まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

008説明

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 巣へとようやく辿り着いた私達は、とりあえず家に入り居間の隣にある和室で寛ぐことにした。私はなんとなくそこにあった大きなクッションの上へと座り込み、気が利く春くんがいそいそと冷たいお茶を運んで来てくれた。

「はい。お茶どうぞ」

「ありがとう」

 可愛い笑顔で感じ良く渡してくれるから、私もついついつられて微笑んでしまう。この子は本当に明るくて良い子だなって思った。

 冷たいお茶の喉越しに、さっぱりとした爽快感。そして、大きな安心感。

 この場所は私が元居た世界にある家ではないとは頭ではわかっていても、やっとやっとここに帰って来たという気持ちもあった。

「透子さん」

「あっ……はい」

 理人さんに呼ばれて、彼の声がした方向を見る。すごく真剣な顔をしていて私の気のせいではなかったら、沈着冷静を絵に描いたような彼が今まで見せた事もない程にとても緊張しているように見える。

「これからの事を、説明したいと思います。もし、何か疑問点に思うような事があればその都度聞いて下さい」

「はい」

 すごく真剣な顔になっているので、私も多分そういう顔をして頷いた。

「……匂いつけが完了次第、早急に僕らはこの巣から引っ越すことになります」

「あの、匂いつけって何ですか?」

 私は言われていた通りに、疑問点を早速口にした。その単語が、私には何を意味するか本当にわからなかったから。

 しんと部屋の中が、静まりかえる。不思議に思って見渡すと三人とも、なんとも言えない顔をしていた。

 もしかしたら……何か悪い事を聞いてしまったのかもしれない。隣に居る傍若無人を思わせるようなタイプの春くんでさえも、息を詰めたように黙り込んでる。

 私もこの展開にどうして良いかわからずに、戸惑ってしまった。

「……そうですよね。異世界から来た人間の透子さんには、わからなくて当然でした」

 たっぷりとした間を置いた後に沈黙を破り、理人さんがまた話し出したので私はほっとして小さく息をついた。

「匂いつけというのは、いわゆる……交尾です。貴女に僕たちの匂いをつけるんです。そうすれば、他の雄たちは所有権を主張出来ないので手出ししなくなる。匂いで透子さんは、僕たちの妻という印になります」

「……え」

 私はそれを聞いて、言葉を失った。

 もちろん。夫婦と言われるようになるからには、そういう事も将来あるのかな、なんて漠然と思っていた。確かに思っていたけれど、ここまで早急にその行為が必要になるとは思っていなかった。

「……もちろん。もし、そういった事を透子さんが嫌がるようなら、そのままでも僕たちは構いません。ですが、そうなると危険度は飛躍的に増すことになるとは思います。所有権が確定されていない雌は……その」

 何かを言い淀むように、理人さんは言葉を止めた。

「間違いなく、陵辱の対象になる」

 彼の言葉を引き継ぐように、雄吾さんの低い声が部屋に響いた。余り言葉を発さない彼だからこそ、なんだか言葉に重みがあるような、そんな気がした。

「もちろん、そんなことにならないように僕達が全力で守ります」

「そうだよ! 雄吾。透子をわざわざ怯えさせるようなこを、ここで言わなくても……」

 理人さんと春くんは、私の表情が固くなったのを見て取ってか、慌てたように言葉を重ねた。

「なんでだよ。それは本当のことだろう。むしろ、結婚したというのにわがままを許そうとするお前たちが俺にはわからない。この年齢まで、他の雄の匂いのない、まっさらな人間の女なんて日本では天然記念物ものだ。間違いなく、狙う奴らも命懸けで来る……希少価値の高い珍しい存在のお姫様のわがままを聞いて、わざわざ命を賭けるなんてごめんだ」

 取りなすように理人さんと春くんの二人は庇ってくれるけれど、雄吾さんだけは断固たる主張だ。確かに里の施設でも、散々言われた事だ。人間の女の子は希少価値が高くて、誰もがお嫁さんにしたいと思っている。

 だから、あれだけの求婚者が現れたのだとわかっている。けれど、私が処女のままでいることが、彼らの命の危険にも関わるなんて……思いもしなかった。

「わかりました」

 彼らの決着点の見えない言い合いを遮るように、私はもうなんだかやぶれかぶれになってそう言った。

 人狼で鼻のきく彼らには、私が処女だってことは匂いですぐにバレてしまっているようだ。何度か言われた「まっさらの女の子」って、そういう意味だったんだ。

 もし……彼らが最初に私を害する事を目的にしていたなら、出会った時に森の中で犯されて殺されていたことも考えられる。

 私がここで恥ずかしがって時期を待って欲しいだの、そんな事を言い出すようなら。私や彼ら三人が危険な目に遭ってしまうかもしれない。

 結婚はしてしまったのだから。いずれするのなら、今してもいつしても同じような気もする。

 了承の言葉を聞いた三人は、揃ってほっと息を吐いた。私がこの場で許されているからとわがままを言ってしまうと近い未来にあまり良くない事態にはなるのだろう。

「俺たち人狼には、序列があるから。透子とするのは、理人雄吾俺の順番になるんだよ」

「春。ここで、余計なことを言うな」

 理人さんは春くんに、対して眉を寄せて言った。

「なんでだよ。理人、必要なことだろう」

「……僕たちは、もっと透子さんの気持ちを考えてあげるべきだと思う。それが異世界からこちらに突然やって来て、この人狼の世界のルールに従わざるを得ない彼女へのせめてもの配慮だろう」

 理人さんが言ってくれた私を気遣う優しい言葉に、片目から涙がぽろりとこぼれた。

「わ! 透子! 透子っ……」

「良いから、騒ぐな。春」

 それを見て慌てた春くんと、それを押し留める雄吾さんの声がした。

「……大丈夫ですか?」

 そっと頬に流れた涙を指でぬぐってくれる理人さんの色素の薄い灰色の目はとても優しくて。
 ゆっくり抱きしめてくれる腕が私を包み額を当てた胸は大きくて、思わずわんわん泣いてしまった。

 この人を、この人たちを選んだことは、この先に絶対に後悔したくないって、そう思った。
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