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第一部
043 新しい手段
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「透子さん。どうぞ。三人の連絡先も、もう入っていますので」
夕食が終わって皆で食後のお茶を飲んでいる時に、隣に居る理人さんがディスプレイが大きめのスマホを渡してくれた。
いかにもピカピカの新品で、ちゃんと私の好みっぽい可愛いカバーもかけられている。
「ありがとうございます」
私が受け取りながら微笑むと、理人さんは満足そうにして目を細めた。
「あ。透子。メッセージアプリの使い方、教えておくね」
春くんは椅子を近づけて自分のスマホを取り出すと丁寧にレクチャーしてくれた。
彼の詳しい説明を聞きつつも、私は感心することしきりだった。どうやら元々住んでいた日本のスマホと、ほとんど使い方は変わらないみたい。
平行世界って、本当に不思議。違うのは住んでいるのが人狼なことと特殊な能力、それと族長という不思議な地位。後は、極端な男女比率もそうだけど。
スマホの説明を聞きつつ私はなんとなく、自分のデニムのポケットに入っている名刺の存在を強く感じた。
凛太さんはこの三人が何かを、私に隠しているって言っていた。
どんどん前にも増して好きになって来ているから、彼らを信じたい気持ちと、突然のあの信じがたい言葉に、心が揺れ動いてて苦しいくらい。
よく考えたら三人との繋がりはこの世界に来た時に優しく保護してもらえたってことだけ。理人さんの事情は、この前に少しだけ教えてもらえたけど、他の二人についてはあまり……私は、良く知らない。
「……透子、透子? 話、聞いてる?」
間近に春くんの大きな茶色い瞳があって、私は驚き思わず身を引いた。
さっきまで二人で何かを話していたはずの理人さんと雄吾さんも、怪訝そうな顔をしてこちらの様子を伺っている。
「あ。ごめん。ちょっとだけ。ぼーっとしてた……えっと、私。久しぶりに外出して、疲れちゃったみたい。今日は早めに先に、寝るね」
「え? 透子?」
戸惑ったような春くんの声を背に受けて、私は自室に向かうべく階段に向かった。
◇◆◇
部屋に戻った私は、とりあえず凛太さんに貰った名刺を出してじっと見た。
俳優としてのプロモーション用なのか、事務所の電話番号やホームページのアドレス。裏を向ければ個人の電話番号だろうか、手書きの文字で十一桁の番号が並んでいる。
こんなに悩むくらいなら、いっそ掛けてしまって聞いた方が良いんじゃないだろうか? その秘密が何だとしても、三人のことは好きだという気持ちに変わりはないと思う。
けど、それは何なのかは、どうしても気になってしまう。
私が名刺を手にしてじっと考え込んでいると、コンコンとドアからノックの音がした。慌ててベッドのサイドテーブルに置いてあったスマホの下に、凛太さんの名刺を隠した。
ドアに駆け寄ると、雄吾さんが心配そうな表情で私を見下ろしていた。背の高い雄吾さんは間近に立ったままだと、かなり目線を上げなければ目を合わせることが出来ない。
「……どうした。何か、あったのか?」
「えっと、その……何でもないです。久しぶりに外に出たから、なんか疲れちゃったみたいで」
やましい気持ちを抱えていた私はとりあえず、雄吾さんを部屋に招き入れてソファに隣り合って座る。
雄吾さんは座ってから私の顔を見た途端に、顔をわかりやすく顰めた。
「……待て、この匂い。凛太か?」
「え?」
私は彼の言葉に、驚いた。そうか、さっきはデニムのポケットに仕舞ってあったけど、今は名刺が空気に触れている。
頭ではわかっていたことだけど、人狼は本当に鼻が利くんだ。
