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第一部
021お昼寝
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何か、ふわふわしたものに体が包まれて、私は微睡んでいた。安心して体を任せられる、強い安心感。そう言えるもの。
目を開けて、真っ先に思ったのは、部屋の中が暗かった。かなりの時間を、寝てしまったのかもしれない。
「……起きたか」
「ん? 雄吾さん?」
私は、思わず目を擦った。大きな黒色の狼が、私の傍で寝ていたからだ。
私が眠り込んでしまったソファから身体は移されて、真新しい白いシーツが敷かれた大きなベッドに寝ていた。
その狼は私の身体の二倍はあるくらいに大きくて、黒い毛皮は手触りが良くてももふもふだし、温かくて、私は我知らぬまま身を寄せてしまっていたみたい。
寝てしまっている時に感じた心安らぐ安心感は、これのおかげだったんだなと思った。
「まだ……それほど時間は経っていない。夕飯になるまで、もう少し寝ていろ」
ふわっと黒い尻尾を動かして、今日は掃除を手伝うために動きやすいジーンズを履いていた私の足の上に乗せた。
「ごめんなさい。雄吾さんの部屋で、寝てしまうなんて」
「……俺は現在お前の夫のはずだが、寝てしまって何か問題あったか?」
「でも」
「疲れているんだろ。気にしなくて良いから、寝ろ」
雄吾さんはすげなく言うと、大きな口で私の頭を甘噛みした。全然痛くなくて何故か優しささえ感じてしまった。
ふふふ、っと笑ってしまったら大きな黒い目が細まる。
「なんで、狼の姿になっているんですか?」
「……いきなり、人の姿の俺が横で寝てたら。起きた時に、びっくりするだろ」
横に寝るのは決定事項なんですね。彼は照れたようにして、私の頬を軽く甘噛みした。
「雨が……」
私が寝てしまった間に、土砂降りになってしまったみたいで、外の雨音がすごい。
「そうだな。外出していた春はさっき帰ってきたみたいだが……」
理人さんは大丈夫だろうか? 皆の口振りでは、この巣には車は一台しかないみたいだし、徒歩だとしても……これだけ降っていたら……。
「あの。理人さんは、どこに行かれたんですか?」
ずぶ濡れになっていないか心配になって聞くと、雄吾さんは一瞬間を置いてから答えた。
「……あいつが帰って来たら、聞くと良い」
間近にある黒色の大きな瞳からは自分はそれ以上は言わない、という強い意志を感じた。
なんだが手持ち無沙汰になった私は、雄吾さんの顎の下にある柔らかな毛を触った。ふわふわしてて気持ち良い。
彼は何も言わずに目を細めて、私にされるがままになっている。この人は言葉は少ないけれど、こういった事でも優しい性格なんだということが伝わってくる。
「あの」
「なんだ?」
「……雄吾さんって、もしかしてお姉さんか妹さん居ました?」
「どうしてそう思う?」
「なんとなくです。当たってませんか?」
雄吾さんは狼の姿で、器用に大きな溜め息をついた。その口からは立派な牙も見えて、当たり前なんだけどやっぱり狼なんだな、なんて思ったりした。
「面倒なのが一人」
「……やっぱり」
「透子みたいに、可愛くはない」
私はその言葉に、首を傾げた。だって、雄吾さんの血縁者なら。
「雄吾さんと血が繋がっていれば、絶対美女だと思います」
私の決め付けたような言葉に、雄吾さんはもう一度溜め息をついた。
「そういう……姿の美醜の問題じゃないな……致命的な性格的な、問題だ。透子みたいに……遠慮がない。俺は、絶対にあんな嫁はご免だ」
雄吾さんは、ぶるりとして黒い毛皮を震わせた。
もちろん私は狼の毛を触ったのはこれが初めてだったんだけど、狼の毛皮って意外と硬い。中毛はふわふわなんだけど、外毛はツンツンしてて硬い。不思議な感触だ。
「……この世界って、女性が凄く大事にされるんですね」
「それは当たり前の事だと思うが、透子の世界では違うのか?」
「うーん、大事にされたりされなかったり。色々です」
雄吾さんは、納得したのかしてないのか。ふうんと呟くとやっぱり私の頭を大きな口で甘噛みし始めた。
「もう……くすぐったいです。甘噛みって、どういう意味があるんですか?」
「そうだな。もし自分で考えてもわからないことは、調べると良い。そうした方が記憶に残る」
「自分では、言いたくないんですね」
「……そういう訳じゃない。透子を思ってのことだ」
雄吾さんは、ぷいっと横を向いて視線を逸らした。
「……愛情表現ですか?」
「知っているなら聞くな」
「昨日春くんが言ってただけです。ふふ」
「何で笑う?」
「嬉しいんです。好かれてると嬉しいですね」
「好きじゃないなら結婚しないさ」
彼はそう言って、黒い目で私をじっと見た。ドアがいきなり開いたのは、その時だ。
「あーーー! 俺が頑張って晩ご飯作ってる間に、いちゃいちゃしてる! 抜け駆け!」
大きな声に雄吾さんはもう一度大きく溜め息をついて、扉に手を付いている春くんを見た。
「今日はなんだ」
「ご馳走! だって、透子に食べさせるんだから、そうなるだろ?」
「春くん。私普通のご飯で良いよ」
「とりあえず、食べて。お腹すいたでしょ?」
