92 / 151
第一部
うつろう
しおりを挟む
ぽたりと落ちた水滴は月の光を浴びて光ると、プールに落ちて見えなくなる。
「しないです」
呆気にとられたように子竜さんは目を見開いた。ふっと笑顔になった私に向かってまた首を傾げる。
「それはまた、どうして?」
「私は私を好きで居てくれる人じゃないとそう言うこと、したくないんです」
「うん、俺は透子ちゃん好きだよね?」
「でも、自分は傷つきたくないんでしょう?」
「……降参だなあ、どうして、わかるんだろう」
「欲しいものは欲しいと言うくせに臆病なんですね」
私はゆっくり後ろに倒れて、背泳ぎで泳ぎ出した。半ドーム型になっているから、満点の星空の元、まるで空に浮かんでいるような錯覚もしてしまいそう。
「怖いよ、君がこの世界の中、一番手に入れたいものだ。君こそが俺が今まで求めていたもの。それが手に入りそうな時、どうして何も考えずに大胆で居られる? 臆病になるのは生き物の本能だと思うけどね」
私はプールの水の中仰向けで漂っていたけど、いきなり腰に手を回されて、水に引き込まれた。白い泡の中、見えるのは燃えるような揺らめく赤髪と真剣な子竜さんの目。そのまま口付けられて、条件反射で開いた口に厚い舌が忍び込む。ざばっと水の上に顔を出した時は、互いが舌を絡めあって、素肌に近い体を重ねていた。
「ん、……んん、子竜さ……」
「すきだ……どうしたら、伝わる? どうしたら、君から求められる?」
一度離した唇から唾液が銀の糸を引いてふつりと切れた。
二人とも、じっと目を見て離さない。その赤い両目は輝く宝石みたいで、世界に二つしかない私のもの、みたいな気がした。どこまでも真剣で、その思いは彼の心だけじゃなく、私の身をも焦がすようなそんな熱を秘めていた。
「私も好きです。好きじゃないと結婚しようとなんて思わないもの」
私はぺたりと頬に張り付いた彼の髪の毛を払った。本当に鮮やかな赤。燃えるような、というような形容がまさしく相応しい。
「……必要に迫られたわけじゃなくて?」
「正直に言うと、それもありました」
私はちょっと顔をしかめながら白状する。三人も夫が居るのにまた二人を増やそうとする、と言うのは自分自身の中でもかなりの葛藤はあった。
「でも、結局は私も求めていたからです。じゃないと……異世界で異なる常識の中ででも、その決断は下せなかったと思います。ワガママですけど、そういうことをするのは好きな人じゃないと嫌なんです」
子竜さんは私の首元の水着の紐を弄ぶように指に絡めると、一気に解いた。ふるり、と胸が震えて水の中に投げ出される。
さっきまで臆病なことを言っていた子竜さんがどんどん、獰猛な獣になって行く気がした。
……もしかしたらこの満月のせいかも。
「透子ちゃんは余裕なんだね」
そんな表情を見て、頬にキスをするとそっと首筋から胸へと唇を滑らせる。胸の先に吸いつかれて私は小さく声を上げる。
「余裕、なんてないですよ。ただ……」
「ただ、何?」
「私の元いた世界には満月の日に狼男はおおかみになるっていう伝説があるんです。それをちょっと思い出してました」
「それなら、この世界にもあるよ。満月の日か。確かに血は猛る気はするね」
ぺろりと口元を舐めた。
「しないです」
呆気にとられたように子竜さんは目を見開いた。ふっと笑顔になった私に向かってまた首を傾げる。
「それはまた、どうして?」
「私は私を好きで居てくれる人じゃないとそう言うこと、したくないんです」
「うん、俺は透子ちゃん好きだよね?」
「でも、自分は傷つきたくないんでしょう?」
「……降参だなあ、どうして、わかるんだろう」
「欲しいものは欲しいと言うくせに臆病なんですね」
私はゆっくり後ろに倒れて、背泳ぎで泳ぎ出した。半ドーム型になっているから、満点の星空の元、まるで空に浮かんでいるような錯覚もしてしまいそう。
「怖いよ、君がこの世界の中、一番手に入れたいものだ。君こそが俺が今まで求めていたもの。それが手に入りそうな時、どうして何も考えずに大胆で居られる? 臆病になるのは生き物の本能だと思うけどね」
私はプールの水の中仰向けで漂っていたけど、いきなり腰に手を回されて、水に引き込まれた。白い泡の中、見えるのは燃えるような揺らめく赤髪と真剣な子竜さんの目。そのまま口付けられて、条件反射で開いた口に厚い舌が忍び込む。ざばっと水の上に顔を出した時は、互いが舌を絡めあって、素肌に近い体を重ねていた。
「ん、……んん、子竜さ……」
「すきだ……どうしたら、伝わる? どうしたら、君から求められる?」
一度離した唇から唾液が銀の糸を引いてふつりと切れた。
二人とも、じっと目を見て離さない。その赤い両目は輝く宝石みたいで、世界に二つしかない私のもの、みたいな気がした。どこまでも真剣で、その思いは彼の心だけじゃなく、私の身をも焦がすようなそんな熱を秘めていた。
「私も好きです。好きじゃないと結婚しようとなんて思わないもの」
私はぺたりと頬に張り付いた彼の髪の毛を払った。本当に鮮やかな赤。燃えるような、というような形容がまさしく相応しい。
「……必要に迫られたわけじゃなくて?」
「正直に言うと、それもありました」
私はちょっと顔をしかめながら白状する。三人も夫が居るのにまた二人を増やそうとする、と言うのは自分自身の中でもかなりの葛藤はあった。
「でも、結局は私も求めていたからです。じゃないと……異世界で異なる常識の中ででも、その決断は下せなかったと思います。ワガママですけど、そういうことをするのは好きな人じゃないと嫌なんです」
子竜さんは私の首元の水着の紐を弄ぶように指に絡めると、一気に解いた。ふるり、と胸が震えて水の中に投げ出される。
さっきまで臆病なことを言っていた子竜さんがどんどん、獰猛な獣になって行く気がした。
……もしかしたらこの満月のせいかも。
「透子ちゃんは余裕なんだね」
そんな表情を見て、頬にキスをするとそっと首筋から胸へと唇を滑らせる。胸の先に吸いつかれて私は小さく声を上げる。
「余裕、なんてないですよ。ただ……」
「ただ、何?」
「私の元いた世界には満月の日に狼男はおおかみになるっていう伝説があるんです。それをちょっと思い出してました」
「それなら、この世界にもあるよ。満月の日か。確かに血は猛る気はするね」
ぺろりと口元を舐めた。
42
お気に入りに追加
1,903
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる