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第一部
007お迎え
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「透子!」
「春くん」
大きな音を立てて私の私室として与えられていた部屋のドアを開き、入ってくるなり私に飛びつこうとした春くんは、すかさず後ろに居た雄吾さんに首を掴まれて、ぐえっと変な声を出した。
「……迎えに来ました」
涙目になった春くんと叱るような目つきの雄吾さんの二人の脇をするりと通り抜け、理人さんが椅子に座ったままだった私の前に跪いて、手を差し出した。
綺麗で大きな、温かい手。優しい手を取りながら、彼の灰色の目を見てなんだか私は泣きそうになってしまった。
「……ごめんなさい」
「なんで、謝るんですか」
理人さんは、あくまで優しい口調だ。彼は出会った時から、ずっと優しい。
「……貴方達が困るんじゃないかと、思いました」
私は唇を震わせて、俯いた。それを聞いた理人さんは軽く目を見開き肩を竦めて、微笑んだ。
「いいえ……まったく困りませんよ。まさか僕たちが、こんなに可愛い妻を得ることになるとは……さっきまで思っていませんでしたが」
さらっと理人さんは、私を可愛いと言った。それを聞いて、なんだか顔が赤くなったと思う。どれだけ記憶の中をさらったとしても、こんな美形の人に褒められたことなどはない。無性に、恥ずかしくなってしまった。
「理人、わかっているな」
飛鳥さんは私の前で見せる優しい表情ではなく、厳めしい顔付きで理人さんに向かって言った。
「勿論です。族長。覚悟の上でこちらに来ました」
私には良く理解できない言葉でも、彼らの中では通じ合っているらしい。
「他でもないお前達が彼女を守れないとは、思わない……だが、珍しくも美しい若い人間の女の子だ。他の里には絶対に、奪われないように細心の注意を払え」
「肝に銘じます」
理人さんは飛鳥さんに命じられるままに、静かに答えた。さりげなく彼は私の前に立ちその大きな背中に庇われるかたちになる。
その時にやっと、ほっと安心して息がつけた。そして、彼らと離れてから自分がどれだけ心細かったかが良くわかった。
「……理人、雄吾、春。妻を貰う上ですべきことは、理解しているな? 今までのような根無し草のような身軽な独身のままでは、居られないってことだ……お前たちが持つ特殊能力を持って定職に就き、彼女を全力で守れ。別に失敗してもお前達の後釜は、いくらでも居る。それが嫌ならば、すべきことはわかっているはずだ」
「族長。言われずとも。僕たち三人は覚悟を持って、今彼女を迎えに来ています」
なんだか理人さんと飛鳥さん、二人の視線の間に火花が散ったように見えた。私のことだけじゃない、二人の中には何かがあるような気がした。
「透子さん」
おろむろに振り向いた理人さんから名前を呼ばれて、私はすごく慌てた。
「は! はい」
「とりあえず、一度巣に戻ります。そこでこれからのことを話することにします……それでは、行きましょう」
私は理人さんの大きな手を握られ、仏頂面になっている雄吾さんに捕えられてジタバタしている春くんの二人の元に向かった。
「あ、あの! ありがとうございました」
ここに居る間、沢山良くして貰ったのにお別れを言っていない事に気がつき、慌ててお礼を言うと、泰志さんは生真面目な表情で会釈を返してくれ、飛鳥さんは軽く手を振って優しく笑った。
「透子さんの今後に、幸あらんことを」
◇◆◇
「透子! また会えて、本当にすごく嬉しいよ」
春くんは理人さんと繋いでいる方と逆の左手を取って、大きく振って可愛い顔でにこにこと明るく笑った。
「私も嬉しい。迎えに来てくれて……ありがとう。このまま、どうなることかと思ってた」
「うん。俺も別れてからずっと、透子のこと想っていたよ。もうこのまま、二度と会えないんだと思ってたのに……こうして会えて本当に嬉しいよ」
「ふふ。ありがとう。私も、春くんに会えて嬉しい」
春くんは、とても可愛い。それに、一緒に居て心が和む。
「おい。また、巣まで歩くのか。俺たちはもう、彼女の夫なんだろう?」
「ああ……そうだな」
雄吾さんの不機嫌そうな低い声に、理人さんは少しだけ考え込んだ様子だった。
「透子さん。もう、既に僕は戸籍上君の夫だ……その体に触れて、抱き上げても良いかな?」
少し顔を赤くしながら許可を取る美形の彼に、私は意外に思いながら呆気に取られつつもこくこくと頷いた。
幸い里で用意されていた服は、丈の長いロングスカートが多い。抱き上げられても、下着が見えることはないだろう。
理人さんは軽々と私を横抱きに抱き上げると、一瞬だけ優しく耳元で囁いた。
「最初は怖いかもしれないから、目を閉じてて」
「え? え、きゃ!」
私はいきなりの加速に驚き、思わず目を閉じた。でも、それでもなんとなく体感で、物凄い速度で移動していることはわかった。
それが、いきなり急停止して、優しい声がまた囁いた。
「はい。着いたよ」
私はなんだか、ほっとして息をついた。この世界に着いてから最初の夜を過ごした日本家屋、そこに辿り着いたから。
「春くん」
大きな音を立てて私の私室として与えられていた部屋のドアを開き、入ってくるなり私に飛びつこうとした春くんは、すかさず後ろに居た雄吾さんに首を掴まれて、ぐえっと変な声を出した。
「……迎えに来ました」
涙目になった春くんと叱るような目つきの雄吾さんの二人の脇をするりと通り抜け、理人さんが椅子に座ったままだった私の前に跪いて、手を差し出した。
綺麗で大きな、温かい手。優しい手を取りながら、彼の灰色の目を見てなんだか私は泣きそうになってしまった。
「……ごめんなさい」
「なんで、謝るんですか」
理人さんは、あくまで優しい口調だ。彼は出会った時から、ずっと優しい。
「……貴方達が困るんじゃないかと、思いました」
私は唇を震わせて、俯いた。それを聞いた理人さんは軽く目を見開き肩を竦めて、微笑んだ。
「いいえ……まったく困りませんよ。まさか僕たちが、こんなに可愛い妻を得ることになるとは……さっきまで思っていませんでしたが」
さらっと理人さんは、私を可愛いと言った。それを聞いて、なんだか顔が赤くなったと思う。どれだけ記憶の中をさらったとしても、こんな美形の人に褒められたことなどはない。無性に、恥ずかしくなってしまった。
「理人、わかっているな」
飛鳥さんは私の前で見せる優しい表情ではなく、厳めしい顔付きで理人さんに向かって言った。
「勿論です。族長。覚悟の上でこちらに来ました」
私には良く理解できない言葉でも、彼らの中では通じ合っているらしい。
「他でもないお前達が彼女を守れないとは、思わない……だが、珍しくも美しい若い人間の女の子だ。他の里には絶対に、奪われないように細心の注意を払え」
「肝に銘じます」
理人さんは飛鳥さんに命じられるままに、静かに答えた。さりげなく彼は私の前に立ちその大きな背中に庇われるかたちになる。
その時にやっと、ほっと安心して息がつけた。そして、彼らと離れてから自分がどれだけ心細かったかが良くわかった。
「……理人、雄吾、春。妻を貰う上ですべきことは、理解しているな? 今までのような根無し草のような身軽な独身のままでは、居られないってことだ……お前たちが持つ特殊能力を持って定職に就き、彼女を全力で守れ。別に失敗してもお前達の後釜は、いくらでも居る。それが嫌ならば、すべきことはわかっているはずだ」
「族長。言われずとも。僕たち三人は覚悟を持って、今彼女を迎えに来ています」
なんだか理人さんと飛鳥さん、二人の視線の間に火花が散ったように見えた。私のことだけじゃない、二人の中には何かがあるような気がした。
「透子さん」
おろむろに振り向いた理人さんから名前を呼ばれて、私はすごく慌てた。
「は! はい」
「とりあえず、一度巣に戻ります。そこでこれからのことを話することにします……それでは、行きましょう」
私は理人さんの大きな手を握られ、仏頂面になっている雄吾さんに捕えられてジタバタしている春くんの二人の元に向かった。
「あ、あの! ありがとうございました」
ここに居る間、沢山良くして貰ったのにお別れを言っていない事に気がつき、慌ててお礼を言うと、泰志さんは生真面目な表情で会釈を返してくれ、飛鳥さんは軽く手を振って優しく笑った。
「透子さんの今後に、幸あらんことを」
◇◆◇
「透子! また会えて、本当にすごく嬉しいよ」
春くんは理人さんと繋いでいる方と逆の左手を取って、大きく振って可愛い顔でにこにこと明るく笑った。
「私も嬉しい。迎えに来てくれて……ありがとう。このまま、どうなることかと思ってた」
「うん。俺も別れてからずっと、透子のこと想っていたよ。もうこのまま、二度と会えないんだと思ってたのに……こうして会えて本当に嬉しいよ」
「ふふ。ありがとう。私も、春くんに会えて嬉しい」
春くんは、とても可愛い。それに、一緒に居て心が和む。
「おい。また、巣まで歩くのか。俺たちはもう、彼女の夫なんだろう?」
「ああ……そうだな」
雄吾さんの不機嫌そうな低い声に、理人さんは少しだけ考え込んだ様子だった。
「透子さん。もう、既に僕は戸籍上君の夫だ……その体に触れて、抱き上げても良いかな?」
少し顔を赤くしながら許可を取る美形の彼に、私は意外に思いながら呆気に取られつつもこくこくと頷いた。
幸い里で用意されていた服は、丈の長いロングスカートが多い。抱き上げられても、下着が見えることはないだろう。
理人さんは軽々と私を横抱きに抱き上げると、一瞬だけ優しく耳元で囁いた。
「最初は怖いかもしれないから、目を閉じてて」
「え? え、きゃ!」
私はいきなりの加速に驚き、思わず目を閉じた。でも、それでもなんとなく体感で、物凄い速度で移動していることはわかった。
それが、いきなり急停止して、優しい声がまた囁いた。
「はい。着いたよ」
私はなんだか、ほっとして息をついた。この世界に着いてから最初の夜を過ごした日本家屋、そこに辿り着いたから。
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