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第一部
018朝の衝撃
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朝に起きた時は当たり前なんだけど大きなベッドにぽつんと一人で寝ていて、心のどこかでそれを残念に思ってしまう私が居た。理人さんは昨夜私が寝るまではと手を繋いで隣に居てくれたから、なんとなくそのまま手と手が繋がっているような気がしたから。
着替えをして階段を降りると、ぱたぱたとした軽快な小走りの足音が聞こえて来た。
「おっはよー。透子、良く寝れた?」
「春くん。おはよ。うん、春くんは?」
「俺は睡眠短くても、全然平気だから大丈夫だよ。ん? ……透子、お風呂入る?」
確かに昨夜は仕方ないとは言え、掃除の出来ていない埃っぽいベッドで寝ることになったから、出来ればお風呂には入りたい。流石に気が利くと思って、春くんに微笑んだ。
「うん。ありがとう」
「透子。すっごい理人の匂いがするー。俺が気になるから、早くお風呂入って欲しい」
春くんは、別に揶揄っている訳でもなくてただ普通のことを言いましたという様子だった。まさかそんな事を言われると思っていなかった私は、顔が熱くなった。
そうか……人狼は鼻が利くから。理人さんと何かをすれば、なんでも他の二人にもお見通しなんだ。
「すぐに入ってくる。お風呂って、どこ?」
「……透子の部屋にもシャワーあるけど、疲れていると思うし湯船に浸かりたいよね? こっち来て、案内するよ」
春くんは、そう言って手招きをした。案内されたすぐそこにあった大きな湯船のある浴室の場所を確認して、私は一度自室に戻り着替えを持って浴室にまたやって来てほっと息をついた。
豪邸の中にあるだけあって、浴室は身体全体を伸ばせるくらい大きくて春くんが念入りに掃除してくれたのか清潔だ。ジャグジーも付いている湯船には、たっぷりと適温のお湯が張られている。
ゆっくりお湯に浸かり、ふわっと昨夜のことが思い出されていたたまれなくなる。練習をしましょうって! 何! ジタバタして転げ回りたいくらいに恥ずかしい。
全く経験もないのに、上から言ってしまった……。出し抜けに浴室の外から春くんの声がした。
「透子。身体拭く用のタオルを置いとくね」
「うん。ありがとう」
私のお世話を焼いてくれる春くんが、トタトタと軽やかな足音を立てて去って行く。その音が、完全に聞こえなくなるのを待った。このまま色々と考えてしまうと、のぼせてしまいそうだから私は湯船から上がることにした。
春くんが置いてくれていたのは、ふかふかの高級そうなタオルだ。私が起きたらすぐに使えるように、洗濯して乾燥までかけてくれてたのかもしれない。
お風呂から出た時特有の気持ちよさに、鼻歌混じりに体を拭いていると、私は信じ難いものを洗面台の影に見た。
影よりも黒くて……素早くて……アイツはそう……。
「キャーーーーー!!!!」
信じがたい生き物を前に、今自分がどういう状況なのかも考えずに思い切り悲鳴を上げてしまった。
すぐにバンっと大きな音を立てて、脱衣場の扉が開いて血相を変えた雄吾さんが素早く入ってくる。
「どうした?!」
「あ、あそこ、あそこに……」
「あー。なんだ。ご……」
「言わないで! その名前を、言わないで!」
絶対に聞きたくない名前を防ごうと、慌てて太い片腕にしがみついた私を見て雄吾さんは、鼻からたらっと赤い血を出した。
え?
「そこのタオル、拾え。すぐなんとかしといてやるから」
腕で血を拭いながら顔を背ける雄吾さんと自分の一糸まとわぬ姿で居る状況を把握して愕然とした私は、もう一度大きな悲鳴をあげた。
◇◆◇
「わー。朝から、大騒ぎだったね~。透子、大丈夫だった?」
フライパンからパンケーキをお皿に載せながら、可愛いチェックのエプロンをつけた春くんは言った。
「俺は、とんだ災難だった。今でも耳の奥が、キーンとする」
憮然とした表情で、雄吾さんはコーヒーを飲んだ。人間より高機能だろう、その大きな獣耳の近くで思い切り大きな声で叫んでしまった私は、しゅんとして小さくなるしかない。
「大体あんな虫、スリッパで……」
「やめて! その先を絶対、言わないで」
その行為によるあの名前を言いたくない虫の最期を思うと、ぞくっと背筋が寒くなる。
「透子……すっごいあれが嫌いなんだね。わかったよ~。こっちの家も、色々と対策しないとね?」
春くんはにこにこ笑いながら、複雑な顔になっている私の前に、三枚に重ねられたパンケーキや盛られた果物を並べていく。
「うん。そうしてくれると、嬉しい。私も何でも手伝う……!」
「気合い、入ってるね。こっちの家に巣を変えて本当に良かったよね。向こうなんて、山の中の日本家屋だから、たまに見たこともないくらい大きな……」
「春。意地悪するのは、やめろ」
今まで一人だけ挨拶だけして黙っていた理人さんが、読んでいた新聞から顔を上げ春くんに注意した。
私はなんだか色々あって疲れていたのか昼近くの時間まで寝てしまっていたんだけど、三人はその間に様々な用事を済ませていたようだ。
「はーい」
悪気のない顔をして笑った春くんは肩を竦めつつ、自分の分のパンケーキを置くと両手を合わせて食べ始めた。
私も彼につられたように、朝食に手をつける。パンケーキは、ふわふわで口当たりも良く美味しい。お店で食べているかのような錯覚さえした。
「春くん。美味しい!」
