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第一部
恋慕
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私の夫同士との関わり合いは、ある種独特だ。
ルールでもあるのか、私と一緒にいる時でも、もし他の夫が居たりすると私の体には触れないし、そういうことを仕掛けていたりは絶対しない。
私がなんとなく誰かに寄り添ったりする分には誰も何も言わないんだけど、例えば部屋に二人で入ることになったらやっぱりそれからは誰も訪ねてきたりなんてしないし、やっぱり私と一緒の時間を共有することはこれからないのかもしれない。
「透子、どうしたの」
リビングで私と春くんは映画を見ていた。中盤にかけて悲しいラブストーリーだけど、最後はまさかの大団円。ほっとしてエンドロール中思わぬ考え事が捗ってしまった。
「ううん、なんでもないよ。この映画すごく良かった。やっぱり最後はハッピーエンドが良いよね」
ゆるく首を振りながら答えた私に春くんはふふっと微笑んだ。
「俺は悲恋物も好きだけどね。結ばれるだけが恋じゃないし」
「春くんて時々深いよね」
じっとその大きな栗色の目を見つめた私に春くんは不満げに頬を膨らませた。
「え? いつも深いでしょ? いつも良いこと言ってるじゃん」
「そういうことにしとく」
春くんは飛びかかって来てふふっと笑った私の頭をくしゃくしゃと混ぜた。
ひとしきりじゃれてから春くんは濃い緑のセーターを着た体をふるっと震わせた。
「はー、もう寒くなって来たね? 空調もっと強くする?」
「ううん。良い。ちょっと部屋に帰ろうかな。スマホも忘れて来ちゃったし」
「そ? そうしたら俺その隙にちょっと買い物に出てくるね、雄吾と凛太も部屋にいるから大丈夫だと思うけど、何かあったら連絡して」
玄関ホールで車の鍵片手に出ていく春くんに手を振って、私は階段をトントンと音をさせて上がった。
部屋まで辿り着いてスマホを見ると理人さんと子竜さんから連絡が来ていたから、返信する。二人共、忙しくてあんまり会えないんだけど、その分連絡はマメなんだよね。話題は次の休みの時に何をするか、とかが多い。
私はそのままベッドに横になった。
このまま、そうこのまま、やっていくことが出来たなら。
私は自分の世界を捨てたことを納得出来るのかな。
捨てたと言えば語弊がある。私は自分から帰る方法をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てただけ。
親も友達も居た世界へ戻る鍵を。
今度会うなら、水族館に行こう。そう、約束したのは誰だっけ。もうわからなかった。
「わ、すごい。ジンベイザメ? 大きくて綺麗な生き物よね」
私ははっとして、目を見開いた、と思う。傍にいたのはふわふわの銀の髪の女の子。薄暗い水族館の中、彼女の周りだけが光り輝いている、そんな気がした。神様に特別に愛されたような、そんな女の子。
「小夜乃さん……? これは……夢?」
私は自分の両手を見る。さっき自分の部屋に居た。あのまま、ベッドでうたたねしちゃったのかもしれない。夢を見ている時の独特の浮遊感を感じる。
「そう、こんにちは。透子お義姉さん。この前はご挨拶も出来なくて」
にっこりと綺麗な笑顔で笑う。
「……えっと、もしかして久祈さんに頼まれました?」
「ふふっ。そうなの。よく知ってるのね。久祈兄さんも理人兄さんも私の同父の兄達。どうしても貴女に挨拶がしたいって泣いたの。久祈兄さんは私が泣くと弱いから。理人兄さんも昔はそうだったんだけどな」
じっと、私を見ているような、私を通り越してその背後にいる誰かを見つめているような、そんな不思議な表情だった。
「ねえ、帰りたくないの。元の世界に」
ルールでもあるのか、私と一緒にいる時でも、もし他の夫が居たりすると私の体には触れないし、そういうことを仕掛けていたりは絶対しない。
私がなんとなく誰かに寄り添ったりする分には誰も何も言わないんだけど、例えば部屋に二人で入ることになったらやっぱりそれからは誰も訪ねてきたりなんてしないし、やっぱり私と一緒の時間を共有することはこれからないのかもしれない。
「透子、どうしたの」
リビングで私と春くんは映画を見ていた。中盤にかけて悲しいラブストーリーだけど、最後はまさかの大団円。ほっとしてエンドロール中思わぬ考え事が捗ってしまった。
「ううん、なんでもないよ。この映画すごく良かった。やっぱり最後はハッピーエンドが良いよね」
ゆるく首を振りながら答えた私に春くんはふふっと微笑んだ。
「俺は悲恋物も好きだけどね。結ばれるだけが恋じゃないし」
「春くんて時々深いよね」
じっとその大きな栗色の目を見つめた私に春くんは不満げに頬を膨らませた。
「え? いつも深いでしょ? いつも良いこと言ってるじゃん」
「そういうことにしとく」
春くんは飛びかかって来てふふっと笑った私の頭をくしゃくしゃと混ぜた。
ひとしきりじゃれてから春くんは濃い緑のセーターを着た体をふるっと震わせた。
「はー、もう寒くなって来たね? 空調もっと強くする?」
「ううん。良い。ちょっと部屋に帰ろうかな。スマホも忘れて来ちゃったし」
「そ? そうしたら俺その隙にちょっと買い物に出てくるね、雄吾と凛太も部屋にいるから大丈夫だと思うけど、何かあったら連絡して」
玄関ホールで車の鍵片手に出ていく春くんに手を振って、私は階段をトントンと音をさせて上がった。
部屋まで辿り着いてスマホを見ると理人さんと子竜さんから連絡が来ていたから、返信する。二人共、忙しくてあんまり会えないんだけど、その分連絡はマメなんだよね。話題は次の休みの時に何をするか、とかが多い。
私はそのままベッドに横になった。
このまま、そうこのまま、やっていくことが出来たなら。
私は自分の世界を捨てたことを納得出来るのかな。
捨てたと言えば語弊がある。私は自分から帰る方法をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てただけ。
親も友達も居た世界へ戻る鍵を。
今度会うなら、水族館に行こう。そう、約束したのは誰だっけ。もうわからなかった。
「わ、すごい。ジンベイザメ? 大きくて綺麗な生き物よね」
私ははっとして、目を見開いた、と思う。傍にいたのはふわふわの銀の髪の女の子。薄暗い水族館の中、彼女の周りだけが光り輝いている、そんな気がした。神様に特別に愛されたような、そんな女の子。
「小夜乃さん……? これは……夢?」
私は自分の両手を見る。さっき自分の部屋に居た。あのまま、ベッドでうたたねしちゃったのかもしれない。夢を見ている時の独特の浮遊感を感じる。
「そう、こんにちは。透子お義姉さん。この前はご挨拶も出来なくて」
にっこりと綺麗な笑顔で笑う。
「……えっと、もしかして久祈さんに頼まれました?」
「ふふっ。そうなの。よく知ってるのね。久祈兄さんも理人兄さんも私の同父の兄達。どうしても貴女に挨拶がしたいって泣いたの。久祈兄さんは私が泣くと弱いから。理人兄さんも昔はそうだったんだけどな」
じっと、私を見ているような、私を通り越してその背後にいる誰かを見つめているような、そんな不思議な表情だった。
「ねえ、帰りたくないの。元の世界に」
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