴女がいなくなったら再婚なんて考えないと思う。私は自分のものにならないのなら、誰のものにもしたくないのよ。それには貴女がすごく邪魔だから」
にっこりと笑いながら、私の方に近づいてくる。
「貴女はずっと誰かに守られてるから、つまらないわ」
私は大きな影で表情が見えなくなってしまった小夜乃さんを見るために目を凝らした。まるで別人になったような気がしたからだ。大きな影から、そう飛び出してくる魔物のような。そんな不気味な。
「透子さん?」
その瞬間、凛太さんの整った顔が間近にあって、ふうっと大きな息をついた。あの不気味な水族館の夢から目覚めたんだ。
私はゾクリとして体を震わせた。夢なら、あの人も、その、夢使いの能力を持つ久祈さん次第とは言え、出入り自由ってこと? ちゃんと理人さんにも話さなきゃ……。
「透子さん、大丈夫ですか?」
凛太さんが眉を寄せて重ねて尋ねてくる。私は静かに首を振ってその首に抱きついた。
「……すみません、ちょっとこのままで居ても良いですか?」
「それは、もちろん……役得ですけど。悪い夢でも見ました?」
「はい、すごく、怖い夢を」
石鹸の爽やかな匂いのするその体を抱きしめた。この世界に残る理由の一つを。
「えっと、私ちょっと今夜は理人さんと寝ますね」
夕飯を食べ終えてそう宣言した私に、食卓に座っている三人はなんだか変な顔をした。私がこういう風に指名することは今までなかったからびっくりさせてしまったかな。
「それは良いんだけど、また順番組み直しになるね~。透子、今日は理人遅くなるって聞いてるけど、それ待つつもり?」
春くんはなんだか不思議なことを言い出した。順番?
「う、うん。ちょっと理人さんと話したいことがあって」
「それは俺達を交えては、難しい話なのか?」
雄吾さんにしては珍しく、ちょっと不機嫌そうに言った。
「そんなことない、です。ただ、理人さんに伺ってからと思って」
「……透子さん、もしかして、あの時悪い夢を見たって言っていたのは……」
凛太さんは眉を寄せて言った。雄吾さんと春くんはそれを聞いて、一気に表情を怖くした。
「もしかしてまた、あいつ? それとも、久祈の力を借りた小夜乃かな。夢の中って俺たちどうしようもないじゃん。ほんとーに厄介だな」
「……透子、何があったんだ。それによって俺達も対処の方法が変わってくる。言ってくれないか」
真剣な顔で三人に見つめられるから、私は戸惑いながら、今日見た夢の話をした。
「小夜乃ねえ、あいつまじでふざけてるな。あんだけ嫌がられてても、迫る気持ちも俺にはわからないし」
「そうだな、これは理人の問題だが……透子も関わっている以上俺達も見逃すことは出来ない」
「そうすると、夢使いの久祈、という人とも話す必要がありますね。僕の妻に危害を加えるからには相応の礼をしたいです」
口々に話し出す夫達に困り顔の私。
そうは言っても、小夜乃さんに表立って何かをされたという訳でもないから、どうすることも出来ないかな。
ただ、夢の中にはもう出て欲しくないけど。
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