「何処で会った? ……春の奴。ちゃんと透子のことを、見てなかったのか」
雄吾さんは淡々と言うと、私がさっき隠した場所から名刺を抜き取った。サッとそれを裏返すと、不機嫌そうに眉間の皺を深くした。
「えっと、その……」
「これのせいで、透子は元気がなかったのか?」
「……はい」
「あいつに、何を言われた?」
「……皆が私に隠し事をしているって、そう言っていました」
「……それで、元気がなかったんだな」
「はい」
雄吾さんは俯いたままの私を、ぎゅっと力強く抱き寄せた。
「透子。確かに俺たちはお前に伝えてないことは、ある。だが、お前の不利益になるようなことは、絶対にしない。絶対にだ」
「……雄吾さん」
雄吾さんは体を屈めて私の顔に唇を寄せると、ちゅっと触れるだけのキスをした。
何度かした後で私の手を引いて、ベッドに導いた。ベッドに座ると立っていた私を横座りにさせて、もう一度触れるだけのキスを始めた。
「よりにもよって、あの凛太か。なるほどな。あいつなら、確かに理人の匂いだからって臆さないだろうな」
「あの、確か凛太さんも……」
「そう。あいつも俺と同じ、不死者と呼ばれるもの。だな」
まるで自嘲するかのような、彼の表情に何故か胸が痛くなる。雄吾さんは……自分の能力を、あまり好きではないのかな?
「……ごめんなさい。私が春くんに……ちゃんと言えば良かったんですけど」
「良い。こういう事態を招いた春には、後でお仕置きだな」
首を傾げてふっと笑った雄吾さんの顔に、私は目を見開いた。
「ダメです。黙っていた私のせいで、春くんがお仕置きを受けるなんて」
結果的に目を離したようになったのは、春くんのせいじゃなくて、私が自分から彼から離れてしまったからだと今でも思う。
「じゃあ、透子が罰を受けるか?」
雄吾さんの、どこか試すような顔に私はゆっくりと頷いた。
「えっと……それって、痛いことですか?」
色んなことを想像してしまって語尾が細くなった言葉に、面白そうに雄吾さんは首を傾げた。
「そうだな……何にしようか」
夕食が終わって皆で食後のお茶を飲んでいる時に、隣に居る理人さんがディスプレイが大きめのスマホを渡してくれた。
いかにもピカピカの新品で、ちゃんと私の好みっぽい可愛いカバーもかけられている。
「ありがとうございます」
私が受け取りながら微笑むと、理人さんは満足そうにして目を細めた。
「あ。透子。メッセージアプリの使い方、教えておくね」
春くんは椅子を近づけて自分のスマホを取り出すと丁寧にレクチャーしてくれた。
彼の詳しい説明を聞きつつも、私は感心することしきりだった。どうやら元々住んでいた日本のスマホと、ほとんど使い方は変わらないみたい。
平行世界って、本当に不思議。違うのは住んでいるのが人狼なことと特殊な能力、それと族長という不思議な地位。後は、極端な男女比率もそうだけど。
スマホの説明を聞きつつ私はなんとなく、自分のデニムのポケットに入っている名刺の存在を強く感じた。
凛太さんはこの三人が何かを、私に隠しているって言っていた。
どんどん前にも増して好きになって来ているから、彼らを信じたい気持ちと、突然のあの信じがたい言葉に、心が揺れ動いてて苦しいくらい。
よく考えたら三人との繋がりはこの世界に来た時に優しく保護してもらえたってことだけ。理人さんの事情は、この前に少しだけ教えてもらえたけど、他の二人についてはあまり……私は、良く知らない。
「……透子、透子? 話、聞いてる?」
間近に春くんの大きな茶色い瞳があって、私は驚き思わず身を引いた。
さっきまで二人で何かを話していたはずの理人さんと雄吾さんも、怪訝そうな顔をしてこちらの様子を伺っている。
「あ。ごめん。ちょっとだけ。ぼーっとしてた……えっと、私。久しぶりに外出して、疲れちゃったみたい。今日は早めに先に、寝るね」
