まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

013不死者

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「ね。それよりさ。なんで、透子が凛太のことを知っているの?」

 春くんはすぐにいつもの可愛い表情に戻って笑うと、首を傾げて私を見つめた。

「確か夫候補を選ぶ時に……居たと思うの。すごく、印象的な人だったから」

 あの時に会った人達は、容姿も判断基準となってしまうのか。顔が整った人ばかりだったけど、凜太さんはそんな中でも群を抜いて垢ぬけた雰囲気だったのでよく覚えている。芸能人と言われれば、確かにと納得してしまった。

「凛太が? へー。あいつ。どんなに可愛い雌の申し込みを受けても落ちないって、他の里でも有名なのに。透子の夫選びには、参加したんだ」

「……春くんはこの人のこと知ってるの?」

「俺は。凜太と同じ紅蓮の里出身だからね。理人と雄吾は、この森のある深青の里出身なんだけど、俺は一人だけ違うんだ~」

 あっけらかんとした物言いにも、言葉に出来ない何かを感じて春くんの栗色の目を覗き込んだ。さっき私に何かを彼は見せてくれようとした、けれどすぐにそれは隠されてしまった。

「透子。それ以上近づいたらキスするよ」

 急に真面目な顔になった春くんに驚いて、私は慌ててクッションに倒れ込んだ。ぽふんと間抜けな音をたてた柔らかくて大きなクッションは、体を支えてくれる。

「おい。春……」

「わかってるって……俺だってきちんと、序列は守るよ……死にたくはないからね」

 雄吾さんの咎めるような低い声に対して、春くんは物騒な物言いで答えた。

「出演している俳優が、知っている奴だと映画ににのめりこめないかな? これと違う映画にする?」

 仰向けに倒れたままだった私の手を優しく引っ張りながら、春くんは明るく言った。


◇◆◇


 私たちが観ていた二時間ほどの映画が終わるのを見計らって、理人さんは静かに言った。

「それでは、巣を移す。深青の里の首都に、僕が以前使っていた昔の巣があるから。そこに移ろう」

「わかりました」

「わかったよ。今から、出発だよね?」

 私は春くんが言った言葉に、驚いた。今の時間は深夜ではないにしろ、もう既に時間的には。さあ今から外出しようと動き出す時間ではないのは、確かだから。

「ああ。迅速に動け。必要な荷物は、まとめてあるな?」

「もっちろん。俺たちの荷物は、後でどうとでもなるから良いにしても、透子の荷物だけは今夜から要るから持って来てね。もう必要な物なら、俺が選別してある」

 準備の良過ぎる春くんの言葉に理人さんは無表情のままで頷くと、戸惑っている私の方に顔を向けた。

「……危険かもしれませんが、透子さんは必ず守ります。信じてもらえますか?」

「はい。三人のこと、信じます。お願いします」

 理人さんの真剣な問いに、私も真剣にそう答えていた。

「……理人。来た」

 雄吾さんの耳が動く。そして間を置かずに、他の二人の獣耳も続いてピクピクと動いていた。今まで見たことのない彼らの動きを見て、私はこくんと息を呑んだ。

「思ったよりも早かったな。わかっている。雄吾、貸せ」

 理人さんは短く呟くとサッと伸ばされた雄吾さんの手に触れ、私の目がどうかなっていなければ理人さんは一瞬で雄吾さんになった。

 何言ってるのと思われるのかもしれないけど、寸分変わらない姿の雄吾さん二人がすぐそこに居る。
 
「透子、めちゃくちゃ驚いてる……初めて見るから、無理もないけど。理人の持っている特殊能力は鏡って言って触れた相手の姿ごと持っている能力をも移し取るんだ……今、ここに世にも恐ろしい不死者が二人出来上がりという訳」

 春くんの揶揄うような声に私が何かを反応している間もなく、雄吾さんの姿をした理人さんだと思われる人は春くんに確認した。

「春。わかっているな?」

「もちろん。俺は予定通りに、動くよ。透子用の荷物は、言われた通りに指定したところに置いている。よろしくね?」

「……ああ。透子さん。短時間なら、春一人が居れば大丈夫だと思いますが……気をつけて」

 私は雄吾さんにしか見えない、元々は理人さんだろう人に何度も頷いた。本当にそっくりで……なんだか、特殊能力って言われても……ここが異世界ってわかっていても嘘みたい。

「じゃあ透子、行こう?」

 差し出された春くんの、大きくて温かな手を取った。ぎゅっと強めに握られた手は、確かな温かさを持って、異世界に来てわからないことばかりの私に安心感を与えてくれる。

「……結構数多い……な? まあ、俺たち相手にもしかしたら勝算があると思うくらいには、金が使える奴らしいな」

「全部を片付けるには、二時間くらいか……」

「りょーかい。それまで透子と二人きりか~……嬉しいな」

 廊下に出る前に、私は部屋に残った二人を振り返った。間違いなく二人は私を狙いに来た誰かを撃退するため、ここに残ったのだと思う。

「あのっ……気をつけて……」

 二人とも同じ顔なのにそれぞれ違う表情だったけど、笑ってくれた。

「さ。二人が敵を引きつけている内に、俺たちはお先に新しい巣に行こう」

「……あの……大丈夫かな?」

 私の心配顔を見て春くんは、からかうように指先で頬を撫でた。

「別に俺はここで透子を奪取するために来た刺客を、あの二人が蹴り散らすところを見てても良いよ? ただ……ちょっと女の子には、刺激が強いかもだけど」

「……ううん! 良い!」

 春くんは慌てた私に肩を竦めて見せて、ふふっと可愛い顔をして笑う。

「だよね? じゃあ、俺とデートしよ?」
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