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40 行方不明②
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◇◆◇
パッと目を開けたその時、目の前が、真っ暗に思えた。やがて慣れて来た薄暗い視界の中には、洞窟の中にある湖らしき場所。
私は縁に位置して居て、浅い水の中から身体を起こそうとした。
「っ……ここは……?」
懸命に見回しても、誰もいない。エルネストと一緒に居て……急流に誤って落ちてしまい、私は洞窟の奥の方へと流されてしまったらしい。
微かに何処かから入り込む光を頼りに手探りで水に濡れない場所見つけ、その時に私は何かが手に当たったと感じた。
それは、洞窟に自然にあった石ではなく、人為的に作られた正方形の箱のようだった。
これが何か良くわからないけど、とにかく今は水に濡れた身体が寒い。それをぎゅっと握りしめたまま、私は意識を手放した。
次に瞼を開けた時、すぐそこにあるエルネストの顔が、私を覗き込んで居た。彼の背後には、光り輝く夜空が見える。
それで、私は自分たちが、あの洞窟の中に居ないということを知った。
「……エルネスト様っ……っ」
感極まって、涙がじわっとこぼれそうになる。自分の全身もびしょぬれになっているエルネストが、私のことを探して、あんな場所にまで助けに来てくれたに違いない。
「良かった……気が付いたのか」
心底安心した様子で、エルネストは呟いたので、私は本当にこの人は優しいんだと思った。
これまでにエルネストに対し、どれだけ嫌な思いをさせて、どれだけ恥をかかせたかを思うと、ロゼッタは彼にせいせいするとばかりに見捨てられていても仕方ないと思う。
転生した私がこうして記憶を取り戻して、彼への態度が改善出来たのなんて、つい最近のことだもの。
ここは洞窟の近くにある砂浜で、薪を集めて焚き火を焚いて、寒さで震えていた私を温めようとしてくれたみたいだった。
「……あ。フローラは……?」
ゆっくりと体を起こした私は、洞窟内で行方不明になっていたフローラのことを思い出した。
私たちは行方知れずになった彼女を探すつもりであの洞窟に入ったはずなのに、見事にミイラ取りがミイラになってしまった。
「おいおい……川に流されてしまったお前が、人の心配などをしている場合か。フローラならば大丈夫だ。既に見つかって、今は合宿所の方に居る。意識を失ったお前を運ぶために、オスカーとイエルクは担架を取りに行ったんだ。もし、君が頭を打っていたなら、なるべく揺らさない方が良いと思ってな」
どんなに嫌っていたとしても、私のために、完璧な采配をしてくれたエルネスト。
本当に王族たる王族だし、嫌われていたとしても、素敵な男性だと思う。
「あ……綺麗」
思わず言葉が出てしまったのは、波の合間にイルカが群れて泳いでいたのが見えたからだ。魔法界のイルカは何故か自ら発光し、夜の海の中に光るイルカが泳いでいる光景は幻想的だった。
「……お前とみても、ロマンスのかけらも感じないな」
「申し訳ありません……けど、綺麗ですね」
エルネストはここで自分に異常なくらいの執着を見せていたロゼッタに、勘違いされないようにと、牽制したかったのかもしれない。素っ気ない言葉に、私は謝罪を返した。
けど、彼が思ったいた通りの反応とは違ったせいか、エルネストは変な表情になっていた。
「本当に、ロゼッタなのか? ……調子が狂う」
エルネストの言いたいことは、私だって理解出来る。
急に自分に対する態度が180度変わってしまった私に、何があったのかを知りたいと思うことは、当然のことだろうと思う。
「エルネスト様は私のことをあまり良く思っていないと知っています。だから、大丈夫です。もう二度と付き纏ったり……エルネスト様が嫌だと思うことをしたりしませんから」
「……それならば、良い。勝手にしろ」
「はい……ですが、エルネスト様は、今回の件でも立派な方だと思いました。王族として、相応しい方です」
私の褒め言葉を聞いて、エルネストは変な顔をした。私もそれを見て、微妙な想いになった。
だって、せっかく彼の気に障らないように気をつけて褒めたのに……こんな顔されるって思わないよ。普通。
「……俺など……兄上に比べたら、平凡だ。それは、お前も良くわかっていると思うが」
エルネストの兄、王太子の話は、私も知っていた。魔法界の次期王たるその人は、絶大なるう魔力を持ち、その上で二つどころか、三つの属性を持っていると。
「エルネスト様は、もしかして、お兄様はあまり好きではないのですか?」
私にも血の繋がった兄サザールが居るけど、あまり好きではないなんてレベルはとうに通り越して、話もろくに聞いてもらえないし大嫌い。
「いいや……兄上は尊敬している。尊敬しているからこそ、兄上に対し俺は単純な好悪では、あの人へ向ける感情を表現出来ない。それでも、同じ親から生まれた兄弟なのにとは思う……ああ。やっと、帰って来たか」
私はエルネストが後ろを振り向いた視線の先を辿って、オスカーとイエルクが大きな担架を持ってきたのが見えた。
乙女ゲームでもエルネストのこんな独白を、聞いたことはなかった。
もしかしたら、ハッピーエンドの後でヒロインフローラにのみ伝えられる特殊な設定なのかもしれない。
……エルネストがそういう気持ちを臆さずに話出来る女の子が、現れたら良いと思う。
