62 / 151
第一部
062 準備
しおりを挟む
「んー……可愛いんだけど。なんか、違うかな。透子には、もっとすっきりした方が似合う」
私が試着した可愛らしい青いドレスを見て、春くんは首を傾げた。
春くんはファッションセンスが良いだけあって、一切の妥協も許さないと言うように私のお披露目の時に着る衣装選びについて熱心に挑んでいた。
それは私について真剣に考えているからで嬉しいことだと、わかりつつ、何着も試着するとなると疲れてきた。
「おい、春。こんなに何着も着替えているんだ。透子も、疲れているみたいだぞ。休憩しつつやれよ」
基本的に巣の中に居るが好きな雄吾さんは、あまりこう言う空間自体は得意ではないのか、居心地が悪そうに店員さんに出されたコーヒーを飲んでいる。
多忙な理人さんは、仕事で来られなかった。
本人は一生に一度しかないからと来たがってくれてはいたんだけど……どうしても、春くんがここが良いって選んでくれた人気店のスケジュールと彼の都合が合わなくて、衣装選び同行は断念したみたい。
「うーん……わかった。じゃあ、これだけ! これだけ着てから、休憩。はい。透子」
春くんは優しいクリーム色で上品なレースが随所に散りばめられるデザインのドレスを、手に取った。
私はそれを受け取り、試着室のカーテンを閉めてからふうっと大きく息をついた。
服を着たり脱いだりするのって、結構体力使う。ましてや、こういうドレスみたいな高価で重さのある布地のものなら、尚更。
「わ。可愛い」
手に持っていたクリーム色のドレスをまじまじと目にして、私は嬉しくて声が出た。
いかにも高価で繊細そうなレースは使いすぎることなく、ただただ可憐な雰囲気だ。
生地部分よりすこし色の濃いレースの布地だけで透けてしまうところもあるけれど、下品な感じはせず、上品で大人っぽくてそれでいて可愛いらしいドレスだった。
「でしょでしょ。それは、俺の一押し! ただ、透子の雰囲気に合うかどうかと、スカート丈が合うかが問題。時間がもっとあったらオーダーメイドで作ったのに……まあ、都合が合わなかったのは、仕方ないけど理人もお披露目について事を運ぶの性急すぎない?」
「それを、俺に言われてもな。本人に言えよ。あいつなりの事情があるんだろう」
彼の顔が見えずとも雄吾さんが苦笑したのがわかって、私は着替えながら微笑んだ。あの声の時の雄吾さんは、きっと困った顔になっている。
「……どうかな?」
試着室の前にある椅子に座って待っていた二人が、息を飲んだのがわかった。私が自分で言うのもおかしな話なんだけど、多分私の雰囲気に合ってて似合っていると思ってくれたんだと思う。
「うわ……めちゃくちゃ似合うし。このまま、俺の部屋まで連れ去りたいくらい可愛いよ。透子」
春くんが、興奮したように言った。雄吾さんは無言のままで、何も言わない。
「……雄吾さんは、どう思いますか?」
褒めて貰えて嬉しくなり浮かれた私が、くるっとまわると、くるぶしすれすれのスカートが舞った。
「いや、似合ってる……ごめん。すごく可愛い、と思う」
雄吾さんが赤くなっている顔を隠しながら言うから、それを聞いた私もすごく恥ずかしくなってしまった。
「これにしよう。むしろ、これしかないな。透子の良さを殺さず、かつ本来の可憐な雰囲気を引き立たせている……履いてる靴もそのまま買うね。あ。支払いはカードでよろしく」
春くんは店員さんにカードを手渡しながら、数時間掛けた買い物の成果に満足して大きな茶色の目を細めた。
◇◆◇
「どっかで、ご飯食べていく?」
春くんは、後部座席に座りながら夕飯をどうしようと聞いてきた。
ドレス選びに出かけたのは、日も高い時間だったのに、今はもう辺りは薄闇に包まれている。
「ああ……そう言えば、この辺に最近子竜が店を出したとか言っていたな……」
運転席に入りながら、雄吾さんは言った。私は助手席で春くんにさっきドアを開けてから、閉めて貰うまでして貰っている。お姫様扱いが、くすぐったい。
「あの……雄吾さん。子竜さんにこの前のお礼もちゃんと出来ていなかったし。私、直接お会いしたいです」
「……忙しい奴だから、その店に今居るとは限らないが。何の店だったか。春。子竜に電話して、新しい店に居るかどうか聞いてくれ」
「おっけー。子竜と話すの、すごい久しぶりだなー。あの赤毛、本当衝撃的だよね。まあ持っている能力にぴったりだけど」
春くんは自分のスマホを操作すると、すぐに応答してくれた子竜さんと何事かで笑い合ってそれから電話を切った。
「子竜。この辺にある新しいお店に、居るらしいよ。高級天ぷらなんだって。俺めっちゃ好き! 楽しみだなー」
春くんはにこにこ笑いながら、後ろを向いたままの私の頭にキスをした。
