まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え~もふもふ人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
3 / 151
第一部

003一夜

しおりを挟む
「あの、お風呂。お借りしました」

 お風呂を借りてさっぱりした私は居間として使っているあろう、食卓が並べられた部屋に戻って言った。

 そんな私を何気なく確認した彼らは、何故か三人とも大きな獣耳をビクッとさせ引き戸を開いて部屋に入ったばかりの私に視線を向けた。彼らは食卓ではなく、すぐ隣の和室の畳の上で各々思い思いの恰好をして寛いでいたようだった。

「ああ、すぐに寝床を用意しよう」

 理人さんが素早く立ち上がり、そんな彼に慌てて私は言った。

 空腹を訴えるためにお腹がくぅくぅ鳴っているのを、彼らに気が付かれないように少しだけ大きめの声で。

「あの」

「……何ですか?」

 理人さんは首を傾げて、不思議そうにしている。そんな美形の彼にはとても言いづらいけれど、仕方ない。自分の身体が発する本能の訴えを口にした。

「……ごめんなさい。実は私……お昼から何も食べていなくて。申し訳ないんですけど……もし、良かったら何かいただけませんか?」

 恥ずかしかったけれど、文字通り背に腹はかえられない。彼はそれに思い至らなかった自分を恥じるように少し俯くと謝ってくれた。

「時間が遅いので済ませているものかと、思い込んでいた。気が利かなくて、申し訳ない……春。今日の夕食の残り物が、あっただろう」

「うん。すぐに用意するから、ちょっとだけ待っててね~」

 にかっと大きな口で笑って、春くんが立ち上がった。

「ありがとうございます。それと着替えの服も、お借りして。ありがとうございます」

 私はほっとして理人さんを見つめた。彼は、そんな私から目を逸らしつつ、足元を指さした。

「とても聞きづらいんですが……ズボンは、履かないんですか?」

「サイズが合わなくて……どうやっても、ずり落ちるので諦めました。でも、このTシャツが大きめなので、かなり隠れていますし、大丈夫です。新品ですよね? また購入してお返ししますね」

「いや! それは別に構わないけれど、貴女の足が……見えてる……」

 目を逸らしながら、理人さんも顔はすこし赤くなっている。

 確かに私の足は見えているけれど、膝上より若干上くらいになる丈だ。私としては、それほど問題に感じなかった。

 私が住んでいるのは都会だし、最近の流行からもっと短いスカートを日常的に履いたりしていたので、すっかり麻痺していた。けれど、山で暮らしているような彼らの前では、この格好はあまり良くなかったかもしれない。

「ごめんなさい。なんとかして、履いてきますね」

「……すみません。お願いします」

 まだ目を逸らしている理人さんに一度頭を下げてから、私はパタパタとスリッパの音をさせて今辿って来たばかりの廊下を戻った。


◇◆◇


「足、めちゃくちゃ細くて白くて……可愛かったなー。湯上りでほっぺも赤くて……可愛かった……女の子って、なんかあんなに柔らかそうなんだなぁ」

 なんとかウエストをぎゅうっと縛ったズボンを履き、不格好だけれど一応は人前へに出られる格好で、私が居間へと戻った時に春くんのそんな明るい声が聞こえた。

「……春。手に届かないものを、欲しがるのは良くない。俺たち、はぐれ狼が彼女の夫になるなど、ない。可能性はゼロだ。彼女は里で最高の雄たちを候補にして選んだ後に、そこで生きていくんだ」

 低くて響きの良い、雄吾さんの声だ。そこで生きていく? どういうこと?

