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第一部
アルバイト
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「あの、三日くらい短期間なんですけど、子竜さんのお店でアルバイトして来ても良いですか?」
朝ご飯を食べていた三人はそのままの体勢で固まった。
しん、としてしまった三人に私はやっぱりダメか、としゅんと肩を落とした。
実はもうすぐ、雄吾さんの誕生日なのだ。どうしてもお祝いがしたくて、自分でネットで色々と検索したところ、ちょっと背伸びした価格のプレゼントに目星をつけた私は早速新しく買ってもらったスマホで子竜さんに連絡して相談したところ、この前のイタリアンレストランのお店の裏方として、お客様の目に触れないところでの作業をすることを条件に雇ってもらえることになったのだ。
「透子さんは……絶対にアルバイトがしたいんですね?」
理人さんが静かに聞くから、私はこくんと頷きながら言った。
「はい。許してもらえるなら」
理人さんは考えるようにして雄吾さんと春くんに目を向けた。
「僕は透子さんのしたいことならさせてあげたいと思う。……どう思う?」
「……俺はあまり気乗りはしないが、子竜の店なら安全にも十分注意は払っているだろうし、良いんじゃないか?」
「子竜の店ね……だったら良いんじゃない? あいつも透子に何かあればどうなるかくらいは重々わかっているだろうし」
渋々、と言った様子だったけど、何とかお許しを貰えて、私はほっとして喜んだ。
子竜さんのイタリアンのお店は個室っぽくひとつひとつの席をたっぷりとしたカーテンで区切っているプライベートな空間が売りのお洒落なレストランだ。この前は客として来店したけど、今日は雄吾さんに送って来てもらって一従業員として働くことが出来るのだ。もしかして交通費だけで一日のアルバイト代が飛ぶかも、とかは決して考えてはいけない。人間であり、女性の私が働けることに意義があるのだ。うん。
「よ、そんなに緊張せずにリラックスしてな」
なるべく目立たないようにウエイター風の服装に身を包み、強張った表情の私を見て子竜さんは苦笑した。夫達からはボディガードも頼まれているようで、三日の間はずっとこの店に詰めていてくれるみたいだ。申し訳ないけれど、協力をしてくれるからにはプレゼントを買える金額に届くまでは何とか頑張りたい。
「ありがとうございます。頑張ります。よろしくお願いします」
「うん、まあ、とりあえず三日間だけど、よろしく……それとこの前姉貴が悪戯を仕掛けたみたいだな、申し訳ない」
「あ、はい。えっと知ってるんですか?」
私は驚いた。この前仕事の相談をした時には何も言っていなかったからだ。
「あの人も五人目と結婚して落ち着いて来ていたんだけど、また悪い癖が再発したのかもしれないな……」
「悪い癖?」
首を傾げた私に子竜さんは唸った。
「そう、雄吾の件も知っているとは思うが、あの人は落としにくい雄に惹かれる性質みたいでね。お宅のところの元はぐれ人狼は揃いも揃って一筋縄ではいかない連中だから、ちょっと悪戯したかっただけだと思う。それにしても奥さんのスマホをハッキングするなんて、そこまでやるとは思わなかったが……」
「環さんはそういうの詳しいんですか?」
「確か三番目の夫がそういう情報処理関係に強い人だったな、あの人も本当にしょうがない人だからな……」
すこし考え込むようにすると、子竜さんはハッとして私の頭をぽんぽんと叩いた。
「さ、こっちのナプキンを畳んでこの形に折ってくれ、それが終わったらこちらの食器を磨いて欲しい。俺はこの部屋で一緒に書類仕事をするから、何かわからないことがあったら聞いてくれ」
そういうと器用にウインクをしてくれた。
朝ご飯を食べていた三人はそのままの体勢で固まった。
しん、としてしまった三人に私はやっぱりダメか、としゅんと肩を落とした。
実はもうすぐ、雄吾さんの誕生日なのだ。どうしてもお祝いがしたくて、自分でネットで色々と検索したところ、ちょっと背伸びした価格のプレゼントに目星をつけた私は早速新しく買ってもらったスマホで子竜さんに連絡して相談したところ、この前のイタリアンレストランのお店の裏方として、お客様の目に触れないところでの作業をすることを条件に雇ってもらえることになったのだ。
「透子さんは……絶対にアルバイトがしたいんですね?」
理人さんが静かに聞くから、私はこくんと頷きながら言った。
「はい。許してもらえるなら」
理人さんは考えるようにして雄吾さんと春くんに目を向けた。
「僕は透子さんのしたいことならさせてあげたいと思う。……どう思う?」
「……俺はあまり気乗りはしないが、子竜の店なら安全にも十分注意は払っているだろうし、良いんじゃないか?」
「子竜の店ね……だったら良いんじゃない? あいつも透子に何かあればどうなるかくらいは重々わかっているだろうし」
渋々、と言った様子だったけど、何とかお許しを貰えて、私はほっとして喜んだ。
子竜さんのイタリアンのお店は個室っぽくひとつひとつの席をたっぷりとしたカーテンで区切っているプライベートな空間が売りのお洒落なレストランだ。この前は客として来店したけど、今日は雄吾さんに送って来てもらって一従業員として働くことが出来るのだ。もしかして交通費だけで一日のアルバイト代が飛ぶかも、とかは決して考えてはいけない。人間であり、女性の私が働けることに意義があるのだ。うん。
「よ、そんなに緊張せずにリラックスしてな」
なるべく目立たないようにウエイター風の服装に身を包み、強張った表情の私を見て子竜さんは苦笑した。夫達からはボディガードも頼まれているようで、三日の間はずっとこの店に詰めていてくれるみたいだ。申し訳ないけれど、協力をしてくれるからにはプレゼントを買える金額に届くまでは何とか頑張りたい。
「ありがとうございます。頑張ります。よろしくお願いします」
「うん、まあ、とりあえず三日間だけど、よろしく……それとこの前姉貴が悪戯を仕掛けたみたいだな、申し訳ない」
「あ、はい。えっと知ってるんですか?」
私は驚いた。この前仕事の相談をした時には何も言っていなかったからだ。
「あの人も五人目と結婚して落ち着いて来ていたんだけど、また悪い癖が再発したのかもしれないな……」
「悪い癖?」
首を傾げた私に子竜さんは唸った。
「そう、雄吾の件も知っているとは思うが、あの人は落としにくい雄に惹かれる性質みたいでね。お宅のところの元はぐれ人狼は揃いも揃って一筋縄ではいかない連中だから、ちょっと悪戯したかっただけだと思う。それにしても奥さんのスマホをハッキングするなんて、そこまでやるとは思わなかったが……」
「環さんはそういうの詳しいんですか?」
「確か三番目の夫がそういう情報処理関係に強い人だったな、あの人も本当にしょうがない人だからな……」
すこし考え込むようにすると、子竜さんはハッとして私の頭をぽんぽんと叩いた。
「さ、こっちのナプキンを畳んでこの形に折ってくれ、それが終わったらこちらの食器を磨いて欲しい。俺はこの部屋で一緒に書類仕事をするから、何かわからないことがあったら聞いてくれ」
そういうと器用にウインクをしてくれた。
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