まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

014新しい巣

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 新しい巣と言われた場所に辿り着いて、私は間抜けに口を開いたまま、その大きな建物を見上げた。

「すごく大きい……ね?」

 唸るほどにお金を持っていそうな、お金持ちの豪邸と言っても差し支えのない大きな建物がそこにはあった。正面玄関にあたる大きな門構えも、庶民ではあり得ないほどに凄く立派だ。

「そう? 理人の昔の地位を知ったら、そんなに驚くことじゃないかも。理人は次の深青の里の族長候補だったし、この巣に住んでいた頃はある程度の権力は持ってたんじゃないかなー?」

 じゃらっと音をさせていくつかの複雑な金属製の鍵を試しながら、春くんはあっけらかんと言った。

「あの……なんで、私たち映画を観てたの? ここに来るんだったら、全員ですぐに来てたら良かったのに」

「んー? 時間潰しだよ。ここへ移動する道中で襲われたら、面倒だからね。全員分の大きい荷物持って移動するってなると、どうしても車で移動することになるでしょ? そこを襲われたらすごく面倒だったし。時間を置いて森で相手出来るように、奴らを引き付けていたんだよ。あー、開いた」

 私はただただ寛いでいるだけだと思っていたので、春くんが言ってくれた事情を聞いてすごく衝撃だったけど。確かにそれを聞かされていたとしても、不安でそわそわしてしまって映画を観ているどころではなかったはずだ。

 これから起こる事を全部わかっていながら、私には何も言わずに彼らは気を使ってくれたんだ。

 難しい表情になっていた私の顔を見て、春くんは安心させるようにニッと笑った。

「さ、入ろう? ここが俺たちの住む新しい巣だ。すぐ休もうと言いたいところだけど、結構長い期間放っておいたから。今夜眠れるくらいには、片付けないとね?」

「うん。わかった。手伝うね」

 恐る恐る踏み入れた薄暗い玄関ホールも、広い。そして、驚くのは天井の高さだ。高い天井の吹き抜けに大きなモダンな照明。

 ほとんどの家具には、埃よけの大きな布がかかっていたけれど、それでもわかる品の良い調度が揃っていた。長い期間放って置かれた場所特有の、埃っぽい空気。

 しんとした生活音もない空間に、私たち二人の靴音だけが響く。

「これってどうなのかな~……長期間使わずに放っておいた空調って、そのまま動かしても大丈夫だと思う?」

 春くんは、さっき見つけた大きなリモコンを片手で弄びながら私に問いかけた。

「フィルターを掃除してからの方が、良いかな? 埃溜っているのに動かすと、壊れちゃいそう」

「だよね……仕方ない。そこは明日に掃除するか。透子、大丈夫? 寒くない?」

「うん。大丈夫」

 季節柄、どうしても空調を使わないと過ごせないということもなくて、良かった。私たちは、玄関ホールにあった大きな螺旋階段を昇った。足元にある紺色の絨毯も、ふかふかでいかにも高級そう。

「透子は、奥の一番良い部屋だよ。俺たちも、守りやすいから」

 当たり前のように言われた言葉に、戸惑った。そこは、家の主が使うような部屋ではないだろうか。

「えっと……一番良い部屋を使うのは、理人さんじゃなくて良いの……?」

 リーダーにあたる人じゃなくて良いのかと聞くと、春くんは何を言ってるのかとちょっと呆れた顔をしている。

「いや。絶対に透子の部屋でしょ。多分、前は理人の部屋だったとは思うけど、何も気にしなくて良いよ。俺たちが一番大事なのは、妻の透子で守るべきものなんだ。何よりも大事だから家の一番奥に居て貰うんだよ」

 明け透けに私のことを一番大事だと言う春くんに、顔が熱くなる。今までの人生の中で、異性にこんな風に大事にされたことなんて絶対にないと思う。

「あ、ここだ。今日は、布を掛けていたとしても、どうしても埃っぽいとは思うけど悪いけど我慢して。明日になったら新しい物に変えるから。透子のための荷物も、夜の内には届くと思うよ」

 春くんは私に説明しつつ、奥にあった部屋の大きな扉を開いた。中央に置かれてある、これまた存在感のある大きなベッドに掛けられた埃よけの布を片付けながら私の方を見た。

「うん……春くんは、今からどうするの?」

「俺? 流石に序列が上の二人が戦っている時に、安穏と寝ている訳にはいかないし……掃除でもしていようかな。明日の朝食も作らなきゃいけないから、台所もそれなりに掃除しとくよ」

「……それって……私も手伝っちゃダメなの?」

「うん? でも今……透子は、身体がしんどいんでしょ。俺も一応夫候補になるための授業を受けてたからそういうのも習ってるよ。こういう時には身体を冷やしたり無理をしちゃダメだから……何も気にせずにゆっくりして寝てなよ」

 春くんは優しくそう言うと、扉へと向かった。その軽やかな足取りを見てなんだか不安になる。

「あ、あの……」

 私が声を出すと、春くんは立ち止まって振り向いた。

「ん? 透子。どうかした? この巣はあっちとは全然違ってセキュリティもそれなりだから。俺がちょっとだけ離れていても、問題はないと思うよ」

 彼は大きな栗色の目を細めながら、安心させるように微笑んだ。

「うん……その、こんなの頼むの。なんか恥ずかしいけど……こんなに広い部屋、初めてで。もう少しだけ、私が慣れるまで一緒に居て欲しい」

 初めての場所で心細くなるなんて、子どもみたいでなんだか凄く恥ずかしい。でも、まぎれもない本音だ。

「うわぁ……可愛いなぁ。人間の女の子って、こんなに可愛いものなの?」

「……え?」

「全然良いよ。一緒に居よう?」

 春くんはなんだか感動した様子を見せて、ぽんっと私のベッドの隣に座り自然に腕を回して腰を抱いた。

「うーん、触ったら後で怒られるかなぁ……まぁ、でも透子本人が俺に一緒に居てって言ったから、良いよね?」

 春くん「ね?」と可愛く首を傾げるので、私はまた顔に熱が集まったのを感じた。
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