「そう? 透子にそう言って貰えると、すごく嬉しいなー。俺料理作るの好きなんだ。夕飯も頑張るから。楽しみにしててね」
そう言ってにっこり明るく笑った春くんにつられて、私も笑った。
着替えをして階段を降りると、ぱたぱたとした軽快な小走りの足音が聞こえて来た。
「おっはよー。透子、良く寝れた?」
「春くん。おはよ。うん、春くんは?」
「俺は睡眠短くても、全然平気だから大丈夫だよ。ん? ……透子、お風呂入る?」
確かに昨夜は仕方ないとは言え、掃除の出来ていない埃っぽいベッドで寝ることになったから、出来ればお風呂には入りたい。流石に気が利くと思って、春くんに微笑んだ。
「うん。ありがとう」
「透子。すっごい理人の匂いがするー。俺が気になるから、早くお風呂入って欲しい」
春くんは、別に揶揄っている訳でもなくてただ普通のことを言いましたという様子だった。まさかそんな事を言われると思っていなかった私は、顔が熱くなった。
そうか……人狼は鼻が利くから。理人さんと何かをすれば、なんでも他の二人にもお見通しなんだ。
「すぐに入ってくる。お風呂って、どこ?」
「……透子の部屋にもシャワーあるけど、疲れていると思うし湯船に浸かりたいよね? こっち来て、案内するよ」
春くんは、そう言って手招きをした。案内されたすぐそこにあった大きな湯船のある浴室の場所を確認して、私は一度自室に戻り着替えを持って浴室にまたやって来てほっと息をついた。
豪邸の中にあるだけあって、浴室は身体全体を伸ばせるくらい大きくて春くんが念入りに掃除してくれたのか清潔だ。ジャグジーも付いている湯船には、たっぷりと適温のお湯が張られている。
ゆっくりお湯に浸かり、ふわっと昨夜のことが思い出されていたたまれなくなる。練習をしましょうって! 何! ジタバタして転げ回りたいくらいに恥ずかしい。
全く経験もないのに、上から言ってしまった……。出し抜けに浴室の外から春くんの声がした。
「透子。身体拭く用のタオルを置いとくね」
「うん。ありがとう」
私のお世話を焼いてくれる春くんが、トタトタと軽やかな足音を立てて去って行く。その音が、完全に聞こえなくなるのを待った。このまま色々と考えてしまうと、のぼせてしまいそうだから私は湯船から上がることにした。
春くんが置いてくれていたのは、ふかふかの高級そうなタオルだ。私が起きたらすぐに使えるように、洗濯して乾燥までかけてくれてたのかもしれない。
お風呂から出た時特有の気持ちよさに、鼻歌混じりに体を拭いていると、私は信じ難いものを洗面台の影に見た。
影よりも黒くて……素早くて……アイツはそう……。
「キャーーーーー!!!!」
信じがたい生き物を前に、今自分がどういう状況なのかも考えずに思い切り悲鳴を上げてしまった。
すぐにバンっと大きな音を立てて、脱衣場の扉が開いて血相を変えた雄吾さんが素早く入ってくる。
「どうした?!」
「あ、あそこ、あそこに……」
「あー。なんだ。ご……」
「言わないで! その名前を、言わないで!」
絶対に聞きたくない名前を防ごうと、慌てて太い片腕にしがみついた私を見て雄吾さんは、鼻からたらっと赤い血を出した。
え?
「そこのタオル、拾え。すぐなんとかしといてやるから」
腕で血を拭いながら顔を背ける雄吾さんと自分の一糸まとわぬ姿で居る状況を把握して愕然とした私は、もう一度大きな悲鳴をあげた。
◇◆◇
「わー。朝から、大騒ぎだったね~。透子、大丈夫だった?」
フライパンからパンケーキをお皿に載せながら、可愛いチェックのエプロンをつけた春くんは言った。
「俺は、とんだ災難だった。今でも耳の奥が、キーンとする」
憮然とした表情で、雄吾さんはコーヒーを飲んだ。人間より高機能だろう、その大きな獣耳の近くで思い切り大きな声で叫んでしまった私は、しゅんとして小さくなるしかない。
「大体あんな虫、スリッパで……」
「やめて! その先を絶対、言わないで」
その行為によるあの名前を言いたくない虫の最期を思うと、ぞくっと背筋が寒くなる。
「透子……すっごいあれが嫌いなんだね。わかったよ~。こっちの家も、色々と対策しないとね?」
春くんはにこにこ笑いながら、複雑な顔になっている私の前に、三枚に重ねられたパンケーキや盛られた果物を並べていく。
「うん。そうしてくれると、嬉しい。私も何でも手伝う……!」
「気合い、入ってるね。こっちの家に巣を変えて本当に良かったよね。向こうなんて、山の中の日本家屋だから、たまに見たこともないくらい大きな……」
「春。意地悪するのは、やめろ」
今まで一人だけ挨拶だけして黙っていた理人さんが、読んでいた新聞から顔を上げ春くんに注意した。
私はなんだか色々あって疲れていたのか昼近くの時間まで寝てしまっていたんだけど、三人はその間に様々な用事を済ませていたようだ。
「はーい」
悪気のない顔をして笑った春くんは肩を竦めつつ、自分の分のパンケーキを置くと両手を合わせて食べ始めた。
私も彼につられたように、朝食に手をつける。パンケーキは、ふわふわで口当たりも良く美味しい。お店で食べているかのような錯覚さえした。
「春くん。美味しい!」
「そう? 透子にそう言って貰えると、すごく嬉しいなー。俺料理作るの好きなんだ。夕飯も頑張るから。楽しみにしててね」
そう言ってにっこり明るく笑った春くんにつられて、私も笑った。
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