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53 決着②
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「おい! 止めろ! こんな……試合はもう終わっているのに!」
「ああ……すまない。俺は何もしていないのだが、魔法が暴走することもあるのかな。不思議なものだ」
それは、エルネストがやっている事は間違いない。それは、この場に居る全員が知っていた。けれど、この事も知っていた。
エルネストは真面目な性格で知られている王族だ。彼に何かをされたというサザールの意見など、無視されてしまって終わるだろう。
「すみません! 謝ります! 悪かったです! ……これで良いだろう?」
「誰に謝罪しているのかわかりません。名前がありませんよ。誠意を込めて謝罪してください」
イエルクは冷たく言い放ち、サザールは顔を歪めて私を見た。
「ロゼッタ……悪かった。止めるように頼んでくれ!」
哀れな声でそう言ったので、私は可哀想に思えてしまった。高慢な性格でプライドの高い兄サザールのこと、当分立ち直れないだろう。
ひと月ほどベッドで丸まっているかもしれない。
けれど、それもこれもなにもかも、全部自業自得なのだけど。
「エルネスト殿下。私は謝罪を受け入れます」
「……良いのか?」
なんならまだまだ苦しめることが出来ると言わんばかりのエルネストに、私は首を横に振った。
「ええ……十分過ぎるほどです。私に謝罪したなど、きっと当分苦しみますわ」
エルネストはイエルクに確認するように目で合図し、彼が頷いたのを見て、ようやく氷魔法を解除した。
◇◆◇
魔法学園対抗戦だけど、その後復帰したオスカーの活躍もあり、我らがアクィラ魔法学園が優勝することになった。
優勝賞品贈呈は王太子殿下からだ。わざわざ来てくれた王太子殿下の前で、汚れたローブのままという訳にもいかず、私たちは正装して出ることになった。
歓迎会で着たドレスに着替えた私は、会場前でオスカーに出くわした。
彼は私を庇って大怪我したことなどを思わせることなく、黒い髪は後ろへと撫で付け、身体に添うすっきりとした夜会服に身を包んでいた。
オスカーが帰って来てわかったんだけど、オスカーが一人居れば何人もすぐに倒してしまえるので、すぐに勝負はついてしまう。だから、ゲーム通りの展開であればスチル数枚で済んでしまえていたのだろう。
「ロゼッタちゃん。優勝して、嬉しい?」
誰かからサザールの事を聞いていたのか、オスカーが
「はい。オスカー先輩……あの、ありがとうございます。庇っていただいて……」
実際のところ、あれは私を狙ったサザールの仕業なんだけど、私を庇ってくれたことに代わりはない。
「俺の代わりに戦ってくれて、ありがとう。勇敢なロゼッタちゃんに感謝しかないよ……優勝賞品って、何なんだろうね?」
「私……王太子殿下にお会いするの、初めてです」
王太子殿下は色々あって魔法学園に通われていないしし、第二王子エルネストは良く知っているんだけど、王太子様は名前も知らない。
「あ。そうなんだ。俺はエルネストと一緒に居る時に、たまに顔を見るけどね。良い人だよ。優しくて。エルネストはお兄さん好きだけど、何をしても敵わないから複雑みたいだけどね」
「そうなんですか……」
そういえば、エルネストは兄である王太子殿下のことをそんな風に話していたかもしれない。
「まあ、俺ももしそんな完璧な兄が居たら、そうなるだろうから気持ちわかるけど……」
私たちが集合場所に近付くと、残りのメンバーが揃っていて、エルネストが不満そうな顔をしていた。
「……遅いぞ」
「ごめんごめん。入ろうよ。時間ギリギリだし」
オスカーは不機嫌なエルネストを軽い調子で宥めながら、会場に続く大きな扉を開いた。
「ああ……すまない。俺は何もしていないのだが、魔法が暴走することもあるのかな。不思議なものだ」
それは、エルネストがやっている事は間違いない。それは、この場に居る全員が知っていた。けれど、この事も知っていた。
エルネストは真面目な性格で知られている王族だ。彼に何かをされたというサザールの意見など、無視されてしまって終わるだろう。
「すみません! 謝ります! 悪かったです! ……これで良いだろう?」
「誰に謝罪しているのかわかりません。名前がありませんよ。誠意を込めて謝罪してください」
イエルクは冷たく言い放ち、サザールは顔を歪めて私を見た。
「ロゼッタ……悪かった。止めるように頼んでくれ!」
哀れな声でそう言ったので、私は可哀想に思えてしまった。高慢な性格でプライドの高い兄サザールのこと、当分立ち直れないだろう。
ひと月ほどベッドで丸まっているかもしれない。
けれど、それもこれもなにもかも、全部自業自得なのだけど。
「エルネスト殿下。私は謝罪を受け入れます」
「……良いのか?」
なんならまだまだ苦しめることが出来ると言わんばかりのエルネストに、私は首を横に振った。
「ええ……十分過ぎるほどです。私に謝罪したなど、きっと当分苦しみますわ」
エルネストはイエルクに確認するように目で合図し、彼が頷いたのを見て、ようやく氷魔法を解除した。
◇◆◇
魔法学園対抗戦だけど、その後復帰したオスカーの活躍もあり、我らがアクィラ魔法学園が優勝することになった。
優勝賞品贈呈は王太子殿下からだ。わざわざ来てくれた王太子殿下の前で、汚れたローブのままという訳にもいかず、私たちは正装して出ることになった。
歓迎会で着たドレスに着替えた私は、会場前でオスカーに出くわした。
彼は私を庇って大怪我したことなどを思わせることなく、黒い髪は後ろへと撫で付け、身体に添うすっきりとした夜会服に身を包んでいた。
オスカーが帰って来てわかったんだけど、オスカーが一人居れば何人もすぐに倒してしまえるので、すぐに勝負はついてしまう。だから、ゲーム通りの展開であればスチル数枚で済んでしまえていたのだろう。
「ロゼッタちゃん。優勝して、嬉しい?」
誰かからサザールの事を聞いていたのか、オスカーが
「はい。オスカー先輩……あの、ありがとうございます。庇っていただいて……」
実際のところ、あれは私を狙ったサザールの仕業なんだけど、私を庇ってくれたことに代わりはない。
「俺の代わりに戦ってくれて、ありがとう。勇敢なロゼッタちゃんに感謝しかないよ……優勝賞品って、何なんだろうね?」
「私……王太子殿下にお会いするの、初めてです」
王太子殿下は色々あって魔法学園に通われていないしし、第二王子エルネストは良く知っているんだけど、王太子様は名前も知らない。
「あ。そうなんだ。俺はエルネストと一緒に居る時に、たまに顔を見るけどね。良い人だよ。優しくて。エルネストはお兄さん好きだけど、何をしても敵わないから複雑みたいだけどね」
「そうなんですか……」
そういえば、エルネストは兄である王太子殿下のことをそんな風に話していたかもしれない。
「まあ、俺ももしそんな完璧な兄が居たら、そうなるだろうから気持ちわかるけど……」
私たちが集合場所に近付くと、残りのメンバーが揃っていて、エルネストが不満そうな顔をしていた。
「……遅いぞ」
「ごめんごめん。入ろうよ。時間ギリギリだし」
オスカーは不機嫌なエルネストを軽い調子で宥めながら、会場に続く大きな扉を開いた。
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