まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
7 / 151
第一部

007お迎え

しおりを挟む
「透子!」

「春くん」

 大きな音を立てて私の私室として与えられていた部屋のドアを開き、入ってくるなり私に飛びつこうとした春くんは、すかさず後ろに居た雄吾さんに首を掴まれて、ぐえっと変な声を出した。

「……迎えに来ました」

 涙目になった春くんと叱るような目つきの雄吾さんの二人の脇をするりと通り抜け、理人さんが椅子に座ったままだった私の前に跪いて、手を差し出した。

 綺麗で大きな、温かい手。優しい手を取りながら、彼の灰色の目を見てなんだか私は泣きそうになってしまった。

「……ごめんなさい」

「なんで、謝るんですか」

 理人さんは、あくまで優しい口調だ。彼は出会った時から、ずっと優しい。

「……貴方達が困るんじゃないかと、思いました」

 私は唇を震わせて、俯いた。それを聞いた理人さんは軽く目を見開き肩を竦めて、微笑んだ。

「いいえ……まったく困りませんよ。まさか僕たちが、こんなに可愛い妻を得ることになるとは……さっきまで思っていませんでしたが」

 さらっと理人さんは、私を可愛いと言った。それを聞いて、なんだか顔が赤くなったと思う。どれだけ記憶の中をさらったとしても、こんな美形の人に褒められたことなどはない。無性に、恥ずかしくなってしまった。

「理人、わかっているな」

 飛鳥さんは私の前で見せる優しい表情ではなく、厳めしい顔付きで理人さんに向かって言った。

「勿論です。族長。覚悟の上でこちらに来ました」

 私には良く理解できない言葉でも、彼らの中では通じ合っているらしい。

「他でもないお前達が彼女を守れないとは、思わない……だが、珍しくも美しい若い人間の女の子だ。他の里には絶対に、奪われないように細心の注意を払え」

「肝に銘じます」

 理人さんは飛鳥さんに命じられるままに、静かに答えた。さりげなく彼は私の前に立ちその大きな背中に庇われるかたちになる。

 その時にやっと、ほっと安心して息がつけた。そして、彼らと離れてから自分がどれだけ心細かったかが良くわかった。

「……理人、雄吾、春。妻を貰う上ですべきことは、理解しているな? 今までのような根無し草のような身軽な独身のままでは、居られないってことだ……お前たちが持つ特殊能力を持って定職に就き、彼女を全力で守れ。別に失敗してもお前達の後釜は、いくらでも居る。それが嫌ならば、すべきことはわかっているはずだ」

「族長。言われずとも。僕たち三人は覚悟を持って、今彼女を迎えに来ています」

 なんだか理人さんと飛鳥さん、二人の視線の間に火花が散ったように見えた。私のことだけじゃない、二人の中には何かがあるような気がした。

「透子さん」

 おろむろに振り向いた理人さんから名前を呼ばれて、私はすごく慌てた。

「は! はい」

「とりあえず、一度巣に戻ります。そこでこれからのことを話することにします……それでは、行きましょう」

 私は理人さんの大きな手を握られ、仏頂面になっている雄吾さんに捕えられてジタバタしている春くんの二人の元に向かった。

「あ、あの! ありがとうございました」

 ここに居る間、沢山良くして貰ったのにお別れを言っていない事に気がつき、慌ててお礼を言うと、泰志さんは生真面目な表情で会釈を返してくれ、飛鳥さんは軽く手を振って優しく笑った。

「透子さんの今後に、幸あらんことを」


◇◆◇


「透子! また会えて、本当にすごく嬉しいよ」

 春くんは理人さんと繋いでいる方と逆の左手を取って、大きく振って可愛い顔でにこにこと明るく笑った。

「私も嬉しい。迎えに来てくれて……ありがとう。このまま、どうなることかと思ってた」

「うん。俺も別れてからずっと、透子のこと想っていたよ。もうこのまま、二度と会えないんだと思ってたのに……こうして会えて本当に嬉しいよ」

「ふふ。ありがとう。私も、春くんに会えて嬉しい」

 春くんは、とても可愛い。それに、一緒に居て心が和む。

「おい。また、巣まで歩くのか。俺たちはもう、彼女の夫なんだろう?」

「ああ……そうだな」

 雄吾さんの不機嫌そうな低い声に、理人さんは少しだけ考え込んだ様子だった。

「透子さん。もう、既に僕は戸籍上君の夫だ……その体に触れて、抱き上げても良いかな?」

 少し顔を赤くしながら許可を取る美形の彼に、私は意外に思いながら呆気に取られつつもこくこくと頷いた。

 幸い里で用意されていた服は、丈の長いロングスカートが多い。抱き上げられても、下着が見えることはないだろう。

 理人さんは軽々と私を横抱きに抱き上げると、一瞬だけ優しく耳元で囁いた。

「最初は怖いかもしれないから、目を閉じてて」

「え? え、きゃ!」

 私はいきなりの加速に驚き、思わず目を閉じた。でも、それでもなんとなく体感で、物凄い速度で移動していることはわかった。

 それが、いきなり急停止して、優しい声がまた囁いた。

「はい。着いたよ」

 私はなんだか、ほっとして息をついた。この世界に着いてから最初の夜を過ごした日本家屋、そこに辿り着いたから。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...