この時点でも、彼からの好感度が絶望的な私は、そう願うことしか出来ないけど。
パッと目を開けたその時、目の前が、真っ暗に思えた。やがて慣れて来た薄暗い視界の中には、洞窟の中にある湖らしき場所。
私は縁に位置して居て、浅い水の中から身体を起こそうとした。
「っ……ここは……?」
懸命に見回しても、誰もいない。エルネストと一緒に居て……急流に誤って落ちてしまい、私は洞窟の奥の方へと流されてしまったらしい。
微かに何処かから入り込む光を頼りに手探りで水に濡れない場所見つけ、その時に私は何かが手に当たったと感じた。
それは、洞窟に自然にあった石ではなく、人為的に作られた正方形の箱のようだった。
これが何か良くわからないけど、とにかく今は水に濡れた身体が寒い。それをぎゅっと握りしめたまま、私は意識を手放した。
次に瞼を開けた時、すぐそこにあるエルネストの顔が、私を覗き込んで居た。彼の背後には、光り輝く夜空が見える。
それで、私は自分たちが、あの洞窟の中に居ないということを知った。
「……エルネスト様っ……っ」
感極まって、涙がじわっとこぼれそうになる。自分の全身もびしょぬれになっているエルネストが、私のことを探して、あんな場所にまで助けに来てくれたに違いない。
「良かった……気が付いたのか」
心底安心した様子で、エルネストは呟いたので、私は本当にこの人は優しいんだと思った。
これまでにエルネストに対し、どれだけ嫌な思いをさせて、どれだけ恥をかかせたかを思うと、ロゼッタは彼にせいせいするとばかりに見捨てられていても仕方ないと思う。
転生した私がこうして記憶を取り戻して、彼への態度が改善出来たのなんて、つい最近のことだもの。
ここは洞窟の近くにある砂浜で、薪を集めて焚き火を焚いて、寒さで震えていた私を温めようとしてくれたみたいだった。
「……あ。フローラは……?」
ゆっくりと体を起こした私は、洞窟内で行方不明になっていたフローラのことを思い出した。
私たちは行方知れずになった彼女を探すつもりであの洞窟に入ったはずなのに、見事にミイラ取りがミイラになってしまった。
「おいおい……川に流されてしまったお前が、人の心配などをしている場合か。フローラならば大丈夫だ。既に見つかって、今は合宿所の方に居る。意識を失ったお前を運ぶために、オスカーとイエルクは担架を取りに行ったんだ。もし、君が頭を打っていたなら、なるべく揺らさない方が良いと思ってな」
どんなに嫌っていたとしても、私のために、完璧な采配をしてくれたエルネスト。
本当に王族たる王族だし、嫌われていたとしても、素敵な男性だと思う。
「あ……綺麗」
思わず言葉が出てしまったのは、波の合間にイルカが群れて泳いでいたのが見えたからだ。魔法界のイルカは何故か自ら発光し、夜の海の中に光るイルカが泳いでいる光景は幻想的だった。
「……お前とみても、ロマンスのかけらも感じないな」
「申し訳ありません……けど、綺麗ですね」
エルネストはここで自分に異常なくらいの執着を見せていたロゼッタに、勘違いされないようにと、牽制したかったのかもしれない。素っ気ない言葉に、私は謝罪を返した。
けど、彼が思ったいた通りの反応とは違ったせいか、エルネストは変な表情になっていた。
「本当に、ロゼッタなのか? ……調子が狂う」
エルネストの言いたいことは、私だって理解出来る。
急に自分に対する態度が180度変わってしまった私に、何があったのかを知りたいと思うことは、当然のことだろうと思う。
「エルネスト様は私のことをあまり良く思っていないと知っています。だから、大丈夫です。もう二度と付き纏ったり……エルネスト様が嫌だと思うことをしたりしませんから」
「……それならば、良い。勝手にしろ」
「はい……ですが、エルネスト様は、今回の件でも立派な方だと思いました。王族として、相応しい方です」
私の褒め言葉を聞いて、エルネストは変な顔をした。私もそれを見て、微妙な想いになった。
だって、せっかく彼の気に障らないように気をつけて褒めたのに……こんな顔されるって思わないよ。普通。
「……俺など……兄上に比べたら、平凡だ。それは、お前も良くわかっていると思うが」
エルネストの兄、王太子の話は、私も知っていた。魔法界の次期王たるその人は、絶大なるう魔力を持ち、その上で二つどころか、三つの属性を持っていると。
「エルネスト様は、もしかして、お兄様はあまり好きではないのですか?」
私にも血の繋がった兄サザールが居るけど、あまり好きではないなんてレベルはとうに通り越して、話もろくに聞いてもらえないし大嫌い。
「いいや……兄上は尊敬している。尊敬しているからこそ、兄上に対し俺は単純な好悪では、あの人へ向ける感情を表現出来ない。それでも、同じ親から生まれた兄弟なのにとは思う……ああ。やっと、帰って来たか」
私はエルネストが後ろを振り向いた視線の先を辿って、オスカーとイエルクが大きな担架を持ってきたのが見えた。
乙女ゲームでもエルネストのこんな独白を、聞いたことはなかった。
もしかしたら、ハッピーエンドの後でヒロインフローラにのみ伝えられる特殊な設定なのかもしれない。
……エルネストがそういう気持ちを臆さずに話出来る女の子が、現れたら良いと思う。
この時点でも、彼からの好感度が絶望的な私は、そう願うことしか出来ないけど。
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