まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

心の奥

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 正直に言ってしまうと、もう元の世界になんて帰りたくない。

 彼等が美しい魔物だとしたら私はとっくの昔にどうしようもないくらい魅入られていて、もうどうやっても抜け出せなくなってしまっているのだ。
 朝起きたときの心地良いぬくもり、私を見る時に愛しそうに細められる目、抱きしめられた時のあの安心感、手放さすに済むのなら、私は何でもする。きっとなんだって。

 でも、それをもし突然失ってしまったとしたら?
 私はそれでも、この彼等以外に何もなくなった世界で生きていけるのだろうか……。

 突然立ち上がって、泣き出してしまった私を連れて凛太さんはとりあえず車へと戻った。
「透子さん、落ち着いてください。とにかく……雄吾が、危険だということですが、それは考えにくいです」
 私はぱっと顔を上げて隣の運転席に座った、すっきりとした風貌の凛太さんと目を合わせた。戸惑いながらも向けられた真っ直ぐな目はこれは嘘ではない、と言っているかのようだった。

「どうして……もし雄吾さんに何かあったら……そんな、どうしたら……」
 私がぽろりとこぼした涙をポケットから取り出したハンカチで拭ってくれる。
「……僕と同じ不死者だからです。雄吾を殺せるのは……ああ、方法はかなり限られています。もし襲われたとしても彼なら返り討ちにして終わります」
「え?」
「教えられていませんか? 彼の能力は影。危険回避にかけては一番性能が良い能力だ。敵意ある攻撃が全部すり抜けるんです」
 私は凛太さんのハンカチをそのまま渡されて、それをぎゅっと握りしめた。
「あっ……」
 そうだった。あの理人さんが投げたフォークをすり抜けた場面がフラッシュバックする。

「えっと……だとしたら、どうして?」
 私は思わず眉を寄せてしまった。
「電話をかけて来た人物が誰かはわかりませんが、とにかく落ち着いてください、彼には電話がつながらないんでしたね……他の夫はどうですか? 春、とか」
 すこしだけ確執があるらしい春くんの名前を口にする時、凛太さんは眉を寄せて言い辛そうにした。
「そうだ。春くん」
 私はスマホで彼の番号を呼び出す。やっぱりコールは鳴るけど繋がらない。……どうして? 私は呼び出し音の鳴るスマホをじっと見つめた。

「……おかしいですね。念のために僕の番号にかけてもらって良いですか?」
 私は頷いて、凛太さんの番号へ掛け直した。
「……やっぱりだ。僕のも鳴りませんね」
「でも……こちらは呼び出し音が……」
「……もしかしたら、このスマホは誰かに制御されているのかもしれませんね」
「え?」
 私は驚いた。確かにスマホは小さなパソコンだって言われている。もしかして、誰かが? ぞっとして、足元にスマホを取り落としてしまった。
「とりあえず、貴方の巣に戻りましょう。それなら何が起こっているかわかるはずだ」
 凛太さんはそう言うと車を荒っぽくスタートさせた。


「……雄吾さんっ!」
 私は出迎えに出て来てくれた雄吾さんに抱きついた。雄吾さんは戸惑った顔をしたけど、すぐに抱き返してくれる。
「あれ? 随分熱烈だね。俺の所に来てくれても良かったのに」
 一緒に出て来てちょっと不満そうな春くんにも後からぎゅっと抱きついた。にこっと笑ってくれて、額にキスをくれた。
 泣きそうな私を庇って前に出ると春くんは凛太さんに凄んだ。
「凛太、どう言うことだよ、何かあったらタダじゃ済まさないって言ったはずだよね?」

「透子さんのスマホが誰かに操作されているかもしれない……僕は透子さんに危険が迫るのはもう見過ごせない。お前達は何か思い当たることはあるか?」
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