私が試着した可愛らしい青いドレスを見て、春くんは首を傾げた。
春くんはファッションセンスが良いだけあって、一切の妥協も許さないと言うように私のお披露目の時に着る衣装選びについて熱心に挑んでいた。
それは私について真剣に考えているからで嬉しいことだと、わかりつつ、何着も試着するとなると疲れてきた。
「おい、春。こんなに何着も着替えているんだ。透子も、疲れているみたいだぞ。休憩しつつやれよ」
基本的に巣の中に居るが好きな雄吾さんは、あまりこう言う空間自体は得意ではないのか、居心地が悪そうに店員さんに出されたコーヒーを飲んでいる。
多忙な理人さんは、仕事で来られなかった。
本人は一生に一度しかないからと来たがってくれてはいたんだけど……どうしても、春くんがここが良いって選んでくれた人気店のスケジュールと彼の都合が合わなくて、衣装選び同行は断念したみたい。
「うーん……わかった。じゃあ、これだけ! これだけ着てから、休憩。はい。透子」
春くんは優しいクリーム色で上品なレースが随所に散りばめられるデザインのドレスを、手に取った。
私はそれを受け取り、試着室のカーテンを閉めてからふうっと大きく息をついた。
服を着たり脱いだりするのって、結構体力使う。ましてや、こういうドレスみたいな高価で重さのある布地のものなら、尚更。
「わ。可愛い」
手に持っていたクリーム色のドレスをまじまじと目にして、私は嬉しくて声が出た。
いかにも高価で繊細そうなレースは使いすぎることなく、ただただ可憐な雰囲気だ。
生地部分よりすこし色の濃いレースの布地だけで透けてしまうところもあるけれど、下品な感じはせず、上品で大人っぽくてそれでいて可愛いらしいドレスだった。
「でしょでしょ。それは、俺の一押し! ただ、透子の雰囲気に合うかどうかと、スカート丈が合うかが問題。時間がもっとあったらオーダーメイドで作ったのに……まあ、都合が合わなかったのは、仕方ないけど理人もお披露目について事を運ぶの性急すぎない?」
「それを、俺に言われてもな。本人に言えよ。あいつなりの事情があるんだろう」
彼の顔が見えずとも雄吾さんが苦笑したのがわかって、私は着替えながら微笑んだ。あの声の時の雄吾さんは、きっと困った顔になっている。
「……どうかな?」
試着室の前にある椅子に座って待っていた二人が、息を飲んだのがわかった。私が自分で言うのもおかしな話なんだけど、多分私の雰囲気に合ってて似合っていると思ってくれたんだと思う。
「うわ……めちゃくちゃ似合うし。このまま、俺の部屋まで連れ去りたいくらい可愛いよ。透子」
春くんが、興奮したように言った。雄吾さんは無言のままで、何も言わない。
「……雄吾さんは、どう思いますか?」
褒めて貰えて嬉しくなり浮かれた私が、くるっとまわると、くるぶしすれすれのスカートが舞った。
「いや、似合ってる……ごめん。すごく可愛い、と思う」
雄吾さんが赤くなっている顔を隠しながら言うから、それを聞いた私もすごく恥ずかしくなってしまった。
「これにしよう。むしろ、これしかないな。透子の良さを殺さず、かつ本来の可憐な雰囲気を引き立たせている……履いてる靴もそのまま買うね。あ。支払いはカードでよろしく」
春くんは店員さんにカードを手渡しながら、数時間掛けた買い物の成果に満足して大きな茶色の目を細めた。
◇◆◇
「どっかで、ご飯食べていく?」
春くんは、後部座席に座りながら夕飯をどうしようと聞いてきた。
ドレス選びに出かけたのは、日も高い時間だったのに、今はもう辺りは薄闇に包まれている。
「ああ……そう言えば、この辺に最近子竜が店を出したとか言っていたな……」
運転席に入りながら、雄吾さんは言った。私は助手席で春くんにさっきドアを開けてから、閉めて貰うまでして貰っている。お姫様扱いが、くすぐったい。
「あの……雄吾さん。子竜さんにこの前のお礼もちゃんと出来ていなかったし。私、直接お会いしたいです」
「……忙しい奴だから、その店に今居るとは限らないが。何の店だったか。春。子竜に電話して、新しい店に居るかどうか聞いてくれ」
「おっけー。子竜と話すの、すごい久しぶりだなー。あの赤毛、本当衝撃的だよね。まあ持っている能力にぴったりだけど」
春くんは自分のスマホを操作すると、すぐに応答してくれた子竜さんと何事かで笑い合ってそれから電話を切った。
「子竜。この辺にある新しいお店に、居るらしいよ。高級天ぷらなんだって。俺めっちゃ好き! 楽しみだなー」
春くんはにこにこ笑いながら、後ろを向いたままの私の頭にキスをした。
39
お気に入りに追加
1,903
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる