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第一部
015甘噛み
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「……え? 春くん、何するの?」
間近と言える程にまで近付いている春くんは、私の左手を取りその赤い舌でチロっと少しずつ範囲を広げて舐め始めた。
「んー? これって何て言うんだろ? マーキング? 愛情表現? 言い方は、色々あるけどどれが良いかな?」
くすぐったいし、なんだか気持ち良い……そして彼にされるのなら、嫌な行為ではない。そんな自分をなんだか認めたくない気持ちもあって、春くんをちょっとだけ睨んだ。
「私。一緒に居てって、言っただけだよ」
彼は弱い力で歯を立てて、私の薬指をかじる。
「ん。透子の味がして美味しい。ほんとに細くて小さくて可愛いなぁ。もっと舐めて良い?」
「ちょっ……ちょっと待って。ダメだよ。春くん、序列、あるんでしょ?」
「まぁ……あるけど。今日は絶対に最後までは、出来ないし……透子がもし本当にそれを望んだら、別に殺されはしないんじゃないかな……二人に半殺しにされるかもしれないけどね」
春くんはくすくすと楽しげに笑いながら、私の手から彼の身体に見合う大きな手を離した。肩をすくめながら、優しく笑う。
「……半殺しになるの?」
「人狼の序列は、絶対だからね。例えば、俺があの二人に逆らえば、理人と雄吾からその力を持って制裁をくらうか。群れを出されるか。どっちかになる」
「……その割には時々逆らってるよね?」
「ふっ……そうだね。まあ、理人と雄吾はなんだかんだ言って、優しいから。だから、優し過ぎて群れを……」
その時、ガンっと音がして、春くんが隣からいきなり居なくなった。私はただただ驚くしかない。
えっ……? 今、何が起こったの?
「わー。おかえり。二人とも、なんか思ったより早かったね?」
気がつけば下の床に呑気に転がったまんま、春くんはのんびりとした口調で言った。
「お喋りなのは、感心しないな。春」
「殺されたいなら、いつでも言えよ」
姿を元に戻している理人さんと、雄吾さんの二人がすぐ傍に居た。こんなに近付いていた彼らにまったく気がついていなかった私は、慌ててベッドから立ち上がった。
「あ、おかえりなさい?」
「ただいま帰りました……なんで、疑問形なんですか?」
戸惑いつつおかえりを言った私を見て、くすっと優しく理人さんは笑って大きな荷物をベッドのサイドテーブルの上に置いた。
「えっと……なんだか、慣れなくて……ごめんなさい」
「謝らなくて、別に良いですよ」
春くんは私に手を振りつつ雄吾さんに大きな耳を引っ張られながら、部屋を出て言った。
「ここは透子さんの部屋になります。もう遅いから、ゆっくり休んで」
「あ! あの……えっと……春くんは私が一人でさみしいって、言ったから。ここに一緒に居てくれただけなんです……半殺しには、しないでください」
理人さんはくすくすと笑って、肩に手を置きベッドへと座らせた私の隣に自然と座った。
「大丈夫ですよ。いちいちこんなことで目くじらをたてていたら、春は命がいくらあっても足りないでしょうね。失言はあいつの得意技なので」
「はい……」
なんだか、言い訳っぽくなってしまったとしゅんとした私に理人さんは優しく言った。
「あいつに、左手を舐められました?」
「え? わかるんですか?」
鼻がきくとわかってはいても、そんなことまでわかるんだと私は驚いた。
「ええ、匂いで……もしかしたら、春は明日の朝には半殺しになっているかもしれませんね」
こんな、爽やかでにこやかな顔で怒っているのかな。理人さんは、じっと私の手を見た。
「だっ……ダメです! しないでください」
「どうしてですか。あいつは序列を守れない、ということになります」
「……その、今回は私が油断していたんで、特別です!」
慌てた私のつんのめるほどの勢いに、理人さんはちょっと呆気に取られた顔をした後でくすっと笑った。
「では、僕が上書きしても?」
今まで見たこともなかった美形な人の、少し艶めいた色気ある表情に私はこくんと喉を鳴らした。
「……はい」
理人さんに促されるままに、私はゆっくり左手を差し出す。
「指が細くて、すごく綺麗な手だ」
「……普通ですよ」
感動したように彼が呟いたので、私は慌てて否定をした。
「綺麗ですよ。僕の手と比べてみますか?」
理人さんの大きくて綺麗な手に目を移す。雪石膏みたいなつくり物めいた綺麗な手だ。
「比べるのが、恥ずかしくなっちゃうくらい。理人さんの手はすごく綺麗です」
「ありがとうございます?」
「ふふっ……なんで疑問形なんですか?」
「言われたことがないもので……僕には妹が居たので……近くに女の子が居ることには慣れているつもりではいたんですけど……」
と、彼は一度話を切ると口に手を当てた。
「理人さん?」
「いえ、すみません。関係ないことを言いそうになりました」
そう言いながらぺろっと私の手の甲を舐めた。
「ん、くすぐったいです」
くすっと私は笑うと、理人さんは優しく微笑んだ。
「上書きします……気持ち良いですか?」
間近と言える程にまで近付いている春くんは、私の左手を取りその赤い舌でチロっと少しずつ範囲を広げて舐め始めた。
「んー? これって何て言うんだろ? マーキング? 愛情表現? 言い方は、色々あるけどどれが良いかな?」
くすぐったいし、なんだか気持ち良い……そして彼にされるのなら、嫌な行為ではない。そんな自分をなんだか認めたくない気持ちもあって、春くんをちょっとだけ睨んだ。
「私。一緒に居てって、言っただけだよ」
彼は弱い力で歯を立てて、私の薬指をかじる。
「ん。透子の味がして美味しい。ほんとに細くて小さくて可愛いなぁ。もっと舐めて良い?」
「ちょっ……ちょっと待って。ダメだよ。春くん、序列、あるんでしょ?」
「まぁ……あるけど。今日は絶対に最後までは、出来ないし……透子がもし本当にそれを望んだら、別に殺されはしないんじゃないかな……二人に半殺しにされるかもしれないけどね」
春くんはくすくすと楽しげに笑いながら、私の手から彼の身体に見合う大きな手を離した。肩をすくめながら、優しく笑う。
「……半殺しになるの?」
「人狼の序列は、絶対だからね。例えば、俺があの二人に逆らえば、理人と雄吾からその力を持って制裁をくらうか。群れを出されるか。どっちかになる」
「……その割には時々逆らってるよね?」
「ふっ……そうだね。まあ、理人と雄吾はなんだかんだ言って、優しいから。だから、優し過ぎて群れを……」
その時、ガンっと音がして、春くんが隣からいきなり居なくなった。私はただただ驚くしかない。
えっ……? 今、何が起こったの?
「わー。おかえり。二人とも、なんか思ったより早かったね?」
気がつけば下の床に呑気に転がったまんま、春くんはのんびりとした口調で言った。
「お喋りなのは、感心しないな。春」
「殺されたいなら、いつでも言えよ」
姿を元に戻している理人さんと、雄吾さんの二人がすぐ傍に居た。こんなに近付いていた彼らにまったく気がついていなかった私は、慌ててベッドから立ち上がった。
「あ、おかえりなさい?」
「ただいま帰りました……なんで、疑問形なんですか?」
戸惑いつつおかえりを言った私を見て、くすっと優しく理人さんは笑って大きな荷物をベッドのサイドテーブルの上に置いた。
「えっと……なんだか、慣れなくて……ごめんなさい」
「謝らなくて、別に良いですよ」
春くんは私に手を振りつつ雄吾さんに大きな耳を引っ張られながら、部屋を出て言った。
「ここは透子さんの部屋になります。もう遅いから、ゆっくり休んで」
「あ! あの……えっと……春くんは私が一人でさみしいって、言ったから。ここに一緒に居てくれただけなんです……半殺しには、しないでください」
理人さんはくすくすと笑って、肩に手を置きベッドへと座らせた私の隣に自然と座った。
「大丈夫ですよ。いちいちこんなことで目くじらをたてていたら、春は命がいくらあっても足りないでしょうね。失言はあいつの得意技なので」
「はい……」
なんだか、言い訳っぽくなってしまったとしゅんとした私に理人さんは優しく言った。
「あいつに、左手を舐められました?」
「え? わかるんですか?」
鼻がきくとわかってはいても、そんなことまでわかるんだと私は驚いた。
「ええ、匂いで……もしかしたら、春は明日の朝には半殺しになっているかもしれませんね」
こんな、爽やかでにこやかな顔で怒っているのかな。理人さんは、じっと私の手を見た。
「だっ……ダメです! しないでください」
「どうしてですか。あいつは序列を守れない、ということになります」
「……その、今回は私が油断していたんで、特別です!」
慌てた私のつんのめるほどの勢いに、理人さんはちょっと呆気に取られた顔をした後でくすっと笑った。
「では、僕が上書きしても?」
今まで見たこともなかった美形な人の、少し艶めいた色気ある表情に私はこくんと喉を鳴らした。
「……はい」
理人さんに促されるままに、私はゆっくり左手を差し出す。
「指が細くて、すごく綺麗な手だ」
「……普通ですよ」
感動したように彼が呟いたので、私は慌てて否定をした。
「綺麗ですよ。僕の手と比べてみますか?」
理人さんの大きくて綺麗な手に目を移す。雪石膏みたいなつくり物めいた綺麗な手だ。
「比べるのが、恥ずかしくなっちゃうくらい。理人さんの手はすごく綺麗です」
「ありがとうございます?」
「ふふっ……なんで疑問形なんですか?」
「言われたことがないもので……僕には妹が居たので……近くに女の子が居ることには慣れているつもりではいたんですけど……」
と、彼は一度話を切ると口に手を当てた。
「理人さん?」
「いえ、すみません。関係ないことを言いそうになりました」
そう言いながらぺろっと私の手の甲を舐めた。
「ん、くすぐったいです」
くすっと私は笑うと、理人さんは優しく微笑んだ。
「上書きします……気持ち良いですか?」
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