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第一部
あこがれ
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「へえ、あの爺も考えたね」
春くんは大きな茶色の目を細めて言った。私は三人の顔をどうしても心配して見てしまう。確かに早急に断ると良くないと言われていたから、お披露目中には曖昧に濁していたものの、こんなことになるなんて思わなかった。
「……ここは仕方ない……言う通りにしておこう。確かに族長の言うように群れを離れたら、僕達は良いが、透子さんが危険だ。まだ、薦められたのが凛太で良かったと思うべきか……」
「理人」
「仕方ないだろう。あの頃とは違い、俺たちには今守るべきものがある……今この時に群れを出るわけにはいかないんだ」
決然と理人さんが言った。他の二人は悔しさを滲ませながらも黙ってしまう。
「あの……私は大丈夫です。何度か会うくらいなら。なんでもありません。それだけで皆が危険を犯さずに済むなら……します」
私がそう言うと三人ともすこし寂しそうな顔をしたから、何か間違ったことを言ったかと思って慌ててしまう。
「すまない、透子。俺があの時、もっと上手く言えていたら」
「ごめんね。もっと俺たちに強い後ろ盾があればこんなことにはならなかったのに」
「すみません。僕の力不足です」
「えっと、誰のせいでもありません。そもそも私がこの世界に来ちゃった? ことから始まってますし、気にしないでください」
笑顔を見せるとなんとか皆気持ちを持ち直してくれたみたいだ。良かった。
「なんだ、お披露目なのに通夜みたいな顔しているが」
すごく目立つ赤毛の子竜さんが怪訝な顔でワインのボトルを持ってこちらに歩いて来た。そうなんだ。子竜さんの赤毛ってすごく珍しいみたいで、こんなに沢山の人狼が会しているのにここまで鮮やかな赤は子竜さんだけなんだよね。
「子竜」
「まあ、シケた顔せずに飲めよ、奥さん、もし良かったら俺の姉が会いたいって言っているんだが会ってもらって良いかな」
「……環さんが? 子竜」
雄吾さんが顔色を無くしたようにして言った。理人さんも春くんも困ったように顔を見合わせている。
「雄吾、もう流石に時効だろう? お互いに結婚相手も居るんだし、そろそろ良いだろう。おめでたい席だし、こう言う時じゃないとな。……姉貴。良いってさ」
ショートボブのさらっとした髪の綺麗な人がゆっくりと近付いていた。毛の色は赤銅色で同色のドレスを着ている。すらりとしたスタイルで素直に美しい人だなって思った。
「こんにちは。初めまして。子竜の同父の姉、環です。会えて嬉しいわ」
「あの、はじめまして。透子と言います。弟さんにはお世話になっています」
「あら、そうなの。もし良かったら夫候補にも入れてあげて欲しいわ。良い歳しているのに独身なのよ。それに私もこんなに可愛い妹が欲しいもの」
「姉さん、そう言うのやめろよ。こいつらも飽き飽きしているだろ」
「いつまでも独身貴族楽しんでいるんじゃないわよ。貴方の婿入り先を見つけてあげている私に礼の一つでも言いなさい」
子竜さんはネクタイを引っ張られている。なんだかじゃれあっているみたいで可愛い。
「ふふっ。お二人とも仲良いんですね」
「ええ、まあ同父なのはこの馬鹿だけなのよ。せっかく隔世で珍しい能力も発現したのに、勿体無いから。貴方が良ければぜひ。あ、連絡先も渡しておくわね。女同士じゃないと話せないことってあるものね、何か相談したいことがあったら連絡して頂戴」
「ありがとうございます」
私は笑顔でその名刺を受け取った。その時、なんだか微妙な顔をしている夫達には気が付かずに。
春くんは大きな茶色の目を細めて言った。私は三人の顔をどうしても心配して見てしまう。確かに早急に断ると良くないと言われていたから、お披露目中には曖昧に濁していたものの、こんなことになるなんて思わなかった。
「……ここは仕方ない……言う通りにしておこう。確かに族長の言うように群れを離れたら、僕達は良いが、透子さんが危険だ。まだ、薦められたのが凛太で良かったと思うべきか……」
「理人」
「仕方ないだろう。あの頃とは違い、俺たちには今守るべきものがある……今この時に群れを出るわけにはいかないんだ」
決然と理人さんが言った。他の二人は悔しさを滲ませながらも黙ってしまう。
「あの……私は大丈夫です。何度か会うくらいなら。なんでもありません。それだけで皆が危険を犯さずに済むなら……します」
私がそう言うと三人ともすこし寂しそうな顔をしたから、何か間違ったことを言ったかと思って慌ててしまう。
「すまない、透子。俺があの時、もっと上手く言えていたら」
「ごめんね。もっと俺たちに強い後ろ盾があればこんなことにはならなかったのに」
「すみません。僕の力不足です」
「えっと、誰のせいでもありません。そもそも私がこの世界に来ちゃった? ことから始まってますし、気にしないでください」
笑顔を見せるとなんとか皆気持ちを持ち直してくれたみたいだ。良かった。
「なんだ、お披露目なのに通夜みたいな顔しているが」
すごく目立つ赤毛の子竜さんが怪訝な顔でワインのボトルを持ってこちらに歩いて来た。そうなんだ。子竜さんの赤毛ってすごく珍しいみたいで、こんなに沢山の人狼が会しているのにここまで鮮やかな赤は子竜さんだけなんだよね。
「子竜」
「まあ、シケた顔せずに飲めよ、奥さん、もし良かったら俺の姉が会いたいって言っているんだが会ってもらって良いかな」
「……環さんが? 子竜」
雄吾さんが顔色を無くしたようにして言った。理人さんも春くんも困ったように顔を見合わせている。
「雄吾、もう流石に時効だろう? お互いに結婚相手も居るんだし、そろそろ良いだろう。おめでたい席だし、こう言う時じゃないとな。……姉貴。良いってさ」
ショートボブのさらっとした髪の綺麗な人がゆっくりと近付いていた。毛の色は赤銅色で同色のドレスを着ている。すらりとしたスタイルで素直に美しい人だなって思った。
「こんにちは。初めまして。子竜の同父の姉、環です。会えて嬉しいわ」
「あの、はじめまして。透子と言います。弟さんにはお世話になっています」
「あら、そうなの。もし良かったら夫候補にも入れてあげて欲しいわ。良い歳しているのに独身なのよ。それに私もこんなに可愛い妹が欲しいもの」
「姉さん、そう言うのやめろよ。こいつらも飽き飽きしているだろ」
「いつまでも独身貴族楽しんでいるんじゃないわよ。貴方の婿入り先を見つけてあげている私に礼の一つでも言いなさい」
子竜さんはネクタイを引っ張られている。なんだかじゃれあっているみたいで可愛い。
「ふふっ。お二人とも仲良いんですね」
「ええ、まあ同父なのはこの馬鹿だけなのよ。せっかく隔世で珍しい能力も発現したのに、勿体無いから。貴方が良ければぜひ。あ、連絡先も渡しておくわね。女同士じゃないと話せないことってあるものね、何か相談したいことがあったら連絡して頂戴」
「ありがとうございます」
私は笑顔でその名刺を受け取った。その時、なんだか微妙な顔をしている夫達には気が付かずに。
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