まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

062 準備

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「んー……可愛いんだけど。なんか、違うかな。透子には、もっとすっきりした方が似合う」

 私が試着した可愛らしい青いドレスを見て、春くんは首を傾げた。

 春くんはファッションセンスが良いだけあって、一切の妥協も許さないと言うように私のお披露目の時に着る衣装選びについて熱心に挑んでいた。

 それは私について真剣に考えているからで嬉しいことだと、わかりつつ、何着も試着するとなると疲れてきた。

「おい、春。こんなに何着も着替えているんだ。透子も、疲れているみたいだぞ。休憩しつつやれよ」

 基本的に巣の中に居るが好きな雄吾さんは、あまりこう言う空間自体は得意ではないのか、居心地が悪そうに店員さんに出されたコーヒーを飲んでいる。

 多忙な理人さんは、仕事で来られなかった。

 本人は一生に一度しかないからと来たがってくれてはいたんだけど……どうしても、春くんがここが良いって選んでくれた人気店のスケジュールと彼の都合が合わなくて、衣装選び同行は断念したみたい。

「うーん……わかった。じゃあ、これだけ! これだけ着てから、休憩。はい。透子」

 春くんは優しいクリーム色で上品なレースが随所に散りばめられるデザインのドレスを、手に取った。

 私はそれを受け取り、試着室のカーテンを閉めてからふうっと大きく息をついた。

 服を着たり脱いだりするのって、結構体力使う。ましてや、こういうドレスみたいな高価で重さのある布地のものなら、尚更。

「わ。可愛い」

 手に持っていたクリーム色のドレスをまじまじと目にして、私は嬉しくて声が出た。

 いかにも高価で繊細そうなレースは使いすぎることなく、ただただ可憐な雰囲気だ。

 生地部分よりすこし色の濃いレースの布地だけで透けてしまうところもあるけれど、下品な感じはせず、上品で大人っぽくてそれでいて可愛いらしいドレスだった。

「でしょでしょ。それは、俺の一押し! ただ、透子の雰囲気に合うかどうかと、スカート丈が合うかが問題。時間がもっとあったらオーダーメイドで作ったのに……まあ、都合が合わなかったのは、仕方ないけど理人もお披露目について事を運ぶの性急すぎない?」

「それを、俺に言われてもな。本人に言えよ。あいつなりの事情があるんだろう」

 彼の顔が見えずとも雄吾さんが苦笑したのがわかって、私は着替えながら微笑んだ。あの声の時の雄吾さんは、きっと困った顔になっている。

「……どうかな?」

 試着室の前にある椅子に座って待っていた二人が、息を飲んだのがわかった。私が自分で言うのもおかしな話なんだけど、多分私の雰囲気に合ってて似合っていると思ってくれたんだと思う。

「うわ……めちゃくちゃ似合うし。このまま、俺の部屋まで連れ去りたいくらい可愛いよ。透子」

 春くんが、興奮したように言った。雄吾さんは無言のままで、何も言わない。

「……雄吾さんは、どう思いますか?」

 褒めて貰えて嬉しくなり浮かれた私が、くるっとまわると、くるぶしすれすれのスカートが舞った。

「いや、似合ってる……ごめん。すごく可愛い、と思う」

 雄吾さんが赤くなっている顔を隠しながら言うから、それを聞いた私もすごく恥ずかしくなってしまった。

「これにしよう。むしろ、これしかないな。透子の良さを殺さず、かつ本来の可憐な雰囲気を引き立たせている……履いてる靴もそのまま買うね。あ。支払いはカードでよろしく」

 春くんは店員さんにカードを手渡しながら、数時間掛けた買い物の成果に満足して大きな茶色の目を細めた。



◇◆◇



「どっかで、ご飯食べていく?」

 春くんは、後部座席に座りながら夕飯をどうしようと聞いてきた。

 ドレス選びに出かけたのは、日も高い時間だったのに、今はもう辺りは薄闇に包まれている。

「ああ……そう言えば、この辺に最近子竜が店を出したとか言っていたな……」

 運転席に入りながら、雄吾さんは言った。私は助手席で春くんにさっきドアを開けてから、閉めて貰うまでして貰っている。お姫様扱いが、くすぐったい。

「あの……雄吾さん。子竜さんにこの前のお礼もちゃんと出来ていなかったし。私、直接お会いしたいです」

「……忙しい奴だから、その店に今居るとは限らないが。何の店だったか。春。子竜に電話して、新しい店に居るかどうか聞いてくれ」

「おっけー。子竜と話すの、すごい久しぶりだなー。あの赤毛、本当衝撃的だよね。まあ持っている能力にぴったりだけど」

 春くんは自分のスマホを操作すると、すぐに応答してくれた子竜さんと何事かで笑い合ってそれから電話を切った。

「子竜。この辺にある新しいお店に、居るらしいよ。高級天ぷらなんだって。俺めっちゃ好き! 楽しみだなー」

 春くんはにこにこ笑いながら、後ろを向いたままの私の頭にキスをした。
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