「え? 透子?」
戸惑ったような春くんの声を背に受けて、私は自室に向かうべく階段に向かった。
◇◆◇
部屋に戻った私は、とりあえず凛太さんに貰った名刺を出してじっと見た。
俳優としてのプロモーション用なのか、事務所の電話番号やホームページのアドレス。裏を向ければ個人の電話番号だろうか、手書きの文字で十一桁の番号が並んでいる。
こんなに悩むくらいなら、いっそ掛けてしまって聞いた方が良いんじゃないだろうか? その秘密が何だとしても、三人のことは好きだという気持ちに変わりはないと思う。
けど、それは何なのかは、どうしても気になってしまう。
私が名刺を手にしてじっと考え込んでいると、コンコンとドアからノックの音がした。慌ててベッドのサイドテーブルに置いてあったスマホの下に、凛太さんの名刺を隠した。
ドアに駆け寄ると、雄吾さんが心配そうな表情で私を見下ろしていた。背の高い雄吾さんは間近に立ったままだと、かなり目線を上げなければ目を合わせることが出来ない。
「……どうした。何か、あったのか?」
「えっと、その……何でもないです。久しぶりに外に出たから、なんか疲れちゃったみたいで」
やましい気持ちを抱えていた私はとりあえず、雄吾さんを部屋に招き入れてソファに隣り合って座る。
雄吾さんは座ってから私の顔を見た途端に、顔をわかりやすく顰めた。
「……待て、この匂い。凛太か?」
「え?」
私は彼の言葉に、驚いた。そうか、さっきはデニムのポケットに仕舞ってあったけど、今は名刺が空気に触れている。
頭ではわかっていたことだけど、人狼は本当に鼻が利くんだ。
「何処で会った? ……春の奴。ちゃんと透子のことを、見てなかったのか」
雄吾さんは淡々と言うと、私がさっき隠した場所から名刺を抜き取った。サッとそれを裏返すと、不機嫌そうに眉間の皺を深くした。
「えっと、その……」
「これのせいで、透子は元気がなかったのか?」
「……はい」
「あいつに、何を言われた?」
「……皆が私に隠し事をしているって、そう言っていました」
「……それで、元気がなかったんだな」
「はい」
雄吾さんは俯いたままの私を、ぎゅっと力強く抱き寄せた。
「透子。確かに俺たちはお前に伝えてないことは、ある。だが、お前の不利益になるようなことは、絶対にしない。絶対にだ」
「……雄吾さん」
雄吾さんは体を屈めて私の顔に唇を寄せると、ちゅっと触れるだけのキスをした。
何度かした後で私の手を引いて、ベッドに導いた。ベッドに座ると立っていた私を横座りにさせて、もう一度触れるだけのキスを始めた。
「よりにもよって、あの凛太か。なるほどな。あいつなら、確かに理人の匂いだからって臆さないだろうな」
「あの、確か凛太さんも……」
「そう。あいつも俺と同じ、不死者と呼ばれるもの。だな」
まるで自嘲するかのような、彼の表情に何故か胸が痛くなる。雄吾さんは……自分の能力を、あまり好きではないのかな?
「……ごめんなさい。私が春くんに……ちゃんと言えば良かったんですけど」
「良い。こういう事態を招いた春には、後でお仕置きだな」
首を傾げてふっと笑った雄吾さんの顔に、私は目を見開いた。
「ダメです。黙っていた私のせいで、春くんがお仕置きを受けるなんて」
結果的に目を離したようになったのは、春くんのせいじゃなくて、私が自分から彼から離れてしまったからだと今でも思う。
「じゃあ、透子が罰を受けるか?」
雄吾さんの、どこか試すような顔に私はゆっくりと頷いた。
「えっと……それって、痛いことですか?」
色んなことを想像してしまって語尾が細くなった言葉に、面白そうに雄吾さんは首を傾げた。
「そうだな……何にしようか」
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