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52 決着①

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ーーーーその時に、私は不思議な力を感じた。温かな何かが、ふわりを私を全部包み込むような感覚。

 ロゼッタ・ディリンジャーは赤魔法を使う。これは、生まれた時の性質によるもので、彼女が選べるような話ではない。

 髪の毛や瞳の色と同じようなもので、それは変えられない。

 赤魔法の上級魔法を使うことは出来るけれど、それ以外の魔法は使うことは出来ない。だから、その時に私は補助魔法を誰かかが掛けたのかと思った。

 周囲を見渡してもそんな様子はないし、向こうの方で強敵と戦うエルネストや三年生の先輩たちだって、こちらを見る余裕すらない。

 もしかして……さっき身に付けた鷹が描かれた、あの指輪?

 右手を見れば青い光が取り巻き、まるでその中に居る鷹が動いているように見えた。

「……何? これ……」

 指輪が光を放っている。指輪の中に、封じられた魔法……? 私の、魔力を増幅させるような、不思議な光。

「ディリンジャー先輩!? どうかしたんですか?」

 近くに居る私の動きがおかしいと察したイエルクは、不思議そうにこちらを見ていた。

「なんでもない! あの結界に、穴を開けるわ!」

 私の赤魔法を一点集中させた。予想ではそこに小さな穴が開けば良い程度に思って放った魔法……それが、私たちに相対するグーフォの学生二人を囲む結界を焼き尽くすなんて、思いもしなかった。

「なっ……!」

「嘘だろ!?」

 彼らは驚いていた。申し訳ないけれど、私だって驚いていた。イエルクは驚いている彼らの隙をついて、杖を弾き飛ばし、手首を黒い蛇のようなもので捕らえると、審判に合図を送った。

 相手が戦闘不能だから、彼らを連れ出せということだ。二人が場外に運ばれるのを見ながら、私は指輪をじっと見つめた。

 なんだったの……? 今はもう青い光も見えない。何も感じない。

 けれど、この指輪は私に力を与えてくれた。

「……ディリンジャー先輩。この勝負は会長とお兄さんの、一騎打ちで決まります」

 イエルクに声を掛けられ、指輪に気を取られていた私は顔を上げた。見ていない間に、三年生の先輩たちがグーフォに勝利し、今戦っているのは、エルネストとサザールだった。

 二人とも実力は拮抗しているのか、純粋な魔力の強さで勝るエルネストが押しているものの、対するサザールは何個も風の刃を生み出し彼へと攻撃していた。

 二人の攻撃の応酬はリズムよくラリーのように続いていて、周囲を取り巻く私たちが何かしようものなら、エルネストに怪我をさせてしまいそうで加勢することも難しそうだった。

 もうすぐエルネストの勝利で終わるだろう。そう思って居た矢先に、顔を歪ませたサザールは客席に届くように風の刃をまき散らし、驚いたエルネストはそれを自分の魔力で防ごうとして広範囲に渡る氷の膜を作ったようだ。

「……危ない!」

 私が放った炎の矢は、サザールが不意をついて放った風の刃を壊した。

「卑怯な手を……」

 悔しそうにエルネストはつぶやき、サザールは素知らぬ顔で肩を竦めた。

「何を言う。単に手元が狂ったんだ。さあ、続けよう」

 サザールはなんでもない事のように、にやにやとした嫌な笑いを見せた。

 私はその瞬間、赤魔法を放ちサザールの結界を焼いた。半球の結界が紙のように焼かれものの見事に消え去り、その間に近付いていたエルネストは、サザールの膝を付かせた。

「終わりだ」

「いいや! まだだ!」

 サザールは地面から纏わり付く氷に身体を縫い止められるようにして叫んでいたけれど、誰がどう見ても勝負はついてしまっていた。

 ピー! っと高い笛の音が響き、審判の声が響く。

「……アクィラが勝利!」

 グーフォが全員戦闘不能になったことにより、アクィラは勝利。乙女ゲームの中では攻略対象者の格好良いスチル何枚かで終わるイベントなのに、すっごく苦労した。

 ぐったりしてしまった私はすぐに控え室に戻ろうとしたんだけど、イエルクが私の腕を取った。

「……イエルク?」

「ディリンジャー先輩。忘れていますよ」

 イエルクはまだエルネストの放った氷によって、動きを止められていたサザールに近付いた。

「謝ってください。僕らが勝ったんですから」

 イエルクは先ほどの約束で、サザールが放った暴言を私に謝罪させようとしたらしい。

 サザールは目を逸らし顔を背けて、素知らぬ顔だ。あんな拘束力もない口約束など、守る価値もないと思って居るのだろう。

「……イエルク。大丈夫よ。帰りましょう。オスカー先輩も心配だし……」

「おい。何の話だ?」

 審判との話が終わったエルネストは、まだここに居る私たちを不思議に思い、近付いて来たようだ。

「会長。この人はディリンジャー先輩のお兄さんだそうです。先ほどの風の刃も、敢えて狙いました。それに、先輩に許し難い暴言も!」

 イエルクは珍しく、怒りの感情を露わにして怒っていた。

 とは言っても、サザールは謝ることはないだろうし、

「あの……エルネスト殿下。すみません。けど、大丈夫です。私はいつもの事なので、気にしてませんし」

「……いつものことだと? 妹に、暴言を吐くのが?」

 エルネストはサザールを見て、不快そうな表情をした。氷が取り巻いていた兄の身体は、ゆっくりと凍っていくのが見えた。

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