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第一部

040 完了

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 朝遅い時間に目覚めると、隣には忙しい理人さんはもう居なくなっていて少しだけ寂しくなった。

 私の身体は、あの後で綺麗に拭ってくれたのか、今はさらっとしていた。体の中心にある名前も言うのも恥ずかしいところは、少しだけ痛んでひりついているけど普通に動く分には問題なさそうだ。

「透子、おはよ~。ブランチ食べる?」

 朝の身支度を終えてリビングに顔を出すと、大きなテレビの前でくつろいでいた春くんが、私に声を掛けてくれた。

 シャワーはもちろん浴びたばかりけど、鼻が利く彼にはもう理人さんとそういうことしたことはわかっているんだなと思うと恥ずかしい……。

「うん。ありがとう。春くん」

 立ち上がってこちらを向いて、いつも通りの良い笑顔で春くんは言った。

「これだけ理人の匂いが付いていたら、いつでも外に出られるよ。透子。さっそく今日、俺とどっか行く?」

「……やっぱり、皆にはわかるんだね……」

 私は顔を熱くして、言った。これを言った春くんには悪気はなく、この世界では当たり前のことだとは理解しているものの、私が恥ずかしいものは恥ずかしい。

「……あ、ごめん。俺。またやっちゃった?」

 もしかしたら、私に失礼なことをしてしまったのかもしれないと不安そうな顔をする春くんに、慌てて顔を振った。

「ううん、そういうの。私がただ、慣れてないだけだから気にしないで。向こうの世界ではそういうことは、あまり言わないんだけど……私がこれから住むのは、この世界なんだから、いい加減慣れなきゃね」

 なんでもないよと微笑んだ私に、春くんは安心したのかほっと息を吐いた。

「用意するよ。座って待ってて」

 パタパタと軽快にキッチンに向かう春くんを見送ると、ソファに寝転がっている雄吾さんと目が合った。やっぱり、情報が命のトレーダーの彼はスマホを使って色々と調べているようだ。

「理人なら、仕事だ。今日くらいは透子とゆっくり過ごしたかったと思うけど、あいつは族長候補だから多忙なんだ。どうか、わかってやってくれ」

「えっと、はい。大丈夫です。ありがとうございます」

「……体は、辛くないか?」

「あ、えと……はい」

「そうか」

 雄吾さんはなんでもないことのようにそう言って、自分の手にあったスマホに目線を戻した。

 彼にとってみたら、なんでもないことなんだろうけど明け透けに言われて恥ずかしい。私は赤くなっているだろう顔を両手で擦ると、お皿を両手に戻って来た春くんに微笑んだ。

「透子。良かったね。家に篭っていると、嫌になったでしょ?」

 遅めの朝ご飯を食べている私に、自分はお茶で付き合ってくれる春くん。雄吾さんはソファに寝転がって、何か悪材料でも見つけてしまったのか。やっぱり難しい顔をしたままだ。

「うん。そろそろ、外の空気吸いたいかな」

 山の中のあの家から皆でここに来てから籠りっきりだったので、流石に外へ出たかった。

「俺、出来たら連れて行きたい服屋あるんだ。女性用も置いてあるお店だから、きっと透子も気にいると思うんだけど……」

 春くんは、着ている服も色使いも良くいつもオシャレでセンスが良い。

 私に選んでくれた物も素材も着易くて気持ち良い素材だし、色も洒落てて私好みのものばかり。もし、彼がお金持ちの御曹司でなかったら、服を選ぶことを仕事とするようなスタイリストなんかが、天職なんじゃないだろうか。

「私。その……出来たら下着も、見たいんだけど」

 深青の里が用意してくれた荷物の中に私用の下着も何枚か用意されていたけれど、あの時には流石に自己申告することも出来ずに、サイズが微妙に違っていたままだ。さすがに数枚だけでは足り苦しいので、数も補充したい。
「もちろん。良いよ。そうしたら、近くに大きい百貨店があるから、そこに連れて行くよ。女性用の下着屋さんだって、あると思うよ」

「うん。ありがとう。楽しみだな……」

「俺も、透子とデートが出来るの、すげえ楽しみー! 雄吾は一緒に行く?」

 彼が寝転んでいたソファの方に声をかけた春くんに、難しい表情の雄吾さんはため息をつきながら答えた。

「……いや。今日は午後から市場が、大きく動きそうだから。俺は無理。お前達だけで行って来てくれ」

「おっけー。大変じゃん。俺は、正直嬉しいけどね。透子を、独り占めできるし」

 春くんが、にまっと大きな口で笑う笑顔が可愛い。

「そっか! せっかくデートするんだったら、お洒落したい。春くん。私の服選んでくれる?」

「もちろん、良いよー! でも、今日はせっかく服屋行くから。脱ぎ着しやすい方が良いから、薄い青のデニムと、この前着ていた薄いラベンダーのニットはどう? 俺も色合わせようかな。あ、でも……反対色でも良いよな……」

 私の着る服を即決し、その横に並ぶ自分の今日着る服を悩みはじめた春くんを見ながら、私は甘いカフェオレを飲んだ。

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