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49 攻撃②
しおりを挟む「……え?」
「あ……オスカー先輩……」
フローラは目に見えて震えて、怯えていた。
私も何があったのかと背後を振り返れば、身体能力の高いオスカーが、私たちの居る関係者席を庇うためにここまで移動して来てくれたらしい。
そして、彼の身体をもって鋭い刃のような風から庇ってくれて、多くの血を流していたオスカーは、駆けつけた救護班に治癒魔法を掛けられていた。
きっと……大丈夫だろう。これで、オスカーは最高級の治癒魔法が受けられるはずだ。
けれど、この事実はオスカーがもう魔法学園対抗戦には出られなくなったことを示していた。
今アクィラの面々には治癒魔法の使える人は居ないし、こうするしかないけれど、外部の力を借りると、出場する権利を失ってしまう。
これを計算したのか、サザールはその時に嘲るような表情を浮かべていた。
私がサザールを睨みつければ、仲間に何かを話していた兄は、素知らぬ顔をしていた。
手元が狂って攻撃する方向を間違えたとしても、それは対抗戦の一部であって、ここで観戦していた私たちに危害を加えようとした訳ではないと、そう言いたかったのだろう。
あのバカにしているような表情を見れば、これを故意にしたことは、一目瞭然の事実だと言うのに。
アクィラの生徒会にはあまり人数が居ないし、オスカーがここで退場することになれば、規定の人数から一人足らなくなってしまう。
「わっ……私が出ます!」
それを悟ったのだろう勘の良いフローラが自分が出ると手を挙げたので、私は慌ててしまった。
彼女が使えるのは、今のところは白魔法だけで、治癒能力に特化しているのだ。これから上級魔法が使えるようになると、結界魔法や色々な補助魔法を使うことが出来るようになるけれど、まだ入学したばかりだった。
つまり、今のフローラには自分の身を守る術を持たない。誰かが攻撃して来ても、それを防ぐことさえ出来ないのだ。
「いいえ。一人居ないよりは、マシです。私が出ます!」
一人足りないと、一人で二人の相手をすることになる。今の生徒会のメンバーは皆優秀だし、影の薄い三年生の先輩たちだってそれはそうなんだけど、そこから勝敗が決まってしまうことだって容易に考えられた。
「ロゼッタ先輩? けど……」
その時に、フローラは見るからに不安そうな表情を浮かべていた。
サザールの態度は分かりやすかったし、私と同じ位置に居た彼女も口には出さないけど、彼の意図がわかったと思う。
兄が妹の私を傷つけようとして、ここを攻撃魔法で狙ったという事実は。
「ねえ。フローラ。貴女は一年生でしょう? 私の方が上級生なんだから、私を出させて。大丈夫だから」
安心させるように私はそういうと、怪我をしたオスカーが運び出されていくのを横目に、杖を取り出した。
私の使う赤魔法は攻撃することしか、出来ないんだけど……ここでは、そうであった方が良いのかもしれない。
遠慮なく攻撃して来た相手を、やり返すことが出来るのだから。
「わかりました! 応援していますから。怪我をしないように気をつけてください!」
「ありがとう」
フロータにお礼を言った私は、会長のエルネストに目配せをしてから、会場へと降り立った。
そして、面白そうな表情のサザールと目が合ったので、彼を睨み付けた。
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