まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
18 / 151
第一部

018朝の衝撃

しおりを挟む
 朝に起きた時は当たり前なんだけど大きなベッドにぽつんと一人で寝ていて、心のどこかでそれを残念に思ってしまう私が居た。理人さんは昨夜私が寝るまではと手を繋いで隣に居てくれたから、なんとなくそのまま手と手が繋がっているような気がしたから。

 着替えをして階段を降りると、ぱたぱたとした軽快な小走りの足音が聞こえて来た。

「おっはよー。透子、良く寝れた?」

「春くん。おはよ。うん、春くんは?」

「俺は睡眠短くても、全然平気だから大丈夫だよ。ん? ……透子、お風呂入る?」

 確かに昨夜は仕方ないとは言え、掃除の出来ていない埃っぽいベッドで寝ることになったから、出来ればお風呂には入りたい。流石に気が利くと思って、春くんに微笑んだ。

「うん。ありがとう」

「透子。すっごい理人の匂いがするー。俺が気になるから、早くお風呂入って欲しい」

 春くんは、別に揶揄っている訳でもなくてただ普通のことを言いましたという様子だった。まさかそんな事を言われると思っていなかった私は、顔が熱くなった。

 そうか……人狼は鼻が利くから。理人さんと何かをすれば、なんでも他の二人にもお見通しなんだ。

「すぐに入ってくる。お風呂って、どこ?」

「……透子の部屋にもシャワーあるけど、疲れていると思うし湯船に浸かりたいよね? こっち来て、案内するよ」

 春くんは、そう言って手招きをした。案内されたすぐそこにあった大きな湯船のある浴室の場所を確認して、私は一度自室に戻り着替えを持って浴室にまたやって来てほっと息をついた。

 豪邸の中にあるだけあって、浴室は身体全体を伸ばせるくらい大きくて春くんが念入りに掃除してくれたのか清潔だ。ジャグジーも付いている湯船には、たっぷりと適温のお湯が張られている。

 ゆっくりお湯に浸かり、ふわっと昨夜のことが思い出されていたたまれなくなる。練習をしましょうって! 何! ジタバタして転げ回りたいくらいに恥ずかしい。

 全く経験もないのに、上から言ってしまった……。出し抜けに浴室の外から春くんの声がした。

「透子。身体拭く用のタオルを置いとくね」

「うん。ありがとう」

 私のお世話を焼いてくれる春くんが、トタトタと軽やかな足音を立てて去って行く。その音が、完全に聞こえなくなるのを待った。このまま色々と考えてしまうと、のぼせてしまいそうだから私は湯船から上がることにした。

 春くんが置いてくれていたのは、ふかふかの高級そうなタオルだ。私が起きたらすぐに使えるように、洗濯して乾燥までかけてくれてたのかもしれない。

 お風呂から出た時特有の気持ちよさに、鼻歌混じりに体を拭いていると、私は信じ難いものを洗面台の影に見た。

 影よりも黒くて……素早くて……アイツはそう……。

「キャーーーーー!!!!」

 信じがたい生き物を前に、今自分がどういう状況なのかも考えずに思い切り悲鳴を上げてしまった。

 すぐにバンっと大きな音を立てて、脱衣場の扉が開いて血相を変えた雄吾さんが素早く入ってくる。

「どうした?!」

「あ、あそこ、あそこに……」

「あー。なんだ。ご……」

「言わないで! その名前を、言わないで!」

 絶対に聞きたくない名前を防ごうと、慌てて太い片腕にしがみついた私を見て雄吾さんは、鼻からたらっと赤い血を出した。

 え?

「そこのタオル、拾え。すぐなんとかしといてやるから」

 腕で血を拭いながら顔を背ける雄吾さんと自分の一糸まとわぬ姿で居る状況を把握して愕然とした私は、もう一度大きな悲鳴をあげた。


◇◆◇


「わー。朝から、大騒ぎだったね~。透子、大丈夫だった?」

 フライパンからパンケーキをお皿に載せながら、可愛いチェックのエプロンをつけた春くんは言った。

「俺は、とんだ災難だった。今でも耳の奥が、キーンとする」

 憮然とした表情で、雄吾さんはコーヒーを飲んだ。人間より高機能だろう、その大きな獣耳の近くで思い切り大きな声で叫んでしまった私は、しゅんとして小さくなるしかない。

「大体あんな虫、スリッパで……」

「やめて! その先を絶対、言わないで」

 その行為によるあの名前を言いたくない虫の最期を思うと、ぞくっと背筋が寒くなる。

「透子……すっごいあれが嫌いなんだね。わかったよ~。こっちの家も、色々と対策しないとね?」

 春くんはにこにこ笑いながら、複雑な顔になっている私の前に、三枚に重ねられたパンケーキや盛られた果物を並べていく。

「うん。そうしてくれると、嬉しい。私も何でも手伝う……!」

「気合い、入ってるね。こっちの家に巣を変えて本当に良かったよね。向こうなんて、山の中の日本家屋だから、たまに見たこともないくらい大きな……」

「春。意地悪するのは、やめろ」

 今まで一人だけ挨拶だけして黙っていた理人さんが、読んでいた新聞から顔を上げ春くんに注意した。

 私はなんだか色々あって疲れていたのか昼近くの時間まで寝てしまっていたんだけど、三人はその間に様々な用事を済ませていたようだ。

「はーい」

 悪気のない顔をして笑った春くんは肩を竦めつつ、自分の分のパンケーキを置くと両手を合わせて食べ始めた。

 私も彼につられたように、朝食に手をつける。パンケーキは、ふわふわで口当たりも良く美味しい。お店で食べているかのような錯覚さえした。

「春くん。美味しい!」

「そう? 透子にそう言って貰えると、すごく嬉しいなー。俺料理作るの好きなんだ。夕飯も頑張るから。楽しみにしててね」

 そう言ってにっこり明るく笑った春くんにつられて、私も笑った。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...