まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

051 退院

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「透子~! おはよ。大丈夫だった?」

 私は病室に入るとすぐに、起き立てっぽい春くんに駆け寄った。もう腕に刺されていた輸血の点滴は抜けているし、血色も良さそう。

「私は……っ、全然大丈夫っ……けど、春くんっ」

 春くんが能天気に笑うその姿に、思わずまた涙ぐんでしまった私は彼にあははと朗らかに笑われた。

「ごめん。こうして俺があの能力を使って倒れるのは、本当にいつものことなんだ。今回は思ったより敵の数多くて、完全に手間取った。今朝も理人にめちゃくちゃ怒られたから。雄吾は、もうお説教勘弁して」

「……理人は、来ていたのか」

「うん。今来た二人と、擦れ違いくらい。それより、透子……雄吾の匂いがするね?」

 私は、こくんと喉を鳴らした。

 そうだ。こういう事って鼻の良い春くんには、もうわかってしまうんだ。

 なんだか、申し訳なくなってしまって、もじもじとしてしまう。彼が倒れて大変だった時に、雄吾と何してたんだって思われてしまいそうで……。

「やったー! 次俺の番だよね!? すっごい嬉しい。透子、いつする? 俺は今夜でも良いよ!」

 私の心配をよそに満面の笑みでガッツポーズした春くんは、雄吾さんに無言のゲンコツを食らった。

「本当に……バカだな。それを言われた透子の気持ちも考えろ」

「痛い。まじ痛い。雄吾の馬鹿力」

 涙目で雄吾さんを見上げる春くんは、本当に可愛い。少し笑ってしまった私に気が付いて、ニカっと大きな口で笑ってくれた。

 雄吾さんは看護師さんに呼ばれて、春くんの退院の手続きなどで書類を書きに行ってしまった。春くんは私達が持って来た服に着替えていて、もうこれで帰る準備は万端だ。

「あーあ……昨日のお弁当。結構自信作だったんだけどな。透子に食べさせてあげたかった」

 しゅんとして落ち込んでしまった春くんに、私は微笑んだ。

「また……作ってくれる? 今度は前もってお弁当作るからって言ってくれたら、私も手伝うよ」

「透子は、早起き苦手だからなぁ。寝顔も可愛いし。俺は、あんまり起こしたくない」

「え?」

 思いも寄らないことを言われた私は、春くんの方を見た。なぜか自分だけで納得するように、うんうんと何度か頷きやれやれと肩を竦めた。

「俺も透子を起こそうかな~? と思って、何度か試みたことはあったんだよね。でも、優しく起こしても、全然起きない。俺も女の子をこれ以上どんな方法で起こすかなんて、授業では習ってないし」

「ちょっと待って。何それ。私がすごく寝起きが悪いみたい」

 心外だと私が言えば、春くんは目を眇めて言った。

「え? 自覚なかったの?」

「……目覚まし時計があったら、ちゃんと起きるよ」

「それって爆音の目覚まし時計? 俺も大声には自信があるけど、眠っている透子の耳元では流石に出せないかな」

「もうっ。良いから。今度は私もお弁当作るから、絶対起こしてね」

「もちろん……いよいよ俺も透子に触るの、解禁になったからね。朝からすっごく気持ちよくしてから。起こしてあげるね」

 揶揄うようにして大きな栗色の目を細めた春くんは、本気なのか冗談なのか私にはよくわからない。


◇◆◇


「あー、凛太の能力か。土と相性が良いんだよ。正式名称はなんだったっけ……不死者と呼ばれるのは、身体がどんな武器や衝撃をも通さないから。雄吾と正反対だね。俺の能力とは、最強の矛と最強の盾みたいな関係。貫けるかは試したことないから、わからないな……今までに、そんな機会もなかったからね」

 巣に戻って来た私は、何日かの安静を言い渡された春くんとテレビの前で寛いでいた。

 理人さんはいつものように夜遅くまで仕事だし、雄吾さんは置いて来たままの車を取りに行ってくれたりとあの事件の後始末をしてくれている。

「離れた位置に居るはずの……私達の様子を、詳細にわかっていたみたいだった」

 私が不思議に思っていたことを言えば、春くんは首を傾げつつ言った。

「多分……凛太は、眷属を使っていたんじゃないかな」

「眷属?」

「うん、そう。さっき、土と相性が良いって言ったよね? だから、土に潜む生き物の目を借りて見ていたのかもしれない。ただ、こういう巣の中は見られないんだ。簡単な防御の術で、そういうのを入れなくすることは可能だから」

「あ。あの時は、公園だったから」

「そう。あの時に壁とかの、遮るものもないからね」

「そっか。そういう事だったんだね……けど、残念。昨日、お昼からもいっぱい公園で遊びたかったな」

 あの公園にはまだ遊んでいない設備が沢山あったのにと、私は息をつきながら言った。

「良いよ。じゃあ、また行こう。俺と理人と雄吾どっちか居たら、こんなことにはならないだろうし。雄吾なんかいつも在宅仕事で、もやしみたいになっているんだから。たまには、日に当ててやらないとね」

 彼の言葉にふふっと微笑んだ私を見て、春くんはしみじみと言った。

「俺は透子の笑顔を守れたら、何にもいらないんだ……守る事が出来て。この能力を持っていて。本当に良かったよ」

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