「あのっ、」

 ガラッと音をさせ彼らの寛いでいた居間へと続く引き戸を開けた私に、また注目が集まる。

「あ、もうご飯温まってるよー。準備も出来てる」

 明るい声で、春くんは言った。理人さんも雄吾さんの二人も私に軽く一度会釈だけをして、あまり大きくはないテレビの方を向いた。

 今はニュースが流れている時間のようで、大きな黒い獣耳を頭につけたキャスターがスーツ姿で話している。

 彼らの頭に獣耳がなければ、ここが別世界だと決して思わぬほどに普段通りにも思える不思議な感覚。

 春くんが立ったままだった私に手招きをして、食卓の椅子を引いてくれる。どこかのレストランに来た時のような、もったいぶった仕草で。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 私がそうお礼を言うと、彼は顔を綻ばせ嬉しそうにはにかんでくれた。

 木製の食卓の上にあるのは、どこからどう見ても食べられている日本食だ。手ごねっぽいハンバーグに、野菜がたくさん入ったお味噌汁。

 私には、少し量が多いかなと思ったくらい。

「美味しい」

 貧乏学生の一人暮らしだから、自炊すると余計にお金がかかる。近くのスーパーやコンビニとか総菜などを適当に買って食事を済ませていた私の舌にいかにもな手作りの味が染みる。

「あ、ほんと? 口に合って良かった。いっぱいあるから、遠慮せずに食べてね」

 春くんは向かいの席に座って、頬杖をつきつつにこにこと笑い、私が料理を食べているのを嬉しそうに見る。

「これって誰が作ったの?」

「はい! 俺です!」

 はいはいと大きな手を上げアピールする春くんに、笑ってしまった。性格が明るくて、可愛い人。私は異世界に来てしまったはずなのに、どことなく大きな安心感があるのは明るい彼の存在も大きいと思う。

「料理上手なんだね」

「雄は自分が料理するのが、この国では通常だからね。向こうでは違うんだよね? でも、まさか人間の女の子に食べさせてあげられるなんて、全然思わなかったから、普通の食事だけど。もし、知ってたら、もっともっと豪華なのを用意してたよ」

 彼の話を聞きながら食事を食べ進める私を見つつ、春くんはしみじみとした様子で言った。

「食事の用意や身の回りの世話も、雄の役目だから何も気にせずに……」

「春、もう良い。お前は部屋に戻ってろ」

 テレビを観ていたはずの、理人さんの冷静な声が届く。対して春くんは口を尖らせて不満そうにえーっと言った。

「なんで。良いじゃん別に」

「この世界の状況を、彼女に伝えるのは、僕たちじゃない。お前もわかっているだろう?」

「……わかった。もう言わない。ごめんなさい。でも透子ともう少し一緒に居たい。どうせ明日にはもう会えなくなるんだし」

 しゅんとして項垂れた春くんに、理人さんは軽くため息をついた。

「……発言には気をつけろ」

 彼にそう言いおくと、動かなかった雄吾さんと同じようにテレビに目を移した。私もつられるようにテレビ画面をふっと観ると、テロップには日本語が並んでる。政治家の誰だかの汚職のニュースが流れていた。

 ……本当に、ここは日本じゃないの?
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

囚われの姫〜異世界でヴァンパイアたちに溺愛されて〜

月嶋ゆのん
恋愛
志木 茉莉愛(しき まりあ)は図書館で司書として働いている二十七歳。 ある日の帰り道、見慣れない建物を見かけた茉莉愛は導かれるように店内へ。 そこは雑貨屋のようで、様々な雑貨が所狭しと並んでいる中、見つけた小さいオルゴールが気になり、音色を聞こうとゼンマイを回し音を鳴らすと、突然強い揺れが起き、驚いた茉莉愛は手にしていたオルゴールを落としてしまう。 すると、辺り一面白い光に包まれ、眩しさで目を瞑った茉莉愛はそのまま意識を失った。 茉莉愛が目覚めると森の中で、酷く困惑する。 そこへ現れたのは三人の青年だった。 行くあてのない茉莉愛は彼らに促されるまま森を抜け彼らの住む屋敷へやって来て詳しい話を聞くと、ここは自分が住んでいた世界とは別世界だという事を知る事になる。 そして、暫く屋敷で世話になる事になった茉莉愛だが、そこでさらなる事実を知る事になる。 ――助けてくれた青年たちは皆、人間ではなくヴァンパイアだったのだ。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...