春くんはこちらに駆け寄って手を差し出し、私も笑顔でその手を取った。
目を開けて、真っ先に思ったのは、部屋の中が暗かった。かなりの時間を、寝てしまったのかもしれない。
「……起きたか」
「ん? 雄吾さん?」
私は、思わず目を擦った。大きな黒色の狼が、私の傍で寝ていたからだ。
私が眠り込んでしまったソファから身体は移されて、真新しい白いシーツが敷かれた大きなベッドに寝ていた。
その狼は私の身体の二倍はあるくらいに大きくて、黒い毛皮は手触りが良くてももふもふだし、温かくて、私は我知らぬまま身を寄せてしまっていたみたい。
寝てしまっている時に感じた心安らぐ安心感は、これのおかげだったんだなと思った。
「まだ……それほど時間は経っていない。夕飯になるまで、もう少し寝ていろ」
ふわっと黒い尻尾を動かして、今日は掃除を手伝うために動きやすいジーンズを履いていた私の足の上に乗せた。
「ごめんなさい。雄吾さんの部屋で、寝てしまうなんて」
「……俺は現在お前の夫のはずだが、寝てしまって何か問題あったか?」
「でも」
「疲れているんだろ。気にしなくて良いから、寝ろ」
雄吾さんはすげなく言うと、大きな口で私の頭を甘噛みした。全然痛くなくて何故か優しささえ感じてしまった。
ふふふ、っと笑ってしまったら大きな黒い目が細まる。
「なんで、狼の姿になっているんですか?」
「……いきなり、人の姿の俺が横で寝てたら。起きた時に、びっくりするだろ」
横に寝るのは決定事項なんですね。彼は照れたようにして、私の頬を軽く甘噛みした。
「雨が……」
私が寝てしまった間に、土砂降りになってしまったみたいで、外の雨音がすごい。
「そうだな。外出していた春はさっき帰ってきたみたいだが……」
理人さんは大丈夫だろうか? 皆の口振りでは、この巣には車は一台しかないみたいだし、徒歩だとしても……これだけ降っていたら……。
「あの。理人さんは、どこに行かれたんですか?」
ずぶ濡れになっていないか心配になって聞くと、雄吾さんは一瞬間を置いてから答えた。
「……あいつが帰って来たら、聞くと良い」
間近にある黒色の大きな瞳からは自分はそれ以上は言わない、という強い意志を感じた。
なんだが手持ち無沙汰になった私は、雄吾さんの顎の下にある柔らかな毛を触った。ふわふわしてて気持ち良い。
彼は何も言わずに目を細めて、私にされるがままになっている。この人は言葉は少ないけれど、こういった事でも優しい性格なんだということが伝わってくる。
「あの」
「なんだ?」
「……雄吾さんって、もしかしてお姉さんか妹さん居ました?」
「どうしてそう思う?」
「なんとなくです。当たってませんか?」
雄吾さんは狼の姿で、器用に大きな溜め息をついた。その口からは立派な牙も見えて、当たり前なんだけどやっぱり狼なんだな、なんて思ったりした。
「面倒なのが一人」
「……やっぱり」
「透子みたいに、可愛くはない」
私はその言葉に、首を傾げた。だって、雄吾さんの血縁者なら。
「雄吾さんと血が繋がっていれば、絶対美女だと思います」
私の決め付けたような言葉に、雄吾さんはもう一度溜め息をついた。
「そういう……姿の美醜の問題じゃないな……致命的な性格的な、問題だ。透子みたいに……遠慮がない。俺は、絶対にあんな嫁はご免だ」
雄吾さんは、ぶるりとして黒い毛皮を震わせた。
もちろん私は狼の毛を触ったのはこれが初めてだったんだけど、狼の毛皮って意外と硬い。中毛はふわふわなんだけど、外毛はツンツンしてて硬い。不思議な感触だ。
「……この世界って、女性が凄く大事にされるんですね」
「それは当たり前の事だと思うが、透子の世界では違うのか?」
「うーん、大事にされたりされなかったり。色々です」
雄吾さんは、納得したのかしてないのか。ふうんと呟くとやっぱり私の頭を大きな口で甘噛みし始めた。
「もう……くすぐったいです。甘噛みって、どういう意味があるんですか?」
「そうだな。もし自分で考えてもわからないことは、調べると良い。そうした方が記憶に残る」
「自分では、言いたくないんですね」
「……そういう訳じゃない。透子を思ってのことだ」
雄吾さんは、ぷいっと横を向いて視線を逸らした。
「……愛情表現ですか?」
「知っているなら聞くな」
「昨日春くんが言ってただけです。ふふ」
「何で笑う?」
「嬉しいんです。好かれてると嬉しいですね」
「好きじゃないなら結婚しないさ」
彼はそう言って、黒い目で私をじっと見た。ドアがいきなり開いたのは、その時だ。
「あーーー! 俺が頑張って晩ご飯作ってる間に、いちゃいちゃしてる! 抜け駆け!」
大きな声に雄吾さんはもう一度大きく溜め息をついて、扉に手を付いている春くんを見た。
「今日はなんだ」
「ご馳走! だって、透子に食べさせるんだから、そうなるだろ?」
「春くん。私普通のご飯で良いよ」
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春くんはこちらに駆け寄って手を差し出し、私も笑顔でその手を取った。
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