74 / 151
第一部
心の奥
しおりを挟む
正直に言ってしまうと、もう元の世界になんて帰りたくない。
彼等が美しい魔物だとしたら私はとっくの昔にどうしようもないくらい魅入られていて、もうどうやっても抜け出せなくなってしまっているのだ。
朝起きたときの心地良いぬくもり、私を見る時に愛しそうに細められる目、抱きしめられた時のあの安心感、手放さすに済むのなら、私は何でもする。きっとなんだって。
でも、それをもし突然失ってしまったとしたら?
私はそれでも、この彼等以外に何もなくなった世界で生きていけるのだろうか……。
突然立ち上がって、泣き出してしまった私を連れて凛太さんはとりあえず車へと戻った。
「透子さん、落ち着いてください。とにかく……雄吾が、危険だということですが、それは考えにくいです」
私はぱっと顔を上げて隣の運転席に座った、すっきりとした風貌の凛太さんと目を合わせた。戸惑いながらも向けられた真っ直ぐな目はこれは嘘ではない、と言っているかのようだった。
「どうして……もし雄吾さんに何かあったら……そんな、どうしたら……」
私がぽろりとこぼした涙をポケットから取り出したハンカチで拭ってくれる。
「……僕と同じ不死者だからです。雄吾を殺せるのは……ああ、方法はかなり限られています。もし襲われたとしても彼なら返り討ちにして終わります」
「え?」
「教えられていませんか? 彼の能力は影。危険回避にかけては一番性能が良い能力だ。敵意ある攻撃が全部すり抜けるんです」
私は凛太さんのハンカチをそのまま渡されて、それをぎゅっと握りしめた。
「あっ……」
そうだった。あの理人さんが投げたフォークをすり抜けた場面がフラッシュバックする。
「えっと……だとしたら、どうして?」
私は思わず眉を寄せてしまった。
「電話をかけて来た人物が誰かはわかりませんが、とにかく落ち着いてください、彼には電話がつながらないんでしたね……他の夫はどうですか? 春、とか」
すこしだけ確執があるらしい春くんの名前を口にする時、凛太さんは眉を寄せて言い辛そうにした。
「そうだ。春くん」
私はスマホで彼の番号を呼び出す。やっぱりコールは鳴るけど繋がらない。……どうして? 私は呼び出し音の鳴るスマホをじっと見つめた。
「……おかしいですね。念のために僕の番号にかけてもらって良いですか?」
私は頷いて、凛太さんの番号へ掛け直した。
「……やっぱりだ。僕のも鳴りませんね」
「でも……こちらは呼び出し音が……」
「……もしかしたら、このスマホは誰かに制御されているのかもしれませんね」
「え?」
私は驚いた。確かにスマホは小さなパソコンだって言われている。もしかして、誰かが? ぞっとして、足元にスマホを取り落としてしまった。
「とりあえず、貴方の巣に戻りましょう。それなら何が起こっているかわかるはずだ」
凛太さんはそう言うと車を荒っぽくスタートさせた。
「……雄吾さんっ!」
私は出迎えに出て来てくれた雄吾さんに抱きついた。雄吾さんは戸惑った顔をしたけど、すぐに抱き返してくれる。
「あれ? 随分熱烈だね。俺の所に来てくれても良かったのに」
一緒に出て来てちょっと不満そうな春くんにも後からぎゅっと抱きついた。にこっと笑ってくれて、額にキスをくれた。
泣きそうな私を庇って前に出ると春くんは凛太さんに凄んだ。
「凛太、どう言うことだよ、何かあったらタダじゃ済まさないって言ったはずだよね?」
「透子さんのスマホが誰かに操作されているかもしれない……僕は透子さんに危険が迫るのはもう見過ごせない。お前達は何か思い当たることはあるか?」
彼等が美しい魔物だとしたら私はとっくの昔にどうしようもないくらい魅入られていて、もうどうやっても抜け出せなくなってしまっているのだ。
朝起きたときの心地良いぬくもり、私を見る時に愛しそうに細められる目、抱きしめられた時のあの安心感、手放さすに済むのなら、私は何でもする。きっとなんだって。
でも、それをもし突然失ってしまったとしたら?
私はそれでも、この彼等以外に何もなくなった世界で生きていけるのだろうか……。
突然立ち上がって、泣き出してしまった私を連れて凛太さんはとりあえず車へと戻った。
「透子さん、落ち着いてください。とにかく……雄吾が、危険だということですが、それは考えにくいです」
私はぱっと顔を上げて隣の運転席に座った、すっきりとした風貌の凛太さんと目を合わせた。戸惑いながらも向けられた真っ直ぐな目はこれは嘘ではない、と言っているかのようだった。
「どうして……もし雄吾さんに何かあったら……そんな、どうしたら……」
私がぽろりとこぼした涙をポケットから取り出したハンカチで拭ってくれる。
「……僕と同じ不死者だからです。雄吾を殺せるのは……ああ、方法はかなり限られています。もし襲われたとしても彼なら返り討ちにして終わります」
「え?」
「教えられていませんか? 彼の能力は影。危険回避にかけては一番性能が良い能力だ。敵意ある攻撃が全部すり抜けるんです」
私は凛太さんのハンカチをそのまま渡されて、それをぎゅっと握りしめた。
「あっ……」
そうだった。あの理人さんが投げたフォークをすり抜けた場面がフラッシュバックする。
「えっと……だとしたら、どうして?」
私は思わず眉を寄せてしまった。
「電話をかけて来た人物が誰かはわかりませんが、とにかく落ち着いてください、彼には電話がつながらないんでしたね……他の夫はどうですか? 春、とか」
すこしだけ確執があるらしい春くんの名前を口にする時、凛太さんは眉を寄せて言い辛そうにした。
「そうだ。春くん」
私はスマホで彼の番号を呼び出す。やっぱりコールは鳴るけど繋がらない。……どうして? 私は呼び出し音の鳴るスマホをじっと見つめた。
「……おかしいですね。念のために僕の番号にかけてもらって良いですか?」
私は頷いて、凛太さんの番号へ掛け直した。
「……やっぱりだ。僕のも鳴りませんね」
「でも……こちらは呼び出し音が……」
「……もしかしたら、このスマホは誰かに制御されているのかもしれませんね」
「え?」
私は驚いた。確かにスマホは小さなパソコンだって言われている。もしかして、誰かが? ぞっとして、足元にスマホを取り落としてしまった。
「とりあえず、貴方の巣に戻りましょう。それなら何が起こっているかわかるはずだ」
凛太さんはそう言うと車を荒っぽくスタートさせた。
「……雄吾さんっ!」
私は出迎えに出て来てくれた雄吾さんに抱きついた。雄吾さんは戸惑った顔をしたけど、すぐに抱き返してくれる。
「あれ? 随分熱烈だね。俺の所に来てくれても良かったのに」
一緒に出て来てちょっと不満そうな春くんにも後からぎゅっと抱きついた。にこっと笑ってくれて、額にキスをくれた。
泣きそうな私を庇って前に出ると春くんは凛太さんに凄んだ。
「凛太、どう言うことだよ、何かあったらタダじゃ済まさないって言ったはずだよね?」
「透子さんのスマホが誰かに操作されているかもしれない……僕は透子さんに危険が迫るのはもう見過ごせない。お前達は何か思い当たることはあるか?」
38
お気に入りに追加
1,903
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる