まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

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第一部

006夫選び

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 近い内と飛鳥さんは言っていたけれど、そんな間も許されなかった。翌日から、夫候補との怒濤の面会ラッシュがはじまってしまった。

 勘違いでなければ……見目が良くて、この日本でも社会的な地位がとても高いエリート達が集められた様子だった。山のような目の飛び出るような経歴の書かれた釣書が届き、私はその中から、なんとか気になった人を選び出してすぐに面会。

 最初にここにまで案内してくれた中年の男性は、自己紹介をしてくれて泰志さんと名乗ってくれた。あれから何日か経って、泰志さんは秘書のように甲斐甲斐しく私の世話をしてくれる。

 特に知りたがった訳ではないんだけど聞いたところによると私と年齢も釣り合わない上に彼はもう既に既婚者であり、夫候補とはならないというのも考慮に入れられての抜擢らしい。

 それと、この日本では厳密に言うと苗字というものはなくて、〇〇の里の透子、というように育った地域で個別に名乗るらしい。こんなにたくさんの人狼が居るんだから、同名の人が居たらどうするんだろうという疑問はあったけれど、その時になればわかりますと言葉を濁された。

「あの」

 夫選びがはじまって、五日目になった朝、私は意を決して泰志さんに言った。これまでにもう何十人にも会った上での言いたいことだ。

「何ですか。透子さん」

 次に控えている人狼たちの釣書の束を、どさりと音をさせて私の前に置くと泰志さんは首を傾げながら不思議そうにそう言った。

「あの……私がこの日本に来て最初に会った、三人って……候補にはならないんですか?」

 泰志さんは、それを聞いて目を見開いた。そんなにおかしいこを……言っただろうか? あの三人だって、見目も良く私との年齢の釣り合いも取れているし優秀そうな様子ではあった。何故あんな山奥で居るのかを、わからなくなってしまう程に。

「……彼らは……透子さんの夫候補には、相応しくありませんので」

「え? えっと……どういう事ですか?」

「彼らは、はぐれ狼なんです……今では確たる後ろ盾もなく、どんな縁でも望む事の出来る貴女にはとても釣り合いません」

「……それを決めるのは、泰志さんじゃないですよね?」

 私はそれを聞いた上で、強めの口調で言った。そう。飛鳥さんだって、夫を選ぶ選択権は、他でもない私にあるって、そう言ったはずだ。

「……彼らも、わざわざ負け試合になるのに。応募なんか、してきませんよ。貴女はどんな人狼でも選べるほどに引く手数多で、遠方の里からも最高位の雄の夫候補たちが続々と名乗りを上げている……何か不満でも?」

 宥めるような口調で話す泰志さんに、彼ら三人をどこかバカにしているみたいに聞こえた私は我慢出来なくて強い視線で彼を見た。

「……正直に言うと、違う世界から来た私には……どんな素敵な人が集まってくれて誰を選んでも良いと言われても、誰だって一緒です。それなら、私が選べるのなら……最初に会って保護して優しくしてくれた、あの三人が良い。夫を選ぶ選択権は私にあるって、そう言いましたよね? なら……選びたいんです」

「透子さんは、あの三人が良いんですね?」

 いきなり、誰かがいるような気配もなく、ドアの方から声がした。そこには何の含みもない、朗らかで優しそうな笑みを浮かべた飛鳥さんが居た。

「族長……しかし」

 泰志さんは、飛鳥さんのいいように戸惑っているようだった。

「……確かに、彼女の言うように選択権は彼女のものだ。力が強い雄……というのなら、奴らにも、確かに当てはまるだろう……だが、問題は強過ぎる、ということか」

「族長」

 どこか途方に暮れたような声を出す泰志さんを片手で制し、族長の飛鳥さんは確固たる意志を見せる私に向き直った。

「透子さん。貴女がそうして望むのなら、彼ら三人は貴女の夫になります……彼らは、貴女が望んだと聞けば、拒否はしないでしょう。それは間違いない。しかし、夫となり家族となるのなら、彼ら三人の問題に貴女も否応なく巻き込まれることになる。それについては、問題ありませんか?」


 飛鳥さんの確認に対して、私はあの三人がすぐに迎えに来てくれるのなら、もうなんでも受け入れるという気持ちがあった。

 沢山の人に会って選ぶのに疲れていたし……あの三人以上の人は見つけられそうにない。大分疲れていたし、その事を心のどこかで悟っていた私は、静かにこくんと頷いた。

 なんでも良いから。あの三人の居る日本家屋の温かな居間に、早く戻りたかった。

「わかりました。それでは、すぐに手配しましょう。彼ら三人に透子さんを迎えに来るように連絡致します……まあ、飛んでくるでしょうがね。もうそれで、宜しいですね?」

「はい」

 この時に、私は彼らを選んだ。彼らと過ごしたのはほんの一時だ。誰かが聞けばそんなことで、と思われるかもしれない。

 けれど、私は確かに自らの意思で、彼らを選んだんだ。
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