6 / 151
第一部
006夫選び
しおりを挟む
近い内と飛鳥さんは言っていたけれど、そんな間も許されなかった。翌日から、夫候補との怒濤の面会ラッシュがはじまってしまった。
勘違いでなければ……見目が良くて、この日本でも社会的な地位がとても高いエリート達が集められた様子だった。山のような目の飛び出るような経歴の書かれた釣書が届き、私はその中から、なんとか気になった人を選び出してすぐに面会。
最初にここにまで案内してくれた中年の男性は、自己紹介をしてくれて泰志さんと名乗ってくれた。あれから何日か経って、泰志さんは秘書のように甲斐甲斐しく私の世話をしてくれる。
特に知りたがった訳ではないんだけど聞いたところによると私と年齢も釣り合わない上に彼はもう既に既婚者であり、夫候補とはならないというのも考慮に入れられての抜擢らしい。
それと、この日本では厳密に言うと苗字というものはなくて、〇〇の里の透子、というように育った地域で個別に名乗るらしい。こんなにたくさんの人狼が居るんだから、同名の人が居たらどうするんだろうという疑問はあったけれど、その時になればわかりますと言葉を濁された。
「あの」
夫選びがはじまって、五日目になった朝、私は意を決して泰志さんに言った。これまでにもう何十人にも会った上での言いたいことだ。
「何ですか。透子さん」
次に控えている人狼たちの釣書の束を、どさりと音をさせて私の前に置くと泰志さんは首を傾げながら不思議そうにそう言った。
「あの……私がこの日本に来て最初に会った、三人って……候補にはならないんですか?」
泰志さんは、それを聞いて目を見開いた。そんなにおかしいこを……言っただろうか? あの三人だって、見目も良く私との年齢の釣り合いも取れているし優秀そうな様子ではあった。何故あんな山奥で居るのかを、わからなくなってしまう程に。
「……彼らは……透子さんの夫候補には、相応しくありませんので」
「え? えっと……どういう事ですか?」
「彼らは、はぐれ狼なんです……今では確たる後ろ盾もなく、どんな縁でも望む事の出来る貴女にはとても釣り合いません」
「……それを決めるのは、泰志さんじゃないですよね?」
私はそれを聞いた上で、強めの口調で言った。そう。飛鳥さんだって、夫を選ぶ選択権は、他でもない私にあるって、そう言ったはずだ。
「……彼らも、わざわざ負け試合になるのに。応募なんか、してきませんよ。貴女はどんな人狼でも選べるほどに引く手数多で、遠方の里からも最高位の雄の夫候補たちが続々と名乗りを上げている……何か不満でも?」
宥めるような口調で話す泰志さんに、彼ら三人をどこかバカにしているみたいに聞こえた私は我慢出来なくて強い視線で彼を見た。
「……正直に言うと、違う世界から来た私には……どんな素敵な人が集まってくれて誰を選んでも良いと言われても、誰だって一緒です。それなら、私が選べるのなら……最初に会って保護して優しくしてくれた、あの三人が良い。夫を選ぶ選択権は私にあるって、そう言いましたよね? なら……選びたいんです」
「透子さんは、あの三人が良いんですね?」
いきなり、誰かがいるような気配もなく、ドアの方から声がした。そこには何の含みもない、朗らかで優しそうな笑みを浮かべた飛鳥さんが居た。
「族長……しかし」
泰志さんは、飛鳥さんのいいように戸惑っているようだった。
「……確かに、彼女の言うように選択権は彼女のものだ。力が強い雄……というのなら、奴らにも、確かに当てはまるだろう……だが、問題は強過ぎる、ということか」
「族長」
どこか途方に暮れたような声を出す泰志さんを片手で制し、族長の飛鳥さんは確固たる意志を見せる私に向き直った。
「透子さん。貴女がそうして望むのなら、彼ら三人は貴女の夫になります……彼らは、貴女が望んだと聞けば、拒否はしないでしょう。それは間違いない。しかし、夫となり家族となるのなら、彼ら三人の問題に貴女も否応なく巻き込まれることになる。それについては、問題ありませんか?」
飛鳥さんの確認に対して、私はあの三人がすぐに迎えに来てくれるのなら、もうなんでも受け入れるという気持ちがあった。
沢山の人に会って選ぶのに疲れていたし……あの三人以上の人は見つけられそうにない。大分疲れていたし、その事を心のどこかで悟っていた私は、静かにこくんと頷いた。
なんでも良いから。あの三人の居る日本家屋の温かな居間に、早く戻りたかった。
「わかりました。それでは、すぐに手配しましょう。彼ら三人に透子さんを迎えに来るように連絡致します……まあ、飛んでくるでしょうがね。もうそれで、宜しいですね?」
「はい」
この時に、私は彼らを選んだ。彼らと過ごしたのはほんの一時だ。誰かが聞けばそんなことで、と思われるかもしれない。
けれど、私は確かに自らの意思で、彼らを選んだんだ。
勘違いでなければ……見目が良くて、この日本でも社会的な地位がとても高いエリート達が集められた様子だった。山のような目の飛び出るような経歴の書かれた釣書が届き、私はその中から、なんとか気になった人を選び出してすぐに面会。
最初にここにまで案内してくれた中年の男性は、自己紹介をしてくれて泰志さんと名乗ってくれた。あれから何日か経って、泰志さんは秘書のように甲斐甲斐しく私の世話をしてくれる。
特に知りたがった訳ではないんだけど聞いたところによると私と年齢も釣り合わない上に彼はもう既に既婚者であり、夫候補とはならないというのも考慮に入れられての抜擢らしい。
それと、この日本では厳密に言うと苗字というものはなくて、〇〇の里の透子、というように育った地域で個別に名乗るらしい。こんなにたくさんの人狼が居るんだから、同名の人が居たらどうするんだろうという疑問はあったけれど、その時になればわかりますと言葉を濁された。
「あの」
夫選びがはじまって、五日目になった朝、私は意を決して泰志さんに言った。これまでにもう何十人にも会った上での言いたいことだ。
「何ですか。透子さん」
次に控えている人狼たちの釣書の束を、どさりと音をさせて私の前に置くと泰志さんは首を傾げながら不思議そうにそう言った。
「あの……私がこの日本に来て最初に会った、三人って……候補にはならないんですか?」
泰志さんは、それを聞いて目を見開いた。そんなにおかしいこを……言っただろうか? あの三人だって、見目も良く私との年齢の釣り合いも取れているし優秀そうな様子ではあった。何故あんな山奥で居るのかを、わからなくなってしまう程に。
「……彼らは……透子さんの夫候補には、相応しくありませんので」
「え? えっと……どういう事ですか?」
「彼らは、はぐれ狼なんです……今では確たる後ろ盾もなく、どんな縁でも望む事の出来る貴女にはとても釣り合いません」
「……それを決めるのは、泰志さんじゃないですよね?」
私はそれを聞いた上で、強めの口調で言った。そう。飛鳥さんだって、夫を選ぶ選択権は、他でもない私にあるって、そう言ったはずだ。
「……彼らも、わざわざ負け試合になるのに。応募なんか、してきませんよ。貴女はどんな人狼でも選べるほどに引く手数多で、遠方の里からも最高位の雄の夫候補たちが続々と名乗りを上げている……何か不満でも?」
宥めるような口調で話す泰志さんに、彼ら三人をどこかバカにしているみたいに聞こえた私は我慢出来なくて強い視線で彼を見た。
「……正直に言うと、違う世界から来た私には……どんな素敵な人が集まってくれて誰を選んでも良いと言われても、誰だって一緒です。それなら、私が選べるのなら……最初に会って保護して優しくしてくれた、あの三人が良い。夫を選ぶ選択権は私にあるって、そう言いましたよね? なら……選びたいんです」
「透子さんは、あの三人が良いんですね?」
いきなり、誰かがいるような気配もなく、ドアの方から声がした。そこには何の含みもない、朗らかで優しそうな笑みを浮かべた飛鳥さんが居た。
「族長……しかし」
泰志さんは、飛鳥さんのいいように戸惑っているようだった。
「……確かに、彼女の言うように選択権は彼女のものだ。力が強い雄……というのなら、奴らにも、確かに当てはまるだろう……だが、問題は強過ぎる、ということか」
「族長」
どこか途方に暮れたような声を出す泰志さんを片手で制し、族長の飛鳥さんは確固たる意志を見せる私に向き直った。
「透子さん。貴女がそうして望むのなら、彼ら三人は貴女の夫になります……彼らは、貴女が望んだと聞けば、拒否はしないでしょう。それは間違いない。しかし、夫となり家族となるのなら、彼ら三人の問題に貴女も否応なく巻き込まれることになる。それについては、問題ありませんか?」
飛鳥さんの確認に対して、私はあの三人がすぐに迎えに来てくれるのなら、もうなんでも受け入れるという気持ちがあった。
沢山の人に会って選ぶのに疲れていたし……あの三人以上の人は見つけられそうにない。大分疲れていたし、その事を心のどこかで悟っていた私は、静かにこくんと頷いた。
なんでも良いから。あの三人の居る日本家屋の温かな居間に、早く戻りたかった。
「わかりました。それでは、すぐに手配しましょう。彼ら三人に透子さんを迎えに来るように連絡致します……まあ、飛んでくるでしょうがね。もうそれで、宜しいですね?」
「はい」
この時に、私は彼らを選んだ。彼らと過ごしたのはほんの一時だ。誰かが聞けばそんなことで、と思われるかもしれない。
けれど、私は確かに自らの意思で、彼らを選んだんだ。
51
お気に入りに追加
1,903
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜
月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。
ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。
そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。
すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。
茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。
そこへ現れたのは三人の青年だった。
行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。
そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。
――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる