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50 憎むべき敵①
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兄のサザールは妹ロゼッタの事が嫌いだ。というか、憎んでいる。
理由はわからないけれど、殺してしまいたいほどに憎悪している……?
それは、悪役令嬢ロゼッタの性格が悪くなるためだけの設定付けだったのかもしれないし、ゲームの内容なんて主要人物の軽い紹介くらいしかわからないから、ロゼッタの記憶を持っている私だってわからない。
けれど、あれは……どう考えても、やり過ぎだった。
身体能力が高いオスカーが庇ってくれたけれど、標的としていたロゼッタだけではなく、周囲に居る全員の命だって危なかったのだ。
あり得ない暴挙過ぎるし、絶対に許せない。
私が対抗戦が行われる闘技場にまで降りると、サザールが嘲るように声を掛けてきた。
「来たのか。ロゼッタ」
「……ええ。お兄様。よろしくお願いします」
相手にせずに私が冷静に返すと、サザールは私の事を睨んで尚も重ねて言ってきた。
「お前になんか、何も出来るはずがない。おこぼれで入れた生徒会でもどうせ、嫌われているんだろう」
鼻で笑ったサザールには何かの理由があって、妹のロゼッタを毛嫌いしているにしても、これは、あまりに酷すぎる仕打ち。
いくら中身が現代を生きた三十路でも、周囲の視線も気になってしまうような事を言われた。もし、これが普通にロゼッタが聞いていたら?
どれだけ何も悪くない妹を、傷つけるつもりなの。あまりに酷すぎるわ。
……私には何も言えないって、言わないってそう思って居るの?
「何を……」
「僕らが勝ったらディリンジャー先輩に、謝ってください」
私が言い返そうとしたら、イエルクが前に出て、サザールと相対していた。庇ってくれたイエルクの黒い背中を見て、私は冷静になれた。
「なんだよ。お前……家族の問題なんだから、関係ないだろ?」
「さっきの攻撃……手元が狂ったなんて、白々しい言い訳が通じるのは、一回だけですよ。二回はないです」
その時のイエルクは今までに、一回も聞いたこともない冷たい声を出していた。
そうよね……怒ってこんな場所で喧嘩しても、何の良いこともない。こんな兄なんて、一秒だって相手にしたくない。
「お兄様のお好きに言って貰っても構わないわ……早く、始めましょう」
開始直後にサザールがとんでもないことを仕出かしたのだけど、審判(レフェリー)は彼の言い分を信じてお咎めなしで進むらしい。
「ふん。アクィラに入った役目も果たさずにディリンジャー家に、何の利益ももたらさぬような男を引っかけたのか。エルネスト殿下には嫌われてしまって、何の話を聞いてももらえず可哀想なことになっていると聞いたが……本当のようだな」
私を庇いに来たのは、イエルクで……彼は、ドワーフに育てられた魔法使いで、確かに彼と結婚したからと政略的な意味での恩恵はないかもしれないけれど、成績は抜群で神童と呼ばれているのよ。
両親から関係を深めるように命じられていたエルネストについては、そういった意味で相手にされていないのは確かだけれど、最近は恋愛めいた事を言い出して迫らなくなったせいか、普通の会話ならば話してくれる。
今だって審判と話していなければ、紳士な彼は庇いに来てくれた可能性だって考えられるのだ。
サザールは私を似て嘲るように顎を上げたけれど、私は何もわかっていない振りをすることにした。
「まあ……お兄様。それってどういう意味ですか? 私は一度では理解仕切れず、申し訳ございません」
すまなそうに口に手を当てて、私は肩を竦めた。ここで私が何か言い返したり嫌な態度を取っても、サザールと共に私の評価が下がってしまう。
敢えてわからない振りをしているとサザールも周囲も思うだろうけれど、それで良いの。
色々と評価が下がってしまうのは、性格の悪い兄だけで良いわ。
「……お前、それわざとだろ? 生意気を言うのも、いい加減にしろよ」
私は聞こえない振りをして、アクィラの先輩たちの方向へ向かった。
理由はわからないけれど、殺してしまいたいほどに憎悪している……?
