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第一部
郷愁
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そのドラマは全体は長いもののようで、最初の導入部分しか観られなかったんだけど、とても映像が美しくて、すごく胸に詰まるような感動があって、凛太さんが好きと言ったのは良くわかるような気がした。
何話目かのエンディングを見終わってから、隣にピクリとも動かずに画面を注視している凛太さんに話しかけた。
「あの、」
「わっ……はい、なんですか?」
驚いた凛太さんは慌てて私の方を見た。
「ふふ、また集中してました? 集中力、本当に凄いんですね」
「……それだけが僕の取り柄なので。これがないときっとこの仕事にはつけていませんから」
凛太さんは苦笑して私に向き直った。
「どうでしたか?」
「すっごく良かったです。その、主人公の女の子もとっても可愛くてとても私に似ているとは思えませんでしたけど」
「いえ、そっくりです」
凛太さんは真顔になって言った。鏡の中の私とはぜんぜん似てないんだけどな。凛太さんは私の姿が特別良く見える病気なのかもしれないけど……。
「……ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。でも、もしかして、あれも男の子、なんですよね?」
「ええ、有名な女役の雄ですね、とっても人気があるんです」
「綺麗な人に似ていると言われるのは嬉しいですね」
その時、ピンポーンとチャイムの音がした。
「……来客の予定はありましたか?」
凛太さんはこちらを見て尋ねるけど、もちろん予定なんてない。私はぶんぶんと首を振った。
「えっと、もしかしたら……ですけど、雄吾さんの妹さんの小巻さんかもしれません」
「妹? ですか?」
凛太さんは不思議な顔をした。そうか、凛太さんは雄吾さんのことは何故か詳しく知っているようだけど、その家族、小巻さんについては知らないみたいだ。
「えっと……その金策に、良くいらっしゃるみたいなんです。雄吾さん……その稼がれているので」
声を潜めて言った私を見て、凛太さんは眉を寄せた。その間もこの前のように何度もチャイムの音が鳴り響く。
「僕が出て来ますね……」
さっと立ち上がると信じられないくらいの速さで玄関へと向かう。私も慌てて立ち上がってその後を追った。
ガチャ、とドアを開けるとやっぱり小巻さんだった。
さらりとした綺麗な黒髪、大きな黒目がちの瞳、その細身の体にすっきりとした黒のロングワンピースを身につけている。
「……もう、遅いっ……やだ。凛太じゃん、なんでこんなところに芸能人が居るの?」
キラキラと瞳を輝かせて、小巻さんは凛太さんを見た。
「……何か用ですか?」
「私は雄吾の妹の小巻です。本当に凛太? 似てる人じゃなくて?」
「彼は留守ですし、帰りは深夜になると聞いています」
凛太さんはすげなく言い放つとドアを閉めようとノブに手をかける。
「ちょ、ちょっと待って! 兄さんに用がある訳じゃなくて、その奥さんに用事があるんだってば!」
閉められそうになったドアに手をかけて喚いた。私に用事? 凛太さんの背中から頭を覗かせると小巻さんは私を睨みつけた。
「あら人間さん、こんにちは。ちょっと用事があるんだけど、家に入れてくれないかしら?」
「えっと、私に……ですか?」
戸惑ったように首を傾げると、小巻さんはますます耳の毛を逆立てた。
「そうよ、兄さんの奥さんだから、私の義姉さんになるのね、ちょっと話があるの」
私は困って凛太さんを見た。彼も眉を寄せてどうしようかと、考え顔だ。
「兄さんにとってとっても大事な話なの、聞いてくれるわよね?」
何話目かのエンディングを見終わってから、隣にピクリとも動かずに画面を注視している凛太さんに話しかけた。
「あの、」
「わっ……はい、なんですか?」
驚いた凛太さんは慌てて私の方を見た。
「ふふ、また集中してました? 集中力、本当に凄いんですね」
「……それだけが僕の取り柄なので。これがないときっとこの仕事にはつけていませんから」
凛太さんは苦笑して私に向き直った。
「どうでしたか?」
「すっごく良かったです。その、主人公の女の子もとっても可愛くてとても私に似ているとは思えませんでしたけど」
「いえ、そっくりです」
凛太さんは真顔になって言った。鏡の中の私とはぜんぜん似てないんだけどな。凛太さんは私の姿が特別良く見える病気なのかもしれないけど……。
「……ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。でも、もしかして、あれも男の子、なんですよね?」
「ええ、有名な女役の雄ですね、とっても人気があるんです」
「綺麗な人に似ていると言われるのは嬉しいですね」
その時、ピンポーンとチャイムの音がした。
「……来客の予定はありましたか?」
凛太さんはこちらを見て尋ねるけど、もちろん予定なんてない。私はぶんぶんと首を振った。
「えっと、もしかしたら……ですけど、雄吾さんの妹さんの小巻さんかもしれません」
「妹? ですか?」
凛太さんは不思議な顔をした。そうか、凛太さんは雄吾さんのことは何故か詳しく知っているようだけど、その家族、小巻さんについては知らないみたいだ。
「えっと……その金策に、良くいらっしゃるみたいなんです。雄吾さん……その稼がれているので」
声を潜めて言った私を見て、凛太さんは眉を寄せた。その間もこの前のように何度もチャイムの音が鳴り響く。
「僕が出て来ますね……」
さっと立ち上がると信じられないくらいの速さで玄関へと向かう。私も慌てて立ち上がってその後を追った。
ガチャ、とドアを開けるとやっぱり小巻さんだった。
さらりとした綺麗な黒髪、大きな黒目がちの瞳、その細身の体にすっきりとした黒のロングワンピースを身につけている。
「……もう、遅いっ……やだ。凛太じゃん、なんでこんなところに芸能人が居るの?」
キラキラと瞳を輝かせて、小巻さんは凛太さんを見た。
「……何か用ですか?」
「私は雄吾の妹の小巻です。本当に凛太? 似てる人じゃなくて?」
「彼は留守ですし、帰りは深夜になると聞いています」
凛太さんはすげなく言い放つとドアを閉めようとノブに手をかける。
「ちょ、ちょっと待って! 兄さんに用がある訳じゃなくて、その奥さんに用事があるんだってば!」
閉められそうになったドアに手をかけて喚いた。私に用事? 凛太さんの背中から頭を覗かせると小巻さんは私を睨みつけた。
「あら人間さん、こんにちは。ちょっと用事があるんだけど、家に入れてくれないかしら?」
「えっと、私に……ですか?」
戸惑ったように首を傾げると、小巻さんはますます耳の毛を逆立てた。
「そうよ、兄さんの奥さんだから、私の義姉さんになるのね、ちょっと話があるの」
私は困って凛太さんを見た。彼も眉を寄せてどうしようかと、考え顔だ。
「兄さんにとってとっても大事な話なの、聞いてくれるわよね?」
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