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第一部
034 つのる
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三人の夫を、持つということ。
なんだか、この世界に来てからあれよこれよという間に受け入れざるをえなかったその事実が、今はなんだか考えるたびに恥ずかしいし良いのかなって気持ちになる。
生まれ育ってきた日本では、とても考えられなかったことだ。複数の夫を持ち、その、そういうことも、する。三人のことが好きだし、好きだからこそ、なんだか迷ってしまうのだ。
私なんかが、あんな素敵な人たち全員と結婚しちゃってて良いのかなって。
不意にコンコン、とノックの音がした。
ハッと気がつけば、お風呂に入って濡れた髪のままソファに座り込んで、とりとめのない考え事をしてしまっていた。
慌ててドアを開けたら、大きなマグカップを片手に持っている雄吾さんが居た。
「少し……良いか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
慌てて彼を、部屋に招き入れる。大きなマグカップを不思議そうにしていた私に渡すと、雄吾さんはぶっきらぼうに言った。
「ココアだ。甘いもの飲むと、雌は大体機嫌が良くなるからな」
「……ありがとうございます」
ふふっと微笑むと雄吾さんは照れくさそうに、目を逸らしてソファに腰掛けた。私もその後を追って、彼の隣に座った。
「春は、今反省してる。あいつは、頭が良すぎてたまに……いつもか、バカなんだ。許してやってくれ」
「えっと……はい。ごめんなさい。この世界の人達では当たり前のことだとは、わかってはいるんですけど、やっぱり……抵抗があって」
雄吾さんは私の濡れた髪に手をかけると、テーブルに置いていたタオルを取って、ゆっくりと優しく拭き始めた。
「……そのことなんだが、俺はいつでも良い」
「え?」
「理人の匂いさえ付いていたら、とりあえずはこの巣からは出られるだろう。俺と春は、心の準備が出来てからの後回しで良いよ」
「でも」
「……あちらの世界では、一夫一妻が当たり前だと聞く。人間の嫁を娶る時には相手の貞操観念や、精神状態に気をつけるようにという先人の教えがある」
「それは……どういう意味ですか?」
「……透子の世界の人間がこちらに来ることはたまにある、というのはもう知っているな?」
「はい」
「無理に結婚させたりした場合、精神を病んでそのまま身体を悪くして亡くなったりしたケースもあるらしい」
タオルで優しく私の髪の毛を拭きながら、淡々と雄吾さんは話した。
「……そんな」
「俺は、透子がそんな風になるなら、自分の欲くらい我慢出来る。あいつ、春もそうだろう。だから、気に病まないでくれ」
「雄吾さん」
「理人の匂いがついていたら、ほとんどの雄は手出しできないと考えてくれて良い。本能で強さが測れるくらいでないと人狼の世界では生きていけないからな。だが、複数の夫を持つのはこの日本では義務だ。そこは、もう我慢してもらうしかないが……」
「あの」
私は頭を優しく撫でるように拭いていたその手を、取った。大きくて温かな優しい手。私の、夫の手だ。
「……なんだ?」
「私。我慢、してないです。三人を選んだのは私だから、皆が嫌じゃなかったら、私は」
言葉に詰まった。自分から、そういうこと言うのはやっぱり抵抗があるからだ。
「……透子、わかった。もう、何も言わなくても良い」
ぽんぽんと、宥めるようにタオルの上から頭を優しく叩かれる。
「俺達が、俺が嫌なわけ、ないだろ?」
「雄吾さん……」
「ただ、無理だけはしないでくれ。透子の覚悟が決まるまでいつまででも待てる。それが、伝えたかったんだ」
「……ありがとうございます」
「……もう、行くよ。おやすみ、透子」
照れくさそうな顔はやっぱり逸らされていたけど、その大きな手で水気の取れた前髪をくしゃっと撫でた。
なんだか、この世界に来てからあれよこれよという間に受け入れざるをえなかったその事実が、今はなんだか考えるたびに恥ずかしいし良いのかなって気持ちになる。
生まれ育ってきた日本では、とても考えられなかったことだ。複数の夫を持ち、その、そういうことも、する。三人のことが好きだし、好きだからこそ、なんだか迷ってしまうのだ。
私なんかが、あんな素敵な人たち全員と結婚しちゃってて良いのかなって。
不意にコンコン、とノックの音がした。
ハッと気がつけば、お風呂に入って濡れた髪のままソファに座り込んで、とりとめのない考え事をしてしまっていた。
慌ててドアを開けたら、大きなマグカップを片手に持っている雄吾さんが居た。
「少し……良いか?」
「え? あ、はい。どうぞ」
慌てて彼を、部屋に招き入れる。大きなマグカップを不思議そうにしていた私に渡すと、雄吾さんはぶっきらぼうに言った。
「ココアだ。甘いもの飲むと、雌は大体機嫌が良くなるからな」
「……ありがとうございます」
ふふっと微笑むと雄吾さんは照れくさそうに、目を逸らしてソファに腰掛けた。私もその後を追って、彼の隣に座った。
「春は、今反省してる。あいつは、頭が良すぎてたまに……いつもか、バカなんだ。許してやってくれ」
「えっと……はい。ごめんなさい。この世界の人達では当たり前のことだとは、わかってはいるんですけど、やっぱり……抵抗があって」
雄吾さんは私の濡れた髪に手をかけると、テーブルに置いていたタオルを取って、ゆっくりと優しく拭き始めた。
「……そのことなんだが、俺はいつでも良い」
「え?」
「理人の匂いさえ付いていたら、とりあえずはこの巣からは出られるだろう。俺と春は、心の準備が出来てからの後回しで良いよ」
「でも」
「……あちらの世界では、一夫一妻が当たり前だと聞く。人間の嫁を娶る時には相手の貞操観念や、精神状態に気をつけるようにという先人の教えがある」
「それは……どういう意味ですか?」
「……透子の世界の人間がこちらに来ることはたまにある、というのはもう知っているな?」
「はい」
「無理に結婚させたりした場合、精神を病んでそのまま身体を悪くして亡くなったりしたケースもあるらしい」
タオルで優しく私の髪の毛を拭きながら、淡々と雄吾さんは話した。
「……そんな」
「俺は、透子がそんな風になるなら、自分の欲くらい我慢出来る。あいつ、春もそうだろう。だから、気に病まないでくれ」
「雄吾さん」
「理人の匂いがついていたら、ほとんどの雄は手出しできないと考えてくれて良い。本能で強さが測れるくらいでないと人狼の世界では生きていけないからな。だが、複数の夫を持つのはこの日本では義務だ。そこは、もう我慢してもらうしかないが……」
「あの」
私は頭を優しく撫でるように拭いていたその手を、取った。大きくて温かな優しい手。私の、夫の手だ。
「……なんだ?」
「私。我慢、してないです。三人を選んだのは私だから、皆が嫌じゃなかったら、私は」
言葉に詰まった。自分から、そういうこと言うのはやっぱり抵抗があるからだ。
「……透子、わかった。もう、何も言わなくても良い」
ぽんぽんと、宥めるようにタオルの上から頭を優しく叩かれる。
「俺達が、俺が嫌なわけ、ないだろ?」
「雄吾さん……」
「ただ、無理だけはしないでくれ。透子の覚悟が決まるまでいつまででも待てる。それが、伝えたかったんだ」
「……ありがとうございます」
「……もう、行くよ。おやすみ、透子」
照れくさそうな顔はやっぱり逸らされていたけど、その大きな手で水気の取れた前髪をくしゃっと撫でた。
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