まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

010覚悟

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 とりあえず、覚悟を決めた私は眠っていた部屋を出ることにした。里の方でいくつか普段着用に用意してもらった服を荷物から出して、丈の長いスカートと長袖のシャツに着替えて三人が待っている居間へと顔を出した。

「……雄吾から、話は聞きましたが……」

「その……透子は、泣いちゃうくらいなんだから、匂いつけが嫌なんだよね? 良いんだよ。別に無理はしなくても……俺たちは結構人狼の中でも強いから。透子一人くらいなら、何があったとしても、守り切れるとは思うし……」

 居間で寛いでいた理人さんと春くんの二人が、慌てて私に言ってくる。それを聞いて小さく首を振った。

「えっと、わかっています。あの、全く見知らぬ人よりかは……私は皆さんの方が良いので……里で夫候補を選んでいる時から、いずれはそういうことになるんだろうって、思っていましたし」

 私の顔は、とても赤くなっていたと思う。

 本人たちを前にとても言い難いことを言うから、つっかえつつ話したけれど、三人は黙って神妙な顔をして話を聞いてくれた。

「……だが……透子さんの気持ちは……」

「大丈夫です。この人狼の世界に来たってことは、いつか……そうなるような運命だったんだって思うようになりました。全員の身の危険と、私一人のわがままを天秤にかけるようなことはしたくないです。それに……結婚したって事は早いか遅いかだし」

 私の決然とした言葉を聞いて、三人は顔を見合わせた。なんだか戸惑っている様子で、どこか納得していない。

 納得して貰おうと更に言葉を重ねようと口を開いた私を、理人さんは待って欲しいと言わんばかりに手で制した。

 端正な顔も少しだけ赤くなっているように見えるのは、気のせいだろうか?

「わかりました。それでは、それで僕らも準備があります。透子さんも、そのつもりで居てくください……雄吾、風呂の準備を」

 今まで無言で黙っていた雄吾さんが部屋を出るために席を立ち、私はほっと息を吐いた。ようやく、どうにかわかって貰えたみたい。

 どこか嘘みたいで……夢の中に居るような不思議な感覚を感じつつ、私は淡々と自分の準備を済ませた。


◇◆◇


 理人さんの部屋は、きっとこの家の中で一番良い部屋なんだと思う。大きな部屋で何畳あるかわからないくらい。それに日当たりも良い。背の高い彼に見合うようなベッドが窓側にあって、そこに彼は静かに座っていた。

「……あの、先にお風呂頂きました」

「……はい」

「理人さんは、入ります?」

 この先に二人でする事に向けて結構な長い間浴室を占領していたので、申し訳ない気持ちになりつつ聞いた。

「他にも浴室があるので、シャワーだけは済ませました。本当に、大丈夫ですか?」

 心配そうな声と、表情だ。私が無理していないかと、この段階になってもすごく心配している。

 彼の言葉に、こくんと頷いた。人狼の世界でこの人達と生きていくために乗り越えなきゃいけないのだ。

 私は決意を込めて、理人さんのすぐ隣に腰掛けた。

 そして二人で、じっと動かなくなってしまう。こういう時って……どうしたら良いの? 通常の場合、男性側がリードしてくれるものなのよね……?

 私は動かない理人さんの方を、横目でチラっと見た。とんでもなく美形の彼の頬がうっすらと赤くなっている。そして、両手は足の上で、ギュッと握りしめているようだ。

 ……もしかして、彼も緊張している?

「あの」

「はい……何か?」

 声自体はとてもしっかりとしていて、緊張しているように聞こえない。けれど、美しい灰色の目と目が合わない。

「その……他の二人は、どこに?」

「……僕が、今から無防備に……なるので、警備を固めるために家の外に居ます」

 そっか、そうだよね。動物でも交尾する時は一番警戒が薄くなるって言うから、そこを狙われないように警備を固めてるのか。

 私は彼の言葉に一人そう納得して、まだ動かない理人さんに言った。

「あの……」

「……はい?」

「しないんですか?」

 いよいよ焦れて、直接的な言葉になってしまった。仕方ないと思う。だって、私は理人さんとそういう事をするからと覚悟を決めたその上で、いろいろと自分なりに準備をしてきた。それなのに、彼が動かないというのもおかしいと思ってしまった。

 理人さんは、それを聞いてますます黙りとしてしてしまった。

 これは良くなかったのかもしれない。こういう事ってお取り扱いが繊細だし、もしかしたら言ってはいけなかったのかもしれないとと思い内心おろおろしてしまう私。

 ひとしきり部屋の中に沈黙があった後、理人さんはやっと話し始めた。

「……その、僕は誰かの夫になるとは……里を出てから、思っていなかったもので」

「はい」

「匂いつけを……出来るとは、考えていなかったんです。ですので、無作法なことをしてしまうかもしれません」

「……あの、ああいうのって……作法とかあるんですか?」

 素朴な疑問だった。この年齢になっているので、男女がどういう事をすれば子どもが出来るのかはわかっている。話を聞く限り上手いか下手かはあるのかなとは……思うけれど。

「わかりません。夫になるような人間には、縁談が決まる前に講習があるんですが……僕はそれを教わる前に深青の里を抜けたので」

「こうしゅう……」

 私は、人狼の世界の常識を聞き、なんだか唖然とした。

 この世界では、いわゆるセックスの仕方をする時の事を教わる講習があるということだろうか? なんというか……すごく恥ずかしくないのかな。

 皆で授業として、あれを教わるの? 嘘?

「えっと……その、そういう映像とかってないんですか?」

「映像、ですか?」

 きょとん、とした顔で理人さんは綺麗な顔で私を見つめた。

「あのっ、私がこういうこと言うのすごく恥ずかしいんですけど! 一人でする時ってどういうものを見てします?」

 もう埒があかないと思って、率直に聞いた私の言葉を聞いて、理人さんの頬が真っ赤に染まった。
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