47 / 151
第一部
047 プールサイド
しおりを挟む
雄吾さんは車に乗り込んでから、オーナーの子竜さんに直接予約の電話をしたみたいだった。
今日教えてすぐだったことに揶揄われたのか、雄吾さんは珍しく大きな手で自分の髪の毛を乱すと、彼の様子が微笑ましくて笑顔になった私に向かって言った。
「あいつが用意してくれたのは、プライベートプール付きの部屋だそうだ」
「……え?」
「俺たちの水着も、用意してくれるらしい……嫌なら使わないで、構わないらしいが」
「え? すごい……プール付きの部屋なんて、嬉しいです! 私。プール、すごく好きなんです」
「……そうか? それなら、良かった」
急に前のめりになった私に、雄吾さんは少し顔を赤くしてから頷いた。
そう。海にはあまり行ったことはないけれど、夏には元の世界でもプールには良く行ってた。もっとも、異性と行くのは産まれて初めてだけど。
心浮き立ちウキウキしている私を横目に、雄吾さんはなんだか浮かない顔だ。あまり見ないそんな様子に、私は不思議になって聞いた。
「え。雄吾さん。どうかしたんですか?」
「すぐにわかることだから、先に言っておくが……子どもの頃からなんだが、俺はあまり泳げないんだ」
そんな話をしつつ、恥ずかしそうにする雄吾さんに私はなんだか面白くなって言った。
「雄吾さんにも苦手なもの……あるんですね」
「……子竜。あいつ、プール付きの部屋は絶対に故意だな」
雄吾さんは、どこか悔しそうに言った。子竜さんは、きっと昔から知ってる幼馴染だからそんな弱点だって、心得てるんだ。
「ホテルのプールだと……泳ぐっていうより、遊ぶって感じになりそうですよね」
「……ああ」
「雄吾さん、大丈夫ですよ。私も本気で泳ごうとは、思っていませんから」
私がふふっと笑うと、雄吾さんは逆光で眩しいのか、サングラスをかけた。
春くんも昨日買い物に行くときに掛けていたオシャレなサングラスをかけると、同じサングラスなのに、ぜんぜん違う雰囲気の人になってしまった。
「海綺麗ですね。夕焼け見られるの、楽しみです」
「ああ」
◇◆◇
私がなんとなく想像していたよりも、かなり高級な海辺のホテルに到着した。
え。子竜さんって、実は物凄い人なんじゃ……だって、どう考えても高級ホテルだし、レストランのオーナーだし。こんな大きなホテルの、オーナーなんだ……。
「……子竜の会社には、俺も結構な額を出資しているんだ。だから、これからあいつと会う機会も、多くなると思う。レストランもこのホテルも、オーナーは子竜だ」
「すっ……すごいですね。驚きました。会うって、何かのパーティとかですか?」
雄吾さんは、振り返って車の鍵を閉めつつ私の疑問に頷いた。
「まぁな……ただお金を出すだけでは、ダメな世界なんだ。そういう社交なんかも、一応情報収集も兼ねているから」
バイトに明け暮れる一般庶民には理解出来ぬ上流階級というのはそんなところなんだと、思わず納得してしまった私の手を取って、彼と二人でホテルへと向かった。
◇◆◇
彼が言っていたように用意されていた水着へと着替えると、部屋から繋がっているガラス張りのドームへと急いだ。
ガラスの向こうに青い海は広がっていて、海面の波の模様も眩しいくらい。
「……透子」
私は自分の名前を呼ぶ声に振り返って、思わずふふっと微笑んだ。
「雄吾さん……これって、水着ですよ?」
そう、雄吾さんは顔が真っ赤になっているし、人狼が興奮すると出てしまう長くて黒い尻尾がお尻から伸びている。
確かに私が今着ているのは隠す部分が少ないビキニなんだけど、昨日えっちなお仕置きをした人の反応とはとても思えない。
「……俺は、視覚からが弱いんだよ」
手で鼻を押さえながら話すから、この前に遭った彼とのお風呂でのハプニングを思い出して私は吹き出した。
「もしかして、鼻血出ます?」
水着を着た私が近寄って顔を覗き込むと、雄吾さんはますます顔を赤くしてしまった。
ひとしきり、一人で水遊びした私は、プール際に用意されていた大きな防水ソファに寝そべったままの雄吾さんに声を掛けた。
「雄吾さん。せっかく水着を着てるのに、プールには入らないんですか?」
「……鼻血出るから、俺はプールには入らない」
どうも揶揄い過ぎて、拗ねてしまったようだ。雄吾さんはそっぽ向いて、私が居る方を向いてくれない。
「もう、日が沈み始めますよ、ここだと足だって付きますし、せっかくだから見やすいこっちで見ましょうよ」
「……透子が迎えに来てくれたら、行っても良い」
私は微笑んでからプールを上がると、差し出された雄吾さんの大きな右手を両手で引っ張った。彼はすぐにソファから立ち上がって私から顔は逸らしているけど、私がゆっくりと誘導する方に歩いて来てくれた。
「ほら……綺麗ですよ」
海側は、繋ぎ目のない大きなガラス張りだ。あまりに綺麗に出来ていて、どういった技術かはわからないけれど、徐々に赤くなっていく夕焼けが見えて美しい。
夕日を見てはしゃいだ私を愛おしそうに見つめると、雄吾さんは抱き上げて長いキスをくれた。陽が暮れて辺りが薄紫になってしまうまで、ずっと。
今日教えてすぐだったことに揶揄われたのか、雄吾さんは珍しく大きな手で自分の髪の毛を乱すと、彼の様子が微笑ましくて笑顔になった私に向かって言った。
「あいつが用意してくれたのは、プライベートプール付きの部屋だそうだ」
「……え?」
「俺たちの水着も、用意してくれるらしい……嫌なら使わないで、構わないらしいが」
「え? すごい……プール付きの部屋なんて、嬉しいです! 私。プール、すごく好きなんです」
「……そうか? それなら、良かった」
急に前のめりになった私に、雄吾さんは少し顔を赤くしてから頷いた。
そう。海にはあまり行ったことはないけれど、夏には元の世界でもプールには良く行ってた。もっとも、異性と行くのは産まれて初めてだけど。
心浮き立ちウキウキしている私を横目に、雄吾さんはなんだか浮かない顔だ。あまり見ないそんな様子に、私は不思議になって聞いた。
「え。雄吾さん。どうかしたんですか?」
「すぐにわかることだから、先に言っておくが……子どもの頃からなんだが、俺はあまり泳げないんだ」
そんな話をしつつ、恥ずかしそうにする雄吾さんに私はなんだか面白くなって言った。
「雄吾さんにも苦手なもの……あるんですね」
「……子竜。あいつ、プール付きの部屋は絶対に故意だな」
雄吾さんは、どこか悔しそうに言った。子竜さんは、きっと昔から知ってる幼馴染だからそんな弱点だって、心得てるんだ。
「ホテルのプールだと……泳ぐっていうより、遊ぶって感じになりそうですよね」
「……ああ」
「雄吾さん、大丈夫ですよ。私も本気で泳ごうとは、思っていませんから」
私がふふっと笑うと、雄吾さんは逆光で眩しいのか、サングラスをかけた。
春くんも昨日買い物に行くときに掛けていたオシャレなサングラスをかけると、同じサングラスなのに、ぜんぜん違う雰囲気の人になってしまった。
「海綺麗ですね。夕焼け見られるの、楽しみです」
「ああ」
◇◆◇
私がなんとなく想像していたよりも、かなり高級な海辺のホテルに到着した。
え。子竜さんって、実は物凄い人なんじゃ……だって、どう考えても高級ホテルだし、レストランのオーナーだし。こんな大きなホテルの、オーナーなんだ……。
「……子竜の会社には、俺も結構な額を出資しているんだ。だから、これからあいつと会う機会も、多くなると思う。レストランもこのホテルも、オーナーは子竜だ」
「すっ……すごいですね。驚きました。会うって、何かのパーティとかですか?」
雄吾さんは、振り返って車の鍵を閉めつつ私の疑問に頷いた。
「まぁな……ただお金を出すだけでは、ダメな世界なんだ。そういう社交なんかも、一応情報収集も兼ねているから」
バイトに明け暮れる一般庶民には理解出来ぬ上流階級というのはそんなところなんだと、思わず納得してしまった私の手を取って、彼と二人でホテルへと向かった。
◇◆◇
彼が言っていたように用意されていた水着へと着替えると、部屋から繋がっているガラス張りのドームへと急いだ。
ガラスの向こうに青い海は広がっていて、海面の波の模様も眩しいくらい。
「……透子」
私は自分の名前を呼ぶ声に振り返って、思わずふふっと微笑んだ。
「雄吾さん……これって、水着ですよ?」
そう、雄吾さんは顔が真っ赤になっているし、人狼が興奮すると出てしまう長くて黒い尻尾がお尻から伸びている。
確かに私が今着ているのは隠す部分が少ないビキニなんだけど、昨日えっちなお仕置きをした人の反応とはとても思えない。
「……俺は、視覚からが弱いんだよ」
手で鼻を押さえながら話すから、この前に遭った彼とのお風呂でのハプニングを思い出して私は吹き出した。
「もしかして、鼻血出ます?」
水着を着た私が近寄って顔を覗き込むと、雄吾さんはますます顔を赤くしてしまった。
ひとしきり、一人で水遊びした私は、プール際に用意されていた大きな防水ソファに寝そべったままの雄吾さんに声を掛けた。
「雄吾さん。せっかく水着を着てるのに、プールには入らないんですか?」
「……鼻血出るから、俺はプールには入らない」
どうも揶揄い過ぎて、拗ねてしまったようだ。雄吾さんはそっぽ向いて、私が居る方を向いてくれない。
「もう、日が沈み始めますよ、ここだと足だって付きますし、せっかくだから見やすいこっちで見ましょうよ」
「……透子が迎えに来てくれたら、行っても良い」
私は微笑んでからプールを上がると、差し出された雄吾さんの大きな右手を両手で引っ張った。彼はすぐにソファから立ち上がって私から顔は逸らしているけど、私がゆっくりと誘導する方に歩いて来てくれた。
「ほら……綺麗ですよ」
海側は、繋ぎ目のない大きなガラス張りだ。あまりに綺麗に出来ていて、どういった技術かはわからないけれど、徐々に赤くなっていく夕焼けが見えて美しい。
夕日を見てはしゃいだ私を愛おしそうに見つめると、雄吾さんは抱き上げて長いキスをくれた。陽が暮れて辺りが薄紫になってしまうまで、ずっと。
39
お気に入りに追加
1,891
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる