まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
15 / 151
第一部

015甘噛み

しおりを挟む
「……え? 春くん、何するの?」

 間近と言える程にまで近付いている春くんは、私の左手を取りその赤い舌でチロっと少しずつ範囲を広げて舐め始めた。

「んー? これって何て言うんだろ? マーキング? 愛情表現? 言い方は、色々あるけどどれが良いかな?」

 くすぐったいし、なんだか気持ち良い……そして彼にされるのなら、嫌な行為ではない。そんな自分をなんだか認めたくない気持ちもあって、春くんをちょっとだけ睨んだ。

「私。一緒に居てって、言っただけだよ」

 彼は弱い力で歯を立てて、私の薬指をかじる。

「ん。透子の味がして美味しい。ほんとに細くて小さくて可愛いなぁ。もっと舐めて良い?」

「ちょっ……ちょっと待って。ダメだよ。春くん、序列、あるんでしょ?」

「まぁ……あるけど。今日は絶対に最後までは、出来ないし……透子がもし本当にそれを望んだら、別に殺されはしないんじゃないかな……二人に半殺しにされるかもしれないけどね」

 春くんはくすくすと楽しげに笑いながら、私の手から彼の身体に見合う大きな手を離した。肩をすくめながら、優しく笑う。

「……半殺しになるの?」

「人狼の序列は、絶対だからね。例えば、俺があの二人に逆らえば、理人と雄吾からその力を持って制裁をくらうか。群れを出されるか。どっちかになる」

「……その割には時々逆らってるよね?」

「ふっ……そうだね。まあ、理人と雄吾はなんだかんだ言って、優しいから。だから、優し過ぎて群れを……」

 その時、ガンっと音がして、春くんが隣からいきなり居なくなった。私はただただ驚くしかない。

 えっ……? 今、何が起こったの?

「わー。おかえり。二人とも、なんか思ったより早かったね?」

 気がつけば下の床に呑気に転がったまんま、春くんはのんびりとした口調で言った。

「お喋りなのは、感心しないな。春」

「殺されたいなら、いつでも言えよ」

 姿を元に戻している理人さんと、雄吾さんの二人がすぐ傍に居た。こんなに近付いていた彼らにまったく気がついていなかった私は、慌ててベッドから立ち上がった。

「あ、おかえりなさい?」

「ただいま帰りました……なんで、疑問形なんですか?」

 戸惑いつつおかえりを言った私を見て、くすっと優しく理人さんは笑って大きな荷物をベッドのサイドテーブルの上に置いた。

「えっと……なんだか、慣れなくて……ごめんなさい」

「謝らなくて、別に良いですよ」

 春くんは私に手を振りつつ雄吾さんに大きな耳を引っ張られながら、部屋を出て言った。

「ここは透子さんの部屋になります。もう遅いから、ゆっくり休んで」

「あ! あの……えっと……春くんは私が一人でさみしいって、言ったから。ここに一緒に居てくれただけなんです……半殺しには、しないでください」

 理人さんはくすくすと笑って、肩に手を置きベッドへと座らせた私の隣に自然と座った。

「大丈夫ですよ。いちいちこんなことで目くじらをたてていたら、春は命がいくらあっても足りないでしょうね。失言はあいつの得意技なので」

「はい……」

 なんだか、言い訳っぽくなってしまったとしゅんとした私に理人さんは優しく言った。

「あいつに、左手を舐められました?」

「え? わかるんですか?」

 鼻がきくとわかってはいても、そんなことまでわかるんだと私は驚いた。

「ええ、匂いで……もしかしたら、春は明日の朝には半殺しになっているかもしれませんね」

 こんな、爽やかでにこやかな顔で怒っているのかな。理人さんは、じっと私の手を見た。

「だっ……ダメです! しないでください」

「どうしてですか。あいつは序列を守れない、ということになります」

「……その、今回は私が油断していたんで、特別です!」

 慌てた私のつんのめるほどの勢いに、理人さんはちょっと呆気に取られた顔をした後でくすっと笑った。

「では、僕が上書きしても?」

 今まで見たこともなかった美形な人の、少し艶めいた色気ある表情に私はこくんと喉を鳴らした。

「……はい」

 理人さんに促されるままに、私はゆっくり左手を差し出す。

「指が細くて、すごく綺麗な手だ」

「……普通ですよ」

 感動したように彼が呟いたので、私は慌てて否定をした。

「綺麗ですよ。僕の手と比べてみますか?」

 理人さんの大きくて綺麗な手に目を移す。雪石膏みたいなつくり物めいた綺麗な手だ。

「比べるのが、恥ずかしくなっちゃうくらい。理人さんの手はすごく綺麗です」

「ありがとうございます?」

「ふふっ……なんで疑問形なんですか?」

「言われたことがないもので……僕には妹が居たので……近くに女の子が居ることには慣れているつもりではいたんですけど……」

 と、彼は一度話を切ると口に手を当てた。

「理人さん?」

「いえ、すみません。関係ないことを言いそうになりました」

 そう言いながらぺろっと私の手の甲を舐めた。

「ん、くすぐったいです」

 くすっと私は笑うと、理人さんは優しく微笑んだ。

「上書きします……気持ち良いですか?」
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...