それは、悪役令嬢ロゼッタの性格が悪くなるためだけの設定付けだったのかもしれないし、ゲームの内容なんて主要人物の軽い紹介くらいしかわからないから、ロゼッタの記憶を持っている私だってわからない。
けれど、あれは……どう考えても、やり過ぎだった。
身体能力が高いオスカーが庇ってくれたけれど、標的としていたロゼッタだけではなく、周囲に居る全員の命だって危なかったのだ。
あり得ない暴挙過ぎるし、絶対に許せない。
私が対抗戦が行われる闘技場にまで降りると、サザールが嘲るように声を掛けてきた。
「来たのか。ロゼッタ」
「……ええ。お兄様。よろしくお願いします」
相手にせずに私が冷静に返すと、サザールは私の事を睨んで尚も重ねて言ってきた。
「お前になんか、何も出来るはずがない。おこぼれで入れた生徒会でもどうせ、嫌われているんだろう」
鼻で笑ったサザールには何かの理由があって、妹のロゼッタを毛嫌いしているにしても、これは、あまりに酷すぎる仕打ち。
いくら中身が現代を生きた三十路でも、周囲の視線も気になってしまうような事を言われた。もし、これが普通にロゼッタが聞いていたら?
どれだけ何も悪くない妹を、傷つけるつもりなの。あまりに酷すぎるわ。
……私には何も言えないって、言わないってそう思って居るの?
「何を……」
「僕らが勝ったらディリンジャー先輩に、謝ってください」
私が言い返そうとしたら、イエルクが前に出て、サザールと相対していた。庇ってくれたイエルクの黒い背中を見て、私は冷静になれた。
「なんだよ。お前……家族の問題なんだから、関係ないだろ?」
「さっきの攻撃……手元が狂ったなんて、白々しい言い訳が通じるのは、一回だけですよ。二回はないです」
その時のイエルクは今までに、一回も聞いたこともない冷たい声を出していた。
そうよね……怒ってこんな場所で喧嘩しても、何の良いこともない。こんな兄なんて、一秒だって相手にしたくない。
「お兄様のお好きに言って貰っても構わないわ……早く、始めましょう」
開始直後にサザールがとんでもないことを仕出かしたのだけど、審判(レフェリー)は彼の言い分を信じてお咎めなしで進むらしい。
「ふん。アクィラに入った役目も果たさずにディリンジャー家に、何の利益ももたらさぬような男を引っかけたのか。エルネスト殿下には嫌われてしまって、何の話を聞いてももらえず可哀想なことになっていると聞いたが……本当のようだな」
私を庇いに来たのは、イエルクで……彼は、ドワーフに育てられた魔法使いで、確かに彼と結婚したからと政略的な意味での恩恵はないかもしれないけれど、成績は抜群で神童と呼ばれているのよ。
両親から関係を深めるように命じられていたエルネストについては、そういった意味で相手にされていないのは確かだけれど、最近は恋愛めいた事を言い出して迫らなくなったせいか、普通の会話ならば話してくれる。
今だって審判と話していなければ、紳士な彼は庇いに来てくれた可能性だって考えられるのだ。
サザールは私を似て嘲るように顎を上げたけれど、私は何もわかっていない振りをすることにした。
「まあ……お兄様。それってどういう意味ですか? 私は一度では理解仕切れず、申し訳ございません」
すまなそうに口に手を当てて、私は肩を竦めた。ここで私が何か言い返したり嫌な態度を取っても、サザールと共に私の評価が下がってしまう。
敢えてわからない振りをしているとサザールも周囲も思うだろうけれど、それで良いの。
色々と評価が下がってしまうのは、性格の悪い兄だけで良いわ。
「……お前、それわざとだろ? 生意気を言うのも、いい加減にしろよ」
私は聞こえない振りをして、アクィラの先輩たちの方向へ向かった。
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