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第一部
046 腐れ縁
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雄吾さんが連れて来てくれた海の見えるレストランは本当に料理も美味しくて、遠くの方に水平線が広がる風景は素敵で、また涙ぐんでしまった私にさりげなくハンカチを渡して彼はまた呆れたようにして笑った。
個室のように趣味の良い水色のパーティションで区切られていたけれど、料理を持ってきてくれたハンサムな店員さんは、私の泣きそうな顔を多分見てみぬふりをしてくれていた。
だけど、何があったか気になっていただろうとは思う。私だとそう思っているから。
私たちがデザートを食べ終わったタイミングで、ある人から声が掛かった。
「よぉ。雄吾、来てくれていたのか」
「子竜。久しぶり。店に居たんだな」
燃えるような赤毛を持つ、これまたハンサムな人が現れた。
明らかにオーダーメイドで身体に沿った薄いグレーのスーツ姿で、背が高くて体付きはとてもがっちりしている。全身のシルエットのせいか、何だか目の前に居る同じような体型の雄吾さんとなんとなくイメージが被ってしまった。
「これはこれは、可愛らしい子を連れて……いや、人間なのか!」
驚いたように獣耳のない私の頭を見てから、雄吾さんと私の二人を交互に見やった。
リアクションがとても大きくて、明るく戯けた様子がどこかコメディアンみたいだった。私は我慢できずに、ふふっと笑ってしまった。
「……俺の妻だ。透子。こいつは、子竜。俺の学生時代からの、腐れ縁だ」
「失礼な紹介をするな。どうも。ご紹介頂きました子竜です。寂しい独身なので、いつでもプロポーズを、お受け出来ます」
子竜さんは姿勢を正して私の方を向くと、ニヤリと悪そうな表情で微笑んだ。ワイルド系なのは雄吾さんと一緒なんだけど、彼の方はどこか軽そうに見えて軟派な雰囲気の人だった。
「何を言ってるんだ。お前」
気安い仲なのか、子竜さんの言いように呆れたようにして雄吾さんは呟いた。
「……女嫌いのお前が、それも人間と結婚するとはな……まあ。こんなに可愛いらしいと、仕方がないか」
子竜さんは私たちが結婚した理由を勝手に納得したように呟くと、ポケットからスマホを取り出して、操作し始めた。
雄吾さんはすぐに少し嫌そうな顔をして、自分のポケットからスマホを取り出した。
「……何だ。ホテルか?」
「ああ。俺が新しく建てたホテルだから、良かったら可愛い奥様と行ってみてくれ。特別に安く優待サービスをしてやろう。夕暮れの景色も絶景で、綺麗だぞ」
子竜さんは私の方を向いてウインクして手を振ってくれると、優雅にサッと一礼して去って行ってしまった。
「……明るい方ですね」
「……明る過ぎるくらいだがな。あいつは本当に、変わらない」
仲のよさそうな彼らが微笑ましくて、ふふっと笑いながら紅茶を飲んだ私に嫌な顔を見せた。
きっと、雄吾さんと子竜さんはすごく仲が良いんだろうと思う。
雄吾さんはポケットにスマホを仕舞う手前で一回止まって、もう一度ディスプレイに指を滑らせた。
「まずいな。今、家に小巻がまた来てるみたいだ」
「え?」
私は記憶から、あの黒髪の美女がフラッシュバックした……また、兄の雄吾さんにお金の無心だろうか?
「……何を言われるかは、大体想像がつく。面倒だな。少し時間を置いてから帰るか?」
「その方が、良さそうですね……」
雄吾さんは溜め息をついて、困った表情になってしまった私を見て、また自分のスマホへと目を向けた。
「子竜が言っていたホテルは、ここから近いみたいだ……せっかくだから、ホテルで夕暮れを見てから、夕食を食べて帰るか?」
「私は、それでも大丈夫です。でも、皆の夕食とかは大丈夫でしょうか?」
「理人は、いつも通りに今日も遅くなると言っていたし。春は一人で、どうとでもなるだろう」
確かに春くんの料理スキルだと軽く一人分作ってから、サッと済ませそうだ。
「そうですね。せっかくですし、綺麗な夕暮れを見に行ってみたいです」
海岸線の夕暮れを観られると思うと、ついつい心が浮き立ってしまった。期待に満ちた目になった私を見てから、目を細めて嬉しそうに笑うと雄吾さんは店員さんを呼んだ。
個室のように趣味の良い水色のパーティションで区切られていたけれど、料理を持ってきてくれたハンサムな店員さんは、私の泣きそうな顔を多分見てみぬふりをしてくれていた。
だけど、何があったか気になっていただろうとは思う。私だとそう思っているから。
私たちがデザートを食べ終わったタイミングで、ある人から声が掛かった。
「よぉ。雄吾、来てくれていたのか」
「子竜。久しぶり。店に居たんだな」
燃えるような赤毛を持つ、これまたハンサムな人が現れた。
明らかにオーダーメイドで身体に沿った薄いグレーのスーツ姿で、背が高くて体付きはとてもがっちりしている。全身のシルエットのせいか、何だか目の前に居る同じような体型の雄吾さんとなんとなくイメージが被ってしまった。
「これはこれは、可愛らしい子を連れて……いや、人間なのか!」
驚いたように獣耳のない私の頭を見てから、雄吾さんと私の二人を交互に見やった。
リアクションがとても大きくて、明るく戯けた様子がどこかコメディアンみたいだった。私は我慢できずに、ふふっと笑ってしまった。
「……俺の妻だ。透子。こいつは、子竜。俺の学生時代からの、腐れ縁だ」
「失礼な紹介をするな。どうも。ご紹介頂きました子竜です。寂しい独身なので、いつでもプロポーズを、お受け出来ます」
子竜さんは姿勢を正して私の方を向くと、ニヤリと悪そうな表情で微笑んだ。ワイルド系なのは雄吾さんと一緒なんだけど、彼の方はどこか軽そうに見えて軟派な雰囲気の人だった。
「何を言ってるんだ。お前」
気安い仲なのか、子竜さんの言いように呆れたようにして雄吾さんは呟いた。
「……女嫌いのお前が、それも人間と結婚するとはな……まあ。こんなに可愛いらしいと、仕方がないか」
子竜さんは私たちが結婚した理由を勝手に納得したように呟くと、ポケットからスマホを取り出して、操作し始めた。
雄吾さんはすぐに少し嫌そうな顔をして、自分のポケットからスマホを取り出した。
「……何だ。ホテルか?」
「ああ。俺が新しく建てたホテルだから、良かったら可愛い奥様と行ってみてくれ。特別に安く優待サービスをしてやろう。夕暮れの景色も絶景で、綺麗だぞ」
子竜さんは私の方を向いてウインクして手を振ってくれると、優雅にサッと一礼して去って行ってしまった。
「……明るい方ですね」
「……明る過ぎるくらいだがな。あいつは本当に、変わらない」
仲のよさそうな彼らが微笑ましくて、ふふっと笑いながら紅茶を飲んだ私に嫌な顔を見せた。
きっと、雄吾さんと子竜さんはすごく仲が良いんだろうと思う。
雄吾さんはポケットにスマホを仕舞う手前で一回止まって、もう一度ディスプレイに指を滑らせた。
「まずいな。今、家に小巻がまた来てるみたいだ」
「え?」
私は記憶から、あの黒髪の美女がフラッシュバックした……また、兄の雄吾さんにお金の無心だろうか?
「……何を言われるかは、大体想像がつく。面倒だな。少し時間を置いてから帰るか?」
「その方が、良さそうですね……」
雄吾さんは溜め息をついて、困った表情になってしまった私を見て、また自分のスマホへと目を向けた。
「子竜が言っていたホテルは、ここから近いみたいだ……せっかくだから、ホテルで夕暮れを見てから、夕食を食べて帰るか?」
「私は、それでも大丈夫です。でも、皆の夕食とかは大丈夫でしょうか?」
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確かに春くんの料理スキルだと軽く一人分作ってから、サッと済ませそうだ。
「そうですね。せっかくですし、綺麗な夕暮れを見に行ってみたいです」
海岸線の夕暮れを観られると思うと、ついつい心が浮き立ってしまった。期待に満ちた目になった私を見てから、目を細めて嬉しそうに笑うと雄吾さんは店員さんを